ブロマンス映画という不確かなジャンルについて【定義と作品紹介】
私の好きな映画に『ブロマンス』というジャンルがある。
今回、ブロマンス映画についてまとめようとしたところ、この言葉が思っていた以上に色んな用途で用いられてる事を知った。
そこでこの記事では、ブロマンスの歴史から定義、どんな映画があるかについてまとめてみた。
1. ブロマンスの定義について
(1) ブロマンスの歴史
Bromanceという単語は、broもしくはbrother(兄弟)とromance(ロマンス)の混合語である。
スケートボード雑誌『BIG BROTHER』の編集者、デイヴ・カーニーによって四六時中一緒にスケートボートをしているような関係を指して作られたのが語源であり、90年代が発祥とされる。
しかし、意味合いとしてのブロマンスの歴史は大変古い。
紀元前300年頃に、アリストテレスが友情について書いた論文内でも、男性同士の強い友情についての記述が見られる。
アメリカでは、2004年に放映された『Entourage』(邦題『アントラージュ★オレたちのハリウッド映画』)という作品からブロマンスという言葉が認知されはじめ、日本では2010年頃から放映されたイギリスのTVドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』が、ブロマンスという言葉を広めた要因の一つとして考えられている。
(2)ブロマンスの言葉の用途について
ブロマンスという言葉は、映画、ドラマ、小説などの創作物に限らず、芸能界、政治、歴史など多岐にわたり用いられている。
ハリウッドでは、ベン・アフレックやマッド・デイモンの友人関係、ジョージ・クルーニーとブラットピットの関係を指して、この言葉が用いられている。
日本と韓国のエンタメ業界では、アイドルグループ間でのブロマンス(もしくはカップリング)をファンサービスの一環として、積極的に取り入れてる例もみられる。
ヨーロッパでは、男性バンド間でブロマンス関係を築き、ファンから組み合わせの造語をつけられてるケースもあるらしい。
政治の世界でもビル・クリントンとアル・ゴアの関係がブロマンスと評されたり、聖書のダビデとヨナタンの完成性をブロマンスの原型と捉える見方もある。
以上のことから、「ブロマンス」という言葉は広い範囲で用いられてる(凡庸性が高い)ということが分かる。
(2) 定義について
ブロマンスの定義は、2人もしくはそれ以上の人数の男性同士の近しい関係のこと。性的な関わりはないものの、ホモソーシャルな親密さの一種とされる(Wikipediaより)とある。
だが調べてみると、ブロマンスの定義は個々によって解釈の異なる、非常に曖昧かつ広範囲に及ぶ事が分かった。
私は、ブロマンスは、BL(ボーイズラブ)、つまり同性愛とは異なるものだと考えている。異性愛者同士の単なる友情とも違う、親友と呼ぶに近い関係、絆、もしくはそれに近しいものだと思っている。
ただし、同性愛者と異性愛者の間柄でもブロマンスと捉える考え方もある(その関係をブロモセクシャルと呼ぶ)
ブロマンス漫画として有名な『BANANAFISH』で知られる漫画家の吉田秋生先生は、映画『真夜中のカーボーイ』(1969年)を鑑賞して以来、「恋愛でない感情で結びつく」ことを作品を描くテーマの一つとしている。これは恋愛関係ではない「魂の結びつき」に惹かれたからであると語っている。
また、人によっては、ブロマンスは、BLというカテゴリに含まれる考え方も見受けられた。(これはブロマンスの延長線上はBLに変化するかもしれないという考え方に基づいている)
実際、ブロマンス映画を紹介しているサイトを見ると、男同士の切なくも美しい恋愛映画『君の名前で僕を呼んで』(2017年)や『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017年)をブロマンス映画として紹介していたりもする。
