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夏の思い出

夏の思い出

私は小学五年生の頃に
大阪から父の実家に近い田舎に
引っ越した。

夏休み明けの引っ越しと
勝手に思っていたが
子供の事情なんで全く関係なく
中途半端な6月後半に
引っ越しすることになった。

そのおかげで
なかなか友達に馴染めず
そのまま夏休みになってしまった。

友達もいない新しい地での夏休みは
本当にすることもなく
朝から近くの神社で絵を描いたり
涼しい図書館で本を読んだり
知らない場所を探検したり
なんとなく1人で過ごしていた。

夏休みも半ば過ぎて
この地域特有の夏祭りがあった。

細かいことは知らないが
小学高学年から大人の女性が
綺麗な伝統衣裳を着て
夜に踊る祭りだった。

私は1人で祭りを観に行き
その踊りの列をボーっと眺めていた。

踊りの列は自分の学校の地域となり
そこには普段と違う薄く化粧をした
クラスメイトたちが並んでいた。

するとその列の中にいた
一度しか話したことのない女の子が
周りにわからないように
恥ずかしそうに
私に向かって小さく手を振っていた。

女の子と目が合って
時間がゆっくり流れているかのように
感じた。2人だけの秘密のように感じた。

私は初めてドキドキした。
祭りの笛や太鼓が鳴っているのに
周りに私の心臓の音がバレそうだった。

もちろん私は手を振り返せなかった。

雨上がりの匂いと
提灯の灯りに照らされた
日に焼けた彼女は本当に綺麗だった。

私はただ呆然と立ち尽くしていた。
美しい旋律が映画なら流れていただろう

夏の夕暮れや夏祭りを見ると
そのシーンをいつも思い出す。
多分、死ぬ前にも思い出すだろう。

甘酸っぱい思い出なので
初恋ということにした。

色褪せてはいるが
思い出はいつまでも美しい。

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