日本写真史の目次と序文を眺める

ふたつの日本写真史

https://www.heibonsha.co.jp/book/b639160.html

↑戦前、戦後の日本写真の歴史を把握したくてこれを買いました。

「日本写真史 写真雑誌1874-1985」(平凡社)
金子隆一
戸田昌子
アイヴァン・ヴァルタニアン


リサーチのために分厚い歴史の本を手に取る時、大抵は図書館でさらーっと全体を見たあと目当ての項目を数十ページコピーして終わりなんですが、これはさすがに写真家としてじっくり通読しなくちゃいけない気がしたので、学生時代に気分を戻し(武蔵美では全然まじめに歴史の勉強しなかったけど)(重厚長大な専門書を読み解く授業より、素敵なエッセイみたいな語り口で四方山話をする授業を選びがちだった……)読んでいこうと思っています。

まずタイトル。英語版がGOLICAから先に出版されておりタイトルは「Japanese Photography Magazines, 1880s to 1980s」のみ。つまり日本語版で二行めに小さく記載されている「写真雑誌1874-1985」がほぼ原題ですが、日本語版では「日本写真史」というメインタイトルが追加されています。(あれ?年号が違う なんでだ(不明))

日本語版の版元、平凡社から1971年に出版された「日本写真史」を意識してのことだそうです。

昭和に刊行された「日本写真史」は、1968年開催の「写真100年-日本人による写真表現の歴史展」を母体として編集されたものです。展覧会の実行委員長は濱谷浩。編纂員には多木浩二や中平卓馬、今井寿恵も名を連ねています。書籍の編集・執筆は東松照明、多木浩二、内藤正敏が担当。錚々たるメンバーです。古本屋で安かったのですぐ入手(写真右

まずざっと開いてみます。
昭和版日本写真史の目次は、デザインの主張は強いですが内容はシンプル。

昭和版の目次

  • A 黎明期

  • B 開花期

  • C 営業写真

  • D 戦争の記録Ⅰ

  • E 芸術写真

  • F 展開期

  • G カメラの眼

  • H 広告と宣伝

  • I 戦争の記録Ⅱ

  • J 写真表現の自由と規制の歴史

  • K カメラと感光材料の発展


写真機が日本に持ち込まれた時代から、技術も含めて写真全般の歴史を語っているもようです。
前半はテキストがなく、島津斉彬の鶴丸城(安政年間)から始まり、年代順に写真とキャプション、扉ページだけで見せていってます。博物館を眺めているような……

で、後半からどっしりテキストと年表パートが始まりますが、序文の冒頭はいきなりこんな感じ。

写真100年の歴史は、それほど見事な人間精神の軌跡を示すものではないが、それは全体としては、近代を生きてきた日本人の生活や現実を、さまざまに深浅の度合いはあれ、響かせる空間をつくっている。しかし、この総体をただちに現実の歴史に対する記録と考えてはならない。
(中略)
これらの歴史を、写真表現の歴史全体に対しては、一種の前史的な段階を形成しているものと考えるようになった。
(中略)
これらの行程が、戦争ーー敗戦という出来事のなかで完全に破産したあとに、戦後の写真表現は深い断絶に根ざした裸の眼で新しく世界を見つめ始めたが、このような眼が生まれてくるところには、断絶とともに、ある種の文化の連続性を見出さないわけにはいかないのである。この連続性のなかで捉えたときに、戦前までの写真表現の全体を前史的というのであって、それは単なる過小評価ではないのである。

「日本写真史」:「はじめに」

ふう……なんかもう既に表現者としての様々な懊悩を感じておなかいっぱいになってきました。


続いて令和版日本写真史の目次を開くと、もっとおなかいっぱいになります。デザインは現代っぽくシンプルですが、内容はだいぶ変わってます。
章タイトルの下に、掲載図版の作者、タイトル、掲載誌、掲載年がすべて記載されています。すごい……。
平凡社のサイトで目次は全部見ることができます。目的の図版がある人はすぐ見つけられるから便利……?

一番大きいタイトルだけ抜き出すと
第1部 近代化時代の芸術写真
第2部 新たな国の新たな写真
第3部 マスメディア時代における写真

現代から振り返る近代史、とりわけ戦後の復興とメディアの関係が語られてそうな感じがします。

なぜ日本の写真は、これほどまでに膨大なテキストを生み出すことになったのだろうか。
(中略)
たとえば、戦後日本では、写真家は自分の作品の流用や誤解を避けるために、意思表示をする必要に迫られたのかもしれない。

「日本写真史」序文:「日本の写真雑誌文化」アイヴァン・ヴァルタニアン


令和版はアイヴァンさんの「日本の写真雑誌文化」というテキストから始まり、テキストと図版ページが交互に入っています。
私は論考目当てに買ったけど図版の印刷もきれい。図版の一番バッターは黒川翠山。早速うっとり見とれちゃって全然読み進められません。


読みたい論考がたくさんあるけど一旦今日はここまでにしよう……


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