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会話は"交わす"のではなく"共創"するもの〜信頼構築における"あいづち"の重要性〜|コーチング学習雑記帳

現在GCSでコーチング学習中で、コーチングにおけるクライアントとの信頼関係の重要性を特に強く感じています。

学習を進めるに差し当たって、その信頼関係とは一体どのようなメカニズムで作っていけるのだろうか、という命題から色々調べる中で、1つのヒントとして「あいづち」の役割が見えたので纏めてみたいと思います。

1.コーチングにおける信頼関係の重要性

無題のプレゼンテーション

コーチングにおいて重要な要素を表す図としてコーチング・ピラミッドと呼ばれるものがありますが、ここに含まれる要素を備えて初めてクライアントの可能性を引き出すコーチングを行うことができると言われています。

クライアントと真っ向から向き合い、目標達成に向けてリードしていくためには、クライアント自身の深層心理や本心を打ち明けてもらう必要があります。

そのため信頼関係はコーチングにおいて必要不可欠な要素となります。


2.日本語の会話は「対話」ではなく「共話」

さて本題ですが、今回はその信頼関係を構築する上で重要な要素を、「会話」に着目して纏めています。


日本語の会話展開は、「あいづち」の種類が他国語と比べて豊富にあることによって特徴的なものと見られています。

あいづち研究の先駆者である日本語教育学者の水谷信子さんは『あいづちと応答』(1983)で、日本と欧米それぞれの会話展開の特性に着目し、欧米型の会話展開を「対話」、日本型の会話展開を「共話」と区別しました。

この区別は日本語による会話を考える上で重要な定義と言えます。


対話と共話をそれぞれモデル化したイメージは下記になります。

無題のプレゼンテーション (1)

(水谷信子『あいづち論』(1988)を基に作成)


つまり、上段の対話モデルでは、Aの発話に対してBが新しい情報を返す形で会話が進行しています。ここではAもBも話し手であるような色が強く、別個の矢印としてそれぞれの発話が分離しています。

対して下段の共話モデルでは、話し手Aの発話に対してBが聞き手としてあいづちや要約、同じ内容の繰り返し等によって同じ矢印を共有し、共創しているイメージになっています。


3."あいづち前提"の共話型コミュニケーション

共話的なコミュニケーションの例を見ていきます。

ーあの、先生……
―ハイ。
―お忙しいところ、まことに恐れいりますが……
―イヤイヤ
―実はこの作文のことなんですが……
―ウン
―ちょっと見ていただけないでしょうか。

(水谷信子『あいづち論』(1988)より引用)

ポイントなのは、話し手である生徒は「先生、お忙しいところ誠に恐れ入りますが、この作文をちょっと見ていただけないでしょうか。」の一文を細かく区切って発話し、先生もその合間合間に細かくあいづちを打って挟みながら進んでいます。


この例から、日本型の共話型コミュニケーションの特徴とはまさに、聞き手があいづちを打つ前提で展開していくものであり、話し手も聞き手のあいづちを待つ前提で発話していく文化があると言えます。


となると、、です。


日頃、日本語文法を使って会話をし、共話型コミュニケーションを取るのが文化としてインストールされている私達にとって、「あいづち」を取らないというのは全くもって不自然であり、「あいづち」を疎かにすると気持ちの良い会話が成り立たない可能性があります。


逆に、あいづちを制したものは会話を制す。

のかもしれません。


4.信頼構築における「あいづち」の重要性

「あいづち」が及ぼす話し手と聞き手の関係性における役割の研究はあまり深まってはいないようですが、参考になる研究がありました。

▼実験概要
・初対面の大学院生3名による日本語会話 x 2グループ
・テーマ:奈良について(長所、短所等なんでも)

2グループそれぞれの会話終了後、インタビューでアンケート(会話は上手くできたか、会話は楽しかったか、相手に好感がもてたかの3問)を行い、回答結果を基にその会話でラポールが構築されていたかどうかを測ったところ、下記のような結果となりました。

無題のプレゼンテーション (2)


つまりここから言える事実は、

・ラポールが構築されたグループ(①)ではどの聞き手もあいづちを打っていた。
・ラポールが構築されなかったグループ(②)ではあいづちを全く打たない人がいた。

ということです。


更に、上図のグループ②では、Cのように全くあいづちを打たない人がいたことにより、AとBの間にもラポールが構築されなかったことも重要な気がします。(「でも」などの逆説が多く、互いの経験を述べ合うだけの会話になっていたようです。)


5.まとめ

つまり、最後に重要事項を纏めると、

・日本語はあいづちが入る前提のコミュニケーションになっている。(共話)
・あいづちは、信頼構築において必要不可欠な役割を担う。


以上になります。

会話は単に「交わす」ものではなく、共話を通して「共創」していくものである、という意識をもって今後のさらなる学習に励みたいと思います。


ちなみに、「あいづち」の定義は研究上乱立しており、これといって一致したものにはなっていませんが、聞き手が話し手から送られた情報を共有した(受け取った)ことを伝える表現という点では一致しているようです。


とはいえ、あいづちの他にも信頼構築のために必要な要素は様々あると思うので、色々学習深めていきたいと思います。

(同じくGCS受講生の方やコーチング学習中の方いらしたらコーチング練習のお付き合いさせてください!)


参考文献

水谷信子(1983)「あいづちと応答」

水谷信子(1988)「あいづち論」

堀口純子(1997)「日本語教育と会話分析」

大塚容子(2011)「初対面の3人会話におけるあいづち―ラポール構築の観点から―」

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