さらに、そもそも友情ではなくライバル、もしくは宿敵という関係もブロマンスに含まれるという考え方もある。
分かり易い例だと、少年漫画の主人公とライバルキャラの関係(『DEATH NOTE』のライトとキラの関係性)が挙げられたり、闘いを経てお互いを認め合った関係(『キン肉マン』、『ドラゴンボールZ』)なども含まれると考えられる。
このような関係は、上記で挙げた吉田秋生の「魂のむすびつき」という意味合いに近いとも考えられる。友情とは異なるが、お互いに強く執着しているという意味で、ブロマンスと捉えることができるだろう。
上記の事から、(1)で述べた言葉の用途の範囲の広さと合わせて考えても、ブロマンスという言葉は、凡庸性が高すぎて、明確に定義しづらい状況にある事が分かった
私個人の意見としては、日本におけるブロマンスという言葉は、男性同士のエモーショナルな関係全般を指す意味で使われてると定義したい。
2. ブロマンス映画の種類
ブロマンス映画と一括りに言っても、その数はとても多い。加えて、ブロマンスは上記で述べたように、複数の捉え方が存在するため。ここでは以下の条件に沿って、紹介していきたい。
(1) 友達、幼馴染等、常に行動を共にしている
ここでは幼い頃からの友人、親友など、普段から行動を共にしている関係性の2人が出てくる映画を3作品紹介したい。
良好な関係だった2人が、映画を通じて関係性が変わってくるの見どころだ。
【ショーン・オブ・ザ・デッド】
ゾンビ映画をパロディ化したホラーコメディ。主演のショーンとエドは小学生の時からの親友。ゾンビ化した世界を舞台に、ショーンとエドを含む生き残りグループが、生存をかけて奮闘するというあらすじ。
登場人物全員がポンコツで、ゆるい展開がとにかく楽しい。
日本でも非常に高い人気を博しており、もともと劇場公開はされてなかったが、2019年3月にTOHOシネマズにて劇場公開された。
ブロマンスとしての見所は、ショーンとエドの関係。この作品は、ショーンとエド演じるサイモン・ペグとニック・フロスト主演のもと、エドガー・ライト監督の体制で製作された3部作の1作目。2作目が『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2007年)、3作目が『ワールズエンド・酔っ払いが世界を救う!』(2013年)。
監督は違うが、サイモン・ペグ脚本、サイモン・ペグ、ニック・フロスト主演の作品の『宇宙人ポール』(2011年)もある。
注目したいのは、劇中で仲良しコンビのショーンとエド演じる、サイモン・ペグとニック・フロストは、現実でも親友同士という事だろう。フィクションでも現実でも仲良しという事で、ブロマンス作品としても注目すべき作品だ。
【ブラインドスポッティング】
アメリカでも危険な場所として有名なオークランド。そのオーグランドで生まれ育った2人の青年の姿を通して、アメリカに存在する、自分からは見えない視点=盲点(ブラインドスポッティング)を描き出す。
ブロマンスとしての見所は、白人青年マイルズと黒人青年コリンの親友関係。同じオークランド出身という事で、肌の色関係なく、幼い頃から親友だった二人。
しかしコリンが遭遇したある事件をきっかけに、同じだと思っていた二人の間にある壁が浮き彫りになっていく…というあらすじだ。
この映画、シリアスとコメディのバランス具合が素晴らしく、作品全体としては明るくポップな雰囲気なのに、テーマには社会問題がしっかり組み込まれている。人種問題だけではなく、オークランドを舞台に街の変化や貧困の問題も取り入れてあるのに、観てて押しつけがましくない。
本作がオバマ大統領の2018年の映画のベストに入ってるのも納得。エンターテイメントと社会性が融合した素晴らしい作品だ。
【ウィズネイルと僕】
俳優兼監督でもあるブルース・ロビンソンの半自伝的作品で、登場人物は全て実在の人物をベースにしている。イギリス、アメリカではカルト的な人気があり、日本ではミニシアターで限定的に公開されたのみで、DVDなどソフト化されなかった事もあって、長らく幻の作品となっていた。
