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ネタ鉄は団体戦


今回の問題意識

溢れかえる撮影者、並び立つ三脚に脚立、ポジショニングのために飛び交う声。
珍しい列車の撮影現場に行けばお馴染みの光景となりました。魅力的な被写体が減少する一方で日に日に増加する撮影者、世はまさに大ネタ鉄時代。場所取り、雛壇、隙間産業、ノーファインダー、様々な方法で大勢の撮影者が至高の瞬間を己のカメラに収めようと奮闘していますね。その列車は今日しか走らないですし、その撮影条件は今日しか実現しませんから、失敗は許されないわけです。最大限いいものを持って帰りたい。誰もがそう思って現場に出向いている。だからこそ平和に、安全に撮影を遂行し、同じ志を持った他人を不幸にする事なく、できれば周囲にかかる迷惑もないまま終えたいものです。
それでも人が多ければ何かしらのトラブルが発生しやすくなる。希望の立ち位置が空いていない、前列の目線が高すぎる、隣の人が自分の機材にぶつかる、誰かの画角に干渉する、変な所に駐車して通行妨害になる、云々。そうなれば現場の空気は悪くなるし、場合によっては当局や公権力のお世話になってしまう。なるべくならそういう事態は避けたいと思う人も居るでしょう。ゆえに私は思うのです。ネタ鉄は団体戦であると。

前提

まぁ前提として撮り鉄は個々人の趣味であり集合行動であるというのは忘れずに。
ちなみに集合行動【collective behavior】とは個々人の自由意志に基づいて行動した人々が結果的に同じような行動をとっている状態で、個人間の紐帯とは無関係に発生するものです。「集団行動」とは別で、こちらは予め集団内の共通認識を持ったうえで同じ行動をとることを意味します。で、撮り鉄というのは本来的に前者なんです。○○が撮りたい、という意識を個々人が抱いて沿線の撮影地に行くと、同じ目的を持った他人と遭遇する。そこに居合わせた人々とは本来なんの繋がりもない。そのうち顔見知りになったり親密な関係になったりするケースも多々あるものの、撮影地にいる全員が示し合わせてその場に集まるわけではないですから。また、以前言及した撮影スタイルによっては自分の撮りたいイメージを優先したり、個人の美的感覚に依存した撮影を行ったりするので完全に個人ベースの行動になりますね。

ただ、現在多くの撮り鉄が参加し一種のトレンドになっているネタ鉄(特に編成写真)の場合、完全な単独行動や集合行動では成立し得ないと私は考えるのです。

ネタ鉄の理想の形?

ネタ鉄という概念も実際は曖昧な気がして、臨時で運転される珍しい列車に限らず、数を減らす国鉄型車両が定期列車として走る路線での撮影もこれに近い状況に今なっているので(381系とかキハ40系とかEF65とか)、定番アングルでの撮影となれば配給とか試運転とかを撮るネタ鉄に限った話ではないでしょう。

撮影地には大なり小なりキャパシティがあり、そこで撮れる人数には限界があるものです。そして、需要と供給の逆転現象が起きて各地で撮影者が飽和する現象が起きている昨今のネタ鉄事情において、撮影地のキャパシティには常に余裕がないと考えるべきです。ポジショニングについて色々ほざいた回でも述べましたが、そうなればそこに居る全員が協調体制をとってキャパシティの最大化とスムーズな行動で可能な限り大勢が納得できる形で被写体を迎え撃つということが理想像になるのではないでしょうか。ベンサムの最大公約数の原理です。
自分の好きなように撮りたいとか、もっと気楽にやりたいとかいう気持ちは否定しませんし否定する権利もありません。でもそれを大勢の撮影者がいる有名撮影地でやったら、当然ながら大勢の撮影者に迷惑をかける場合がありますね。それで最終的に自分自身も損するので、良い事ありません。ある程度妥協して端っこで撮るとかできる場合もありますし、それで納得できるならその人の自由だとは思います。

ただ、別の記事でも述べた記憶がありますが、グレーゾーンに立脚して活動している撮り鉄は本来的に迷惑な存在であるという心構えを忘れてはなりません。それでも撮影できているのは、多少の迷惑は世間が目をつぶってくれているからであり、そのためにも周囲にかかる迷惑をどれだけ最小限に留めて撮影できるかが肝であると言えるのではないでしょうか。法を守るとかいう問題ではなく(不法行為を擁護する意図はない)、首尾よく立ち回るという事です。つまり、撮影者同士で揉めているようでは話になりません。世間体を気にしすぎたら撮り鉄なんてできませんが、せめて同じ現場にいる他の撮影者に対する迷惑ぐらいは考えて行動したいと思いませんか? 自戒も込めて言えば、一人の非Vカットのために大勢のVカットが無駄になるような行為は慎んで然るべきと考えます。

