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【子供のままじゃいられない】映画『お引越し』感想

映画配信サービスJAIHOで鑑賞。
ちょうど相米慎二監督作品の配信が始まっており、この機会に観てない作品を観ようと鑑賞。ずっと前からお薦めされていたこの作品をようやく観ることができた。

『お引越し』は1993年に公開された日本映画。
ひこ・田中の同名作品を原作にした作品で女優・田畑智子のデビュー作でもある。

両親の離婚に振り回される11歳の少女の心境と成長を描いた物語。

1993年製作/124分/日本

田畑智子演じるレンコの明るく屈託のないキャラクターと、コミカルな演出でファミリーコメディくらいの雰囲気で観ていたが、後半になるにつれ予想以上にセンチメンタルな物語だということに気付かされた。

これは「無邪気な子どものままじゃいられなくなった子供」の話だ。

レンコは徐々に子供から大人の階段を上がっていくことになる。クラスの両親が離婚した転校生との友情、終業式の日の立てこもりなど、様々な経験がレンコを変えていく。

バイクの上で「もうあかんの?」と父に問う場面はグッとくる。
大人の身勝手さに振り回されるのはいつも子供なのだ。

「早く大人になるから」なんて言葉に言わせちゃいけないよ…レンコをもう少し子供のままでいさせて欲しかった。

顕著なのが、旅先でレンコが一人で夜を彷徨う場面。
現実と幻想が入り混じるような街並みも幻想的で美しいし、今の日本ではもう観られなくなった「日本」の情景が素晴らしい。これはレンコにとっての子供から大人への通過儀礼の場面といえる。

本作はカンヌ国際映画祭のある視点部門に出品されたらしいが、こうしたオリエンタリズムな部分は海外では特に評価された部分だと思う。
(なお公開から30周年の2023年には、4K デジタルリマスター版が第80回ヴェネツィア国際映画祭のクラシック部門で上映。最優秀復元映画賞を受賞した)

湖でみる幸せな3人の幻影と「おめでとうございます」は子供時代への決別だろう。

役者陣の演技も素晴らしい。
今作がデビューの田畑智子の演技と存在感は素晴らしいの一言。序盤と後半での子供と大人の表情の違いには目を見張る。

小学校のクラスメイトはいわゆる子役じゃなく本当の子供たちを起用したのかな?洗練されてない現実味があった。
いかつい格好をした(ただ中身は優しいお父さん)中井貴一の姿も新鮮だった。後、今作が最後の出演作となった桜田淳子の存在感も良い。

『お引越し』、確かに評判通りの傑作だった。今現在、JAIHOで配信中なので気になる人はお薦めです。


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