映画は1960年代の時代の一つの時代が終わろうとしてる頃のロンドンが舞台。売れない役者のウィズネイルと僕。うだつのあがらない日々に嫌気がさした僕は、ウィズネイルの叔父が持っている田舎のコテージで過ごそうとするのだが…というあらすじ。
上で挙げた『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)のショーンとエドの2人もぼんくら2人組だったが、こっちは人として駄目な2人(特にウィズネイル)。この2人の共依存ともいえる関係がブロマンスとしての見所。
部屋は汚いし、天気は常にどんよりしてるし、その当時のイギリスの時代性も相まって、映画全編の雰囲気は退廃的なのだが、それが逆にお洒落という不思議な作品。観る人を選ぶタイプの作品であると思うが、ラストは観る人を切ない気持ちにさせてくれる。
(2) 事件などのキッカケによって、行動を共にしている
本来なら出会うことのない2人が、ひょんな事をきっかけに一緒に行動を共にすることになってしまった。ここではそんな3作品を挙げたい。考え方など全く異なる、本来なら相容れそうにない2人が、映画を通じて仲良くなっていくのが見所だ。
【最強のふたり】
頚髄損傷で身体の首から下が不自由になってしまった大富豪フィリップと、その介護人ドリスの交流を描いた物語、フランスの実話が元となっている。
大富豪と移民の貧民層の青年、お互い普通に生きていたら、恐らく出会わなかったであろう2人。
物語は、フィリップがパラグライダーの事故で、首から下が動かなくなってしまったため、自身の介護人を雇うために複数の候補者の面接を行うことにする。そこに来たのが刑務所から出所したばかりのドリスだ。
国からの保護を受けるためだけに来たドリスは、フィリップに面接で早く落とすようにいう。フィリップはドリスの正直さと破天荒さを気に入って雇うことに決めるのだが…というあらすじ。
フィリップとドリス、お互い性格もバッググラウンドも全く異なる2人の組み合わせが面白い。真逆だからこそ、一人ではしないであろう事をしたり、互いの考え方に影響を及ぼしたりする。二人の依頼者と介護人の関係を超えた友情こそがブロマンスポイントと言えるだろう。
「障害」というテーマに対し、深く切り込みながらもポップに仕上げてる点も本作の魅力といえるだろう。本作は、2011年の第24回東京国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞のダブル受賞もしている。映画好き関係なく、誰にでもお薦めしたくなる素晴らしい作品だ。
ちなみに本作は2019年に『THE UPSIDE 最強のふたり』というタイトルでリメイク版が公開されている。筆者は未見のため、お薦めできないが、気になる方はこちらから観てみるのもありかもしれない。
【21ジャンプストリート】
警官となった高校生の同級生コンビが、ドラッグの密売が横行する高校に潜入捜査するアクション・コメディ映画。主演は『マネーボール』(2011年)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2014年)のジョナ・ヒルと『マジック・マイク』(2013年)、『キングスマン ゴールデンサークル』(2018年)のチャニング・テイタム。
実はこの映画、アメリカで1987年に放送した同名シリーズのテレビドラマをリメイクした作品でジョニー・デップの出世作。ジョニーをはじめとする童顔の警官らが、様々な事件が行われてる高校に潜入捜査するという内容だ。ちなみにジョニー・デップは今作でもほんの少しカメオ出演している。
このドラマのリメイクに声を挙げたのは、本作の主演をつとめたジョナ・ヒル。監督は、『LEGO(R)ムービー』のフィル・ロード、クリストファーミラーのコンビ。コメディ映画常連のジョナ・ヒルが出演してるだけあって、本作はバカバカしさ満載のコメディとなっている。