連帯の重要性を感じた現場

昨年10月下旬、10号車のないE531系が郡山で検査を受けるために配給輸送されるという珍しいネタ列車が走りました。この時、沿線で最高条件の撮影地となった水戸線のとあるストレートでは数名の有識者によって整地と場所取りが事前に実施されていました。私はそうした事前準備に直接は関与しませんでしたが、複数の知り合いからその手の話を伺って私と身内の者を数名混ぜていただけることになりました。そのため、撮影に先立って周囲に撮りたい人が何人いるかを確認して現場のキャパシティと照合し、当日は先方と調整した上で綺麗に雛壇を構築することができました。来る人来る人がどこかしらで繋がりを持って各々で事前協議をしていたこともあり、スムーズなポジショニングができていました。また、事前準備の中で地主様に交渉してお墨付きを頂いていた方もおり、そのおかげで大人数でもあぶれる事なく構えられていましたし、天気も良かったため全員で優勝することができました。事後もゴミのポイ捨てや忘れ物防止を互いに呼びかけ合って「立つ鳥跡を濁さず」でしたし、ネタが走れば何かしらの炎上がついてくる昨今の撮り鉄情勢を鑑みると大成功と言えるでしょう。

ただ、雛壇が概ね完成したタイミングで事前に話を聞いていない知り合いが1名現場にやって来て、残り少なくなっていた立ち位置を迷走して某有名撮り鉄から注意されていました。本人の弁解を踏まえて解釈すると、行くか行かないかを直前も直前まで決めかねていたため周囲に便宜を図ることもせずに当日を迎え、現場に居る知り合いに交渉すれば隙間産業ぐらいさせてくれるだろうと考えたのかもしれません。
しかし現場には100人規模の雛壇が出来上がり、適正ポジションには隙間産業する余裕もなかったため迷ってしまった。そのため雛壇の前列付近でウロチョロしているところを先客に叱られてしまったのです。最終的に前ローアン組に隙間産業してどうにかポジショニングできていましたし、結果も全員が納得できる形で収束しましたが、事前準備を重ねて雛壇形成をしていた方々への心象はよろしくなかったですし、私としても知り合いが少々お騒がせしてしまった事を申し訳なく思いました。いや、今更その人を責めるとかじゃないです。あくまで例として取り扱っているだけです。

事例を踏まえて

ネタ鉄は情報ソースが限られているため人から教わらない限り被写体へのアプローチができないため、ある程度撮影経験を重ねれば同志の繋がりも自然と生まれます(ぶっちゃけ被写体のジャンルを問わずこの現象は起きる)。そのため紐帯の強弱はあれど大きな連帯として集団行動が可能になるのです。そうであるならば、ネタ列車をVに決めたいという共通の意識のもとに撮影者同士が事前に連帯してONE TEAM(古いか)となって撮影に臨むこともできるはずですし、それが実現すればトラブルもなく炎上もないでしょうし、皆でVな写真が撮れて😸ハッピーハッピーハッピー♪になれます。

鉄のトラブルの大半は、相互コミュニケーションの欠如(不足)によって発生するものと考えます。ですから撮影の際に「この列車をここで撮りたい」という意思表示を身近な有識者に対して行うだけでも効果があるのではないでしょうか。なおかつ、現場では上手い(単に写真の上手さのみならず諸々の経験値が高い)方々が中心になって統制し、我々はそれに従って駐車やポジショニングなど行っていく必要があると思います。まずは親しい間柄の小規模なコミュニティ内で共通認識を作り、人脈に長けた人が調整役となって現場の統制権を担う有識者に繋ぐ事で、撮影地の雛壇全体という一つの大きな集まりでも調和の取れた集団行動へと発展していくのです。現場での行動はもちろん、事前にどれだけの準備ができるかも大きなウエイトを占めますね。

そうすれば、(少なくとも定番撮影地で撮っている限りは)個々人が勝手に動くよりも満足度の高い結果がもたらされるのではないでしょうか。それこそカマス北側でカシオペアが緊急停止したような、明らかにダメなやり方を強行する人もいなくなる気がします……ってさすがにこれは夢見すぎ?

しかし、というかだからこそ、そういう大人数の現場を避ける撮り鉄が一定数いるわけですし、彼らの価値観も理解しています。他の撮影者に配慮するのは気疲れするし、そうして撮ったところで得られるアングルはわかり切っているし、Vへのアプローチというのは必ずしもそういうパニる撮影地に行く事だけではないわけですから。何なら私自身も今ではそうやって定番を外して撮る方々と同じ目線で被写体を見る事の方が多くなった気がします。同業者とのコミュニケーションは楽しいですが、自分の表現に磨きをかけたいと思うようになったので。

あとあまり話題になりませんが、車で撮影地に行くときも、事前に知り合い同士で示し合わせた上で乗り合いにして台数を減らせば駐車スペースを圧迫せずに済みますよね。上記の現場では駐車トラブル防止の声かけも行われましたが、この手の議論が起こらないのは有事の時に同乗者が損害を被り運転者への責任も重くなるとか、そういう問題を抱えているからでしょうか?

書いた事全部が全部私個人の身勝手な妄想であり絵空事なのは重々承知しておりますが、せっかく志を同じくして線路際に集う仲間(広義)なんだから、一致団結して平和に優勝したいと思う気持ちは間違いであってほしくないと思います。そのためには当然、私自身も気を付けなければならない事が多々ありますので、日々精進して参りたいと思います。皆様には今後とも御指導・御鞭撻のほどよろしくお願い致します。

1.ONE TEAMとはラグビーW杯が日本で開催された2019年の流行語大賞です。
2.🐱ハッピーハッピーハッピー♪とは2024年2月時点で流行している「猫ミーム」の一説であり、喜びの気持ちを表現する際に用いられる傾向があります。
3.本文はすべて私個人の見解であり、界隈の総意とは一切関係ありません。


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