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ニキ構図はVか?

前回江ノ電ニキに言及したので、そのついでにあの写真に関して私の見解を述べておきます。

そもそも江ノ電ニキとは何か?というところは割愛します。今更いう事じゃないし、事件の内容はネットに掃いて捨てるほど転がってるので。「江ノ電自転車ニキ」で検索。ていうかウィキペディア出来てて草。

ここで問題となるのは、あの写真の是非についてです。バッシングする事だけが大好きで予備知識や写真論を毛ほども知らない烏合の衆がこぞっていうのは「むしろ良い写真」「味が出ている」云々。まあ私も大学の写真部員に直接言われた事あります。アレはアレで良いじゃん、って。
ちなみに江ノ電は幼少期の頃に沼に嵌って以来のファンで今も定期的に撮りに行っていますが、件の300形試運転は撮りに行っていません。しかし仮に私もあの場に居たら彼等と同じく落胆と憤慨の気持ちを露にしたであろうことは言えます。なぜならアレは紛れもなく失敗だからです。

まず、あの場に居た鉄のほとんどは試運転障害と呼ばれる撮り鉄の中で最も写真写りにうるさい人種です。ニキが乱入しなくても立ち位置によってはケツ横にトラックが裏被りしていたので、その時点で(彼等にとっては)減点されるのです。また305Fが掲げていた「試運転」の行先板も、複数あるデザインの中で最も簡素なやつだったらしく、それがお気に召さない人も一定数いました。

問題の江ノ電自転車ニキ、ケツ横に見えるトラックは編成写真においては失敗要因

試運転障害は個人的には編成写真家の一派に分類できると思っています。このグループの特徴はとにかくアングルに強い拘りを持つ事で、撮り鉄の中でも比較的「過激派」であると外からは思われるかもしれません。鉄道写真の基本的な撮り方である編成写真に関してだけでも数千字書けてしまうので敢えて深掘りはしませんが、少なくともあの場に居た人々が狙っていたのは編成写真、すなわち車両を主体とした写真だった事は断言できます。
編成写真の構図は極めてシンプルですが、完璧な物を撮るのは非常に高難易度な行為で、それなりの技術も必要とされます。そして、編成写真は撮影者の技術以上に外的要因に大きく左右されるため、どれだけセンスや技術がある人でも必ず撮れるというわけではないのです。

編成写真は車体がはっきり写る事が大前提。その上で光線状態・面とサイドのバランス・背景を考慮して撮影場所を決定。要するに場所が9割です。これはサイドに寄りすぎですね
曇りですが個人的にかなりうまくいったと感じているやつ。立ち位置は構図に大きく影響します

車両を主体に撮るというのは、裏を返せば邪魔な物は一切排除しなければならないという事です。常に多少の妥協が必要ですが、車体を遮る物体はなるべく少ない方が好ましいのです。ケツ横のトラックを妥協したとしても自転車が手前に来られたら元も子もありません。
あの場所は日中に撮ると背景がうるさいため編成写真に向いているとは言えませんが、夜になると背景の構造物が暗闇に溶け込む事で光源に照らされた線路を走る車体がくっきり浮かび上がるため、夜間に行われる江ノ電の試運転でバランスの良い編成写真を撮影できる唯一の沿線撮影地だったのです。

車体を遮るものは例えば架線柱や雑草も含まれる。複線区間のサイド構図では架線柱はどうしようもないので、それ以外の障害物を極力排除しようという思考になる。これは草が邪魔ですね

では、人が写り込む事が一切許されないのでしょうか?当然そうではありません。もちろん「味わいがある」写真を撮るという時は人を写す事もあります。しかしその場合は編成写真とは大きく異なる撮り方をしなければならないのです。例えば、


初投稿でさんざん語ったSL大樹と、それに手を振る子供。
これは鉄道風景写真の一種です。

写真に限らず芸術作品においては主題・副題という概念があります。編成写真は車両そのものが持つ様式美の表現であり、面:サイドの黄金比を追求した表現でもあります。肖像画を描く時に角度を重視するのと同じです。主題は車両ただその一点。副題は存在しません。
鉄道風景写真は、かえって車両の存在のみでは成立せず、その周囲の物を写して撮ります。また、この撮り方では車両が主題にならない事が多いです。多くは副題として画面の中に登場します。もちろん、車両の存在は欠かせません。主題と副題を合わせて初めて成立する写真なのです。上の写真は子供を主題とし、SLには脇役になって貰っています。しかしSLの存在を前提とした撮り方であり、ある程度の主張は必要です。
せっかくなので江ノ電の写真を数点。それぞれ何が主題で何が副題かを考えてみて下さい。

問題の現場にも近い腰越。ピントを電車に合わせつつ、往来をフレームに取り込んで商店街の賑わいを演出したつもりです
満福寺の門から参道を望む。線路を渡って詣でる寺院として有名な場所です
とある路地。紫陽花の横を電車が掠めて行きます
真夏の午後に訪ねてみたら日差しを避けてくつろぐニャンコを見つけました

ニキの写った写真を評価している外野の皆さんにも見て欲しいです。確かにアレは良い写真なのかもしれませんが、それは話題性とか記録性という観点からの評価であって肝心の「風情」ならこういう写真の方がよく演出できてるんじゃないでしょうか?
まあ、結論としては教養のない外野の面々のコメントは全く説得力を持たないので我々は聞く耳を持たないですし、好きなだけ叩いといてください。この話題もいずれは撮り鉄がらみの事件の一つとして歴史に刻まれ、昔話になっていくだけなので。

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