主人公の2人はスポーツ万能で人気者のリア充と冴えないオタクキャラという全く逆のタイプ。普通なら仲良くなりそうもない2人が高校への潜入捜査を通じて絆を紡いでいく姿は、まさにブロマンスといえるだろう。
本作は、続編の『22ジャンプストリート』(2014年)が製作されたほか、主人公を女性コンビに置き換えたスピンオフ映画の製作が報じられたり、更に新作の『24ジャンプストリート』(どんな内容の作品かは、現時点では明かされていない)の製作も発表されたりなど、本国でも大人気のシリーズとなっている。
頭からっぽで映画を観たいとき、笑いたいときなんかに特にお薦めしたい作品だ。
【コードネームU.N.C.L.E】
東西冷戦の最中の1960年代前半、核兵器によって世界を滅亡させようとする国際犯罪組織に対し、アメリカのCIA工作員ナポレオン・ソロとソ連のKGB工作員イリヤが手を組んで、陰謀を阻止しようとする。
この作品も、上で挙げた『21ジャンプストリート』と同じく、アメリカで1964年から放送された『0011ナポレオン・ソロ』というドラマのリメイク作品となっている。
主演のナポレオン・ソロ役をつとめるのは、『マン・オブ・スティール』(2013年)、『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年)のヘンリー・カビル、イリヤ役は『ローン・レンジャー』(2013年)『君の名前で僕を呼んで』(2018年)のアーミー・ハマー。
凄腕だが女に弱いソロと真面目だが短気なイリヤという凸凹コンピの組み合わせは、ブロマンスの王道ともいえるだろう。監督が、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1999年)、『スナッチ』(2000年)、『アラジン』(2019年)のガイ・リッチーなので、映像や演出がスタイリッシュでお洒落。また『エクス・マキナ』(2016年)、『リリーのすべて』(2016年)のアリシア・ヴィキャンデルがとてもキュートなのも見どころの一つと言える。
サクッと気軽に見れるので「映画観たいけど、重いものはちょっと…」という気分の時にこそお薦めしたい
(3)宿敵、愛憎含んだ関係性
ここでは、前述したようなライバル、もしくはそれを経て仲が深まった関係などを描いた映画4作品を紹介した。会話などを交わす場面の少ない2人だが、それでも2人の間にしか描けないような絆が生まれてるのがみどころだ。
【キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン】
1960年代に世界各地で様々な職業を偽り、小切手偽造事件を巻き起こした天才詐欺師のフランク・アバグネイルと、彼を追いかけるFBI捜査官カール・ハンラティとの追跡劇を描いた物語。フランクの自伝『世界をだました男』を基にした実話がベースとなっている。
監督は『ジュラシックパーク』(1993年)、『レデイ・プレイヤー1』(2018年の)スティーブン・スピルバーグ。主演は『タイタニック』(1997年)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)のレオナルド・ディカプリオ、共演は『フォレスト・ガンプ一期一会』(1994年)、『ハドソン川の奇跡』(2016年)のトム・ハンクス。
世界中を華麗に逃げ回るフランクと、いつもギリギリの所まで追い詰めながら逃げられてしまうカール、2人の関係は、まさにルパン三世と銭形警部。スピルバーグ監督の軽妙な演出も相まって、リアル版ルパン三世を観ているかのよう。
序盤こそ詐欺師と、それを追いかけるFBI捜査官という関係だけの2人だが、物語が進むにつれて2人の間に繋がりのようなものができてくる。それを象徴するのがクリスマスの場面、フランクが大胆不敵にもカールに電話をした時の、カールの台詞、「話し相手がいないんだろう?」。
