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初めてのお茶会で感激した話

written by Hiroshi Kawajiri(下鴨ロンド・シェアメイト)


一座建立 いちざこんりゅう
茶事や茶会の際、茶会に招いた亭主と招かれた客の心が通い合い、とても心地のよい空間が生まれること。茶道で大切にされる精神の一つ。


それは下鴨に住む建築家・Iさんを下鴨ロンドに招いて食事していた時のことだった。茶室や数寄屋の設計を主とするIさんが茶道を学んでいるということを知った時、「ここでお茶会をしませんか?」とお願いしてみた。下鴨ロンドのシェアメイトやボランティアには茶道に関心のある人たちも少なくないからだ。
Iさんは快諾してくれた。
しかもお願いしておきながらなんだが、私は茶道未経験者だ。なので具体的な内容はIさんに全てお任せしてしまった。


今回は初心者の参加も見込まれることから大寄せのお茶会のようにはせず、懐石も含む茶事のような組み立てで行うことになった。
またアットホームな集いにするという目的もあり、参加枠は10名とした。
早速LINEグループで告知すると社会人から学生まで、そして茶道教室に通うベテランから未経験者まで様々なメンバーから申し込みがあり、その枠はあっという間に埋まった。さすが京都!




6月某日、この日の京都は生憎の雨模様。
開始は正午だが、亭主を務めるIさんやお詰めをしてくれるTさんは9時過ぎには下鴨ロンドにやって来て、準備に取り掛かった。


やがて時間になると参加者も集まり、Iさんの「そろそろ始めましょうか」という声でみんなが和室に座った。席順は茶席の経験を考慮して、Iさんが事前に決めてくれている。
和室にエアコンは無いが、雨のためか夏にしてはそれほど暑くはなく、ただ扇風機の羽だけが静かに音を立てていた。


初対面のメンバーも多いことからまずは自己紹介。
その後、Iさん、Tさんが給仕する懐石からお茶会は始まった。


お弁当は料亭「下鴨福助」の色がさね弁当。


八寸はカラスミと水茄子。


お猪口一杯であるが日本酒「松の司」も入り、会話も弾み出し、始めは少し固かった雰囲気も和やかになってきた。


続いてお菓子は茶寮「宝泉」の雨あがり。


初座の掛軸は亭主が所有するオットー・ワーグナーのポートフォリオ。参加者に建築関係者が多いことからの選定である。



ここで中立ち。


お点前は14:00からスタート。


抹茶は福岡八女市星野村「星野園」の星の昔。
水は亭主自ら賀茂波爾神社 かもはにじんじゃ(赤の宮)まで汲みに行ってくれたそうだ。

風炉先屏風は下鴨に住んでいた池田遙邨の小襖を見立て。
水差は京都生まれの陶芸作家・明主航の作。
釜は雲龍釜。


茶杓は金沢の茶人で、茶室の設計などもした越沢宗見作。
建水は亭主がシンガポールにて入手したヤシの実。
蓋置は韓国で餅菓子を作る時に凹凸の模様をつける餅型(トクサル)。
棗は駒沢利斉作の名古屋松尾流家元花押。


お茶碗は亭主が各地から集めた10客を用意し、事前に聞いていたパーソナルデータを元に、その人にあったお茶碗でお点前してくれた。


お茶碗の持ち方や飲み方、亭主や次客への言葉など初心者には戸惑うことばかりだったが、経験者の皆さんが教えてくれて、そんなやり取りもまた楽しかった。


後座の茶花は舟板に宗旦。


約3時間のお茶会はあっという間に終了した。




お茶会を終えての私の最初の思いはIさんへの感謝だった。お茶会はもちろん楽しかったが、何よりIさんの心づくしや気配りに感動し感激したのである。
多分参加した皆さんもそれを感じたのではないだろうか? だから始めの懐石から最後のお手前まで終始和やかな雰囲気だった。


この準備のためにIさんはどれだけの時間を費やしたことだろう?
飲み会の席とはいえ、気軽にお茶会をお願いしたことが申し訳なく思うほどの"準備"だった。


Iさんは、
「亭主七分に客三分。準備することは疲れたけど楽しかったです!」
「お茶というと細かな作法を守らなければならない堅苦しいものというイメージを持つ方も多いと思いますが、亭主と客の直心の交わりが最大の醍醐味なのではと思います。そんな魅力の一端でも感じていただけたのであれば大変嬉しく思います」
と言ってくれた。


茶道の世界には一座建立という言葉があるそうだが、正にそれを体感したお茶会だった。


Iさん、そしてお詰めをしてくれたTさん、改めて感謝申し上げます。
ありがとうございました!



他の参加者のコメントも紹介。

お茶会、和やかで居心地よく、とても良い時間を過ごさせていただきました。また、下鴨ロンドの新しい風景を見せていただいたように思います。

心尽くしの会をありがとうございました!
もうずっと感動しっぱなしでした。下鴨ロンドでの本格的な茶会、夢でしたがこんなに素敵な会を開いていただけるなんて!

美味しいお弁当にお酒、そして一人ひとりに合わせたお茶碗でお茶をいただくことができ、幸せな時間でした。

オットー・ワーグナーのポートフォリオのお軸に、椰子の実の建水、土地土地から集められたお品に、好奇心をそそられるお話、とても楽しい時間を過ごさせていただきました!リラックスした雰囲気でのお茶会、Iさんのお心遣いやご一緒させていただいた皆さんのお人柄ゆえと思います。

お食事、お茶、お菓子、道具など全てに心配りを感じ、心地よく、あっという間でした。みなさんともご一緒できて、普段の稽古とはまた一味違うお茶の楽しみの広がりを感じることができました。

初めてのお茶の経験でしたが、お道具、お食事、所作などに込められた意味や美学が感じられ、お茶の世界を少し覗けたような気がしました。わからないことも親切に教えてくださりありがとうございました。凄く楽しかったです!

作法などよく知らずの参加でも色々と教えていただきながらのお茶会で本格的でありながら和やかな雰囲気で安心しました。みなさんも話の引き出しが多く会話を聞いていてとても楽しかったです。
せっかく京都にいるのでまた今後も色々なお茶会に行ってみたいと思います。

手間や時間をかけられた入念なご準備、一人一人への心遣いに感動しました。
他者をもてなすお茶の心に少し触れることができたように感じています。これを機に少しずつお茶を学んでいきたいと思いました。




余談だが、下鴨ロンドのメンバーには一つ嬉しい驚きがあった。
今回のお茶会により、普段何気なく使っている和室が粋な しつらえになり、上品で豊かで整った表情を持っている部屋なのだと気付かされたことだ。見慣れた部屋だが、新しい可能性を知ることができた良い機会でもあった。

Iさんによれば、建築の世界では戦後「床の間追放論」が唱えられたり、現代の住宅には床の間がほとんど無くなってしまったが、お茶の世界ではまだ当たり前のように床の間があり、それをいかに飾るかというノウハウが伝わっているそうだ。


実は下鴨ロンドの和室には(まだ使えないけど)炉も切られてある。
床の間もちゃんとある。
そして徒歩圏内に「福助」や「宝泉」のようなお店もある。

つまりお茶会を開く環境にはとても恵まれているのだ。

ということで是非またお茶会を企画したい。
(ってか、誰か手挙げてくれないかな?)



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