嘘で人生を塗り固めているフランクが、唯一、本音を話せある相手、それがカールだった。その後もクリスマスという日は2人にとって、重要な場面となってくる。
両親が離婚し幸せな家庭に憧れをもつフランクと、妻と離婚し娘にもろくに会えてないカール、2人の関係は疑似親子のようでもある(ちなみに本作は、実際の事件を元にしているが、カールという人物は存在せず創作のキャラクターである)。
世界を代表する2大俳優と名監督の組み合わせ、ブロマンス関係なくとても面白い名作なので、気になる方は是非観て欲しい。
【ヒート】
ロサンゼルスを舞台に、ニール率いる犯罪のプロ集団と凄腕刑事のヴィンセントの追跡劇を描く。監督は『コラテラル』(2004年)、『パブリック・エネミーズ』(2009年)のマイケル・マン。自身が1989年に監督したTV用長編ドラマ『メイド・イン・LA』のリメイク作品。
プロフェッショナル同士の戦い、男という生き物の悲哀と意地…これこそ、まさに男が惚れる映画といえるだろう。クライムアクション映画を撮ることにかけて定評のあるマイケル・マン監督だが、今作の演出はリアルさを徹底しており、撮影前に役者たちは実弾による射撃訓練を受けていたり、実際の銃撃音を使用するなど撮影に関する逸話が数多く存在する。
白昼でのニール達と警察の銃撃戦の本物さながらの迫力は、本作の最も大きな見所の一つだ。
そして映画を引き立てるのが、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノという2大豪華俳優の共演。犯罪のプロと凄腕の刑事をどちらも魅力たっぷりに演じている。刑事と犯罪者、本来なら相容れない筈の2人が、劇中で唯一会話を交わす場面がある。
そこから見えてくるのは、プロフェッショナルだが孤独な男の同士の魂の交流。交わる筈のない線が交錯する場面は、まさしくブロマンスポイントといえるだろう。
ちなみに、この場面、デ・ニーロの提案で、リハーサル無しで演じたらしい。その甲斐あってか間や緊張感がリアル。
クリストファー・ノーラン監督は『ダークナイト』(2008年)を撮るに辺り、今作を参考にしたと公言しており、徹底したリアルな演出や2人の男の対立などからは本作の影響を伺い知ることができる。
まだ幼い頃のナタリー・ポートマンが出演していたりする点も見どころの一つと言えるだろう。上映時間は171分と長めだが、一度観始めたら、その長さも気にならなくなるくらいハマる事間違いなしの作品だ。
【青い春】
とある高校を舞台に、三年生になった不良達のそれぞれの生きざまを描かれる。本作は『ピンポン』、『鉄コン筋クリート』などで知られる漫画家の松本大洋の同名の原作を元にした作品。
短編集の中の一編、『幸せなら手をたたこう』をベースに、作品内の他の短編と織り交ぜて映画化している。書いてて気付いたが松本大洋の作品はほとんどがブロマンスに該当している。
出演は『探偵はBARにいる』(2011年)、『船を編む』(2013年)の松田龍平、『犬猿』(2018年)、『台風家族』(2019年)の新井浩文、『パッチギ!』(2005年)、『さんかく』(2010年)の高岡蒼佑、『ナイン・ソウルズ』(2003年)の大柴祐介、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の山崎裕太。
他にも、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年)、『まほろ駅前多田便利軒』(2011年)の永山瑛太(旧芸名:瑛太)や、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、『ヘヴンズストーリー』(2010年)の忍成修吾、『バトルロワイアル』(2000年)、『イエスタデイズ』(2008年)の塚本高史、『ナイン・ソウルズ』(2003年)、『下衆の愛』(2016年)の渋川清彦(旧芸名:KEE)など、今の日本の演劇界を代表する役者達が一堂に会していた作品という事でも注目できる。
本編は群像劇なのだが、その中でも注目したいのは、松田龍平演じる九條と新井浩文演じる青木の関係の変遷。幼なじみの2人だったが、高校の番長を決める「ベランダ・ゲーム」で九條が新たな番長になった事で、2人の関係が徐々に崩れていく…というストーリー。
見所は、劇中での青木の変貌っぷり。今でこそ強面の役の多い印象の新井浩文だが、この作品の序盤では、まだ初々しい気のいい役どころを演じている。しかし、九條との些細な諍いをきっかけに、徐々にいかつい姿へと変貌していく訳だが、その変わりどころが素晴らしい。
新井浩文はこの作品で、高崎映画祭の最優秀新人男優賞を受賞している。青木がここまで変貌するのが、九條に対する執着心というのも一つのブロマンスと言えるだろう。
本作の豊田利晃監督はどの作品もロック音楽との親和性が非常に高いのが作風の特徴の一つ。今作ではTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの楽曲を劇中にしているのだが、『不良×ロック』の組み合わせが抜群にハマっている。オープニングの『赤毛のケリー』や終盤の『ドロップ』が流れる場面は、演出も相まって、観る者の心を鷲掴みにするくらい格好いい。この場面だけでも何度も観てしまいたくなるほどだ。
新井浩文の逮捕などで、なかなかお薦めしづらい作品になってしまったが、邦画の名作であることは間違いない作品。格好良いロックな作品を見たいなら本作は必ず観るべきだと言っておきたい。
【L.A.コンフィデンシャル】
舞台は1950年代のロサンゼルス、マフィアのボス逮捕をきっかけに、混乱をきわめる暗黒街、警察内部の腐敗を描きながら、猟奇殺人事件の犯人を追う3人の刑事を描く。
監督は、『ゆりかごを揺らす手』(1992年)、『8mile』(2003年)のカーティス・ハンソン。主演は『グラディエーター』(2000年)、『ナイスガイズ』(2017年)のラッセル・クロウ、『メメント』(2001年)、『アイアンマン3』(2013年)のガイ・ピアーズ、『アメリカン・ビューティー』(1999年)、『ベイビー・ドライバー』(2017年)のケビン・スペイシー。
原作は「アメリカ文学界の狂犬」の異名を持つジェイムズ・エルロイの「暗黒のL.A.」の4部作の3作目にあたる。アメリカで1947年に起きた「ブラック・ダリア事件」を扱った1作目の『ブラック・ダリア』は、ブライアン・デ・パルマ監督によって、2006年に映画化されている。
ラッセル・クロウ演じるバド、ガイ・ピアーズ演じるエド、ケビン・スペイシー演じるジャック、それぞれ全く異なるタイプの刑事達が追っていく事件が一つになっていく展開はカタルシスがあって、刑事映画としても非常に面白い。
ブロマンスとして注目したいのは、バドとエドの関係性。この二人は、まさに水と油の関係でお互いに憎しみあっている。しかし奇しくも2人が追いかけていた事件が、交錯することで、互いに協力せざるを得ない関係になっていく。
そして終盤の展開。この2人の間に生じたであろう、まさしく絆と呼ぶべき関係がブロマンスと呼べるし、関係性の変化自体が、カタルシスになっている。ラッセル・クロウの出世作となった本作は、作品自体の評価も高くてお薦めだ。
3・ブロマンスとロードムービーの相性について
今回、「ブロマンス映画」について調べてみると、ブロマンスはロードムービー作品に多く見られることに気が付いた。作品数の多さから、ロードムービーとブロマンスは相性が良いという事が伺える。
これは、旅という題材と友情というテーマが描きやすいということかもしれない。ここでは6作品紹介したいと思う。
【ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア】
「海を見たことはあるか?」、余命いくばくもないと診断された2人の男は、病院を抜け出し海に向かう。道中、強盗事件を起こして警察から追いかけたり、盗んだ車の持ち主のギャングに狙われる2人は無事に海にたどり着けるのか?
「天国では誰もが海の話をするんだぜ」、この導入から何ともお洒落。
「死」というテーマを扱うと、どうしても湿っぽくなってしまいがちだが、2人の旅は、警察に追いかけられたり、ギャングに狙われたりと波乱万丈で悲壮感を感じさせない。このあっけらかんとした雰囲気が良い。
はじめはマーチンに引っ張られる形だったルディが道中でマーチンを助ける場面はまさにブロマンス。それまでは共に「余命わずか」という共通点で繋がっていた2人が、旅の道連れからパートナーへ変わった瞬間といえるだろう。
ラスト、たいして綺麗でもない海を眺めてる2人のショットは、最高に格好良いし、ボブ・ディランの「Knockin' on Heaven's Door」が流れ出してからのエンディングは完璧。筆者が、ブロマンス映画で一番好きな作品でもある。
【愛しのタチアナ】
1960年代のフィンランドを舞台に、男2人組が突如旅に出る。道中、2人の外国人女性を拾いながら彼らの旅は続く…『過去のない男』(2002年)、『希望のかなた』(2017年)などの作品で知られるフィンランドの鬼才、アキ・カウリスマキ監督の作品。主演はカウリスマキ作品常連のマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネン。
コーヒー中毒のバルトとロックンローラーのエレイノ。無口で表情が変わらない登場人物とシュールな演出で独特の作風を確立してるアキ・カウリスマキ監督だが、今作も一風変わった作品となっている。
2人が旅に出る理由もよく分からないし、バルトが母をクローゼットに閉じ込めたまま旅にでるもの可笑しい(ちなみに劇中での時間経過が分からないけど、ずっと閉じ込めたままだったのだろうか?)
道中で出会うことになる2人の女性、これが普通の作品だとロマンスだのトラブルなどありそうなのだが、この4人、ほぼ会話をしないのである。このアキ・カウリスマキ特有の演出も独特の可笑しみを生み出している。
そんな不思議な作品なのだが、終盤のバルトとエレイノに訪れる転機、この場面が切ない。人を選ぶ作品なことは間違いないが、筆者は大好きな作品。
【ジム・キャリーはMr.ダマー】
リムジンの運転手をしているロイドは、空港まで送り届けた美女メアリーに一目惚れをする。彼女が置き忘れたスーツケースを届ければ、彼女と親しくなれると考えたロイドは、友人のハリーを連れて旅に出るが、その二人を後を尾行する怪しい影があるのだった…
監督は『メリーに首ったけ』(1999年)、『グリーンブック』(2019年)のピーター・ファレリー。主演は『マスク』(1995年)、『エターナルサンシャイン』(2005年)のジム・キャリー、共演は『101』(1997年)、『イカとクジラ』(2006年)のジェフ・ダニエルズ。
コメディ俳優として、最も脂がのっていた時期のジム・キャリー出演作だけに、バカバカしさと下らなさが最高。本作によって新境地を開拓したジェフ・ダニエルズのとぼけた演技も最高で、言ってしまうと、2人のイチャイチャっぷりを微笑ましい気持ちで見守る映画とも言える。劇中ではなかなかえげつない事がおきてるけど、2人が楽しそうだから、まあいいかという気持ちにもなるから不思議。
本作は本国でカルト的な人気をあり、何と2015年には20年ぶりの続編『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』も公開されている。気になる人はそちらもチェックして観てほしい。
【グッバイ、サマー】
14歳の男の子2人によるロードムービー。女の子のような見た目で、周囲から馬鹿にされてる画家志望のダニエル、ある日、クラスに変わり者の転校生テオが越してくる。周囲から浮いた者同士、意気投合した2人はうんざりするような毎日から抜け出すために、ある計画を立てる。それは夏休み中にスクラップで造った改造車で旅に出る事だった…
監督は、『エターナル・サンシャイン』(2005年)、『僕らのミライへ逆回転』(2008年)のミシェル・ゴンドリー。
ポップでファンタジーな映画を撮らせたら、定評のあるミシェル・ゴンドリー監督らしく、見た目はメルヘンチックで可愛らしい。
ただ、本作はミシェル・ゴンドリーの自伝的作品という事もあって、可愛らしい見た目と違い内容はなかなかシビア。2人を取り巻く環境は観てて、胸が痛くなるものがある。ひと夏だけの少年同士の交流。終わり方はなかなか切ないが、Theフランス映画という感じで好き。
【ジ・エクストリーム・スキヤキ】
長らく疎遠だった大川と洞口。2人は再会したことをきっかけに、大川の彼女の楓と、洞口の昔の恋人の京子の4人で、何故か海でスキヤキをしに行くことになって…
監督は、劇団「五反田団」主宰で、『横道世之介』(2013年)の脚本、『ふきげんな過去』(2016年)監督の前田司郎。主演の大川を演じるのは、『光』(2017年)、『止められるか、俺たちを』(2018年)の井浦新、洞口を演じるのは『GO』(2001年)、『沈黙 サイレンス』(2017年)の窪塚洋介。
ポンコツ男女4人のオフビートなロードムービー。カタルシスを感じるような展開があるわけではなく、ひたすらゆる~い雰囲気(個人的には、三木聡監督の作風を更にマイルドにしたような印象)は、観る人を選ぶかもしれない。筆者は休日のお昼にだらだらと見るのに相応しい映画の一つと思っている。
この映画の見どころの一つが、井浦新と窪塚洋介の共演。この2人の組み合わせというと映画『ピンポン』(2002)のペコとスマイルを思い出す人も少なくないのではないだろうか。今作は、実に『ピンポン』以来の11年ぶりの再共演となっている。
気ままで人たらしの大川と、彼に振り回される洞口のコンビが何とも良い感じ。『ピンポン』を知ってる世代、また2人の全盛期(90~00年代初頭)を知ってる人にとっては、ある意味懐かしさを感じるような作品になってるとも言えるのではないだろうか。
【アリーキャット】
元ボクサーの朝秀晃(マル)は、ある日、可愛がってた猫の疾走をきっかけに、自動車整備工の梅津郁巳(リリィ)と知り合うことになる。そんな折、マルは、バイト先の警備会社の依頼で、ストーカーに悩まされる土屋冴子のボディガードをする事になる。ひょんな事から、ストーカーを殴ってしまったリリィを巻き込んで、3人は東京へ向かうが…
主演のマルを演じるのは、『GO』(2001年)、『沈黙 サイレンス』(2017年)の窪塚洋介、リリィを演じるのは、ロックバンド「Dragon Ash」の降谷建志。監督は、『捨てがたき人々』(2014年)、『木屋町DARUMA』(2015年)の榊英雄。
『ジ・エクストリーム・スキヤキ』に引き続き、再び窪塚洋介主演作の紹介を。今作は、窪塚洋介と降谷建志のバディもののクライムムービー。
映画の見どころは何と言っても、この2人の共演という点だろう。「池袋ウエストゲートパーク」に「Dragon Ash」、おまけに共演が市川由衣という事で、ある一定の世代には、刺さりまくる配役となっている。
マルとリリィ、最初こそ険悪な雰囲気から始まる2人だが、物語を通じて相棒と化していくさまが、王道のバディムービーであると共に、ブロマンスとも言える。しかし、何気に、今作で一番ハマっているのはストーカー役を演じた品川祐だと筆者は思う。リアルな気持ち悪さが絶妙にハマっていたりする。
【最後に】
いかがだっただろうか、ここまでブロマンスというジャンルに当てはまる映画を16作品紹介したが、ブロマンスという要素自体は、前述のとおり、非常に凡庸性が高い。それゆえに、自分にとって刺さるブロマンス作品というのは人によって違ってくるはずだ。
なので、ブロマンスに焦点をおいてない映画でも劇中にブロマンスの要素が見受けられる事は多い。ここで挙げた作品は、ほんの一例なので、興味ある方は、ぜひ色々探ってみてほしい。自分の好きなタイプのブロマンス映画に出会えるかもしれない。
この記事が参加している募集
読んでいただきありがとうございます。 参考になりましたら、「良いね」して頂けると励みになります。