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6.20 いとしのリスボン~リスボン

巡礼55日目。リスボンにいる。

別に頼まれていないのに宣言してしまうが、私はリスボンが好きになった。好きだリスボン。どうした急に? へんなものでも食ったのか? だって好きになっちゃったんだモン。

まだ旅は続いているが、帰国後きっとあちこちで聞かれるだろう「どこが一番よかったですか?」という質問には「リスボンです」と答えることに決めている。いろいろわかりやすい気もするし、この街はいいなぁと心の底から感じるのだ。

リスボンには4日前、ポルトから電車に乗って来た。1ヶ月以上続いた徒歩旅から久々の電車。びゅんびゅん流れていく車窓の風景を眺めながら、私はもう徒歩旅には戻れないと感じていた。270キロがたった3時間強。徒歩だと2週間近くかかるのに、この早さだ。おまけにラクちんだし、速いのは楽しいし、ホームで買ったさくらんぼまで食べられるって!

それにしても、だ。

私は窓の外を見る。砂埃のきつそうな、なーんもない荒野が延々と続いている。自分がこんな殺風景の中を重い荷物を背負って歩いていたと思うと……うーん、狂ってる。人が宗教から脱会するときというのは、こういう感じかもしれない。みんなもやってるし、それがあたりまえだと思っていた巡礼マジックが急に醒める瞬間。うん、やっぱり文明の利器って便利だわ。

そして着いたのがリスボン。よいんだな、これが。

メシがうまい、人がちょうどよくやさしい、というポルトガルの長所については以前書いたが、あとリスボンは女の子がかわいい。なんだろう、このみんな好き勝手にのびのびしてる感じは。リスボンは観光都市なのでポルトガルっ子だけではないはずだが、さまざまな肌の色、髪の色、瞳の色な人たちが力強く街を闊歩している。スーパーモデルみたいな人からそうでない人、ばーちゃんからキッズまで、腕毛ふさふさだろうと、お腹ぽっこりだろうと、バリバリ墨が入っていようとそんなの関係ねえ、胸のざっくり開いた服を着てブリブリ歩いている。

「かわいい」というと語弊があるかもしれない。もう少し丁寧に言うと――こっちの食べ物を食べたとき「素材の味がしっかりしている」という印象を受けるが、ちょうどそんな感じ。別に食べてはいませんが、きっと彼女らは野生の露地栽培。人の目なんか気にせず自分の人生を謳歌しているオーラがハッとするまばゆさを感じさせるのだ。

そうそう、土曜の夜に散歩していたら、海岸沿いでレインボープライドをやっていた。虹色の旗をマントのように羽織った人たちが公園に大勢集まり、大音量で音楽を流し、バカ騒ぎしている。

まあ、この中には実際にLGBTQな人もいれば、単なるパーティーピープルも混ざっているのだろうが、横でおじさんたちがチューチューして、ドラッグクイーンが踊っているのは幸せそうでよかった。日本はいろいろ法案がどうのこうの、交換日記暴露がどうのこうのと大変そうだが、やっぱこうでなくっちゃ。めいめいが勝手に幸せを享受することの何が一体イカンのか?

そうした解放感は観光地ならではという理由もあるだろう(海が近いのもいいね)。ただ、リスボンがさらによいのはあんまりおしゃれじゃないところである。パリみたいに洗練されてない。やっぱりどこかイナタイ。パーティ翌日はあたり一帯がおしっこ臭いし、路地はぐちゃぐちゃで渋谷の百軒店(これもいま話題)みたいだし、リスボンで泊まった2つのドミトリーは人の対応は最高だけど施設は超オンボロ……。

このへんは好き嫌いが分かれるかもしれない。ピカピカな最先端が好きな人はリスボンはダメだろう。でも私は「だから好き」だ。すごく落ち着く。リスボン名物トラムやケーブルカーにしたって「そこ行く!?」みたいなギリギリを走ってて、これぞポルトガルならではのテキトーさ、大航海時代に稼いだ莫大な富をぜーんぶ散財しちゃって、それでも「人生? 悪くないぜ。知らんけど」とニヤッとしてる感じが「そうっすよね~」と嬉しい気持ちにさせられてしまう。

思い出した。

実は今回のスペイン~ポルトガル旅は裏テーマとして「年老いた国の暮らしはどうなんだろう?」というものがあった。スペインもポルトガルもかつて世界一の座に君臨したものの、今やサッカーと観光以外ぱっとしない、すっかり地味なおじいさん国である。ひとつの全盛期を越えた日本も、これから長い高齢期に入る。そんな中、誰かが「メイク・ジャパン・グレイト・アゲイン」とか言い出すのか、そうではなくもっと幸福な成熟・加齢の形がありえるのか? その答えは歴史というものに対する向き合い方という気もするが……。

本当に書こうと思っていたことが全然書けなかった。それくらいリスボンについては熱くなってしまう。ああ、すっきりしない! 次は早めに書きます。


2020年代、世界中の人が一番好きなスタンダードはQUEENであることを痛感する。宿では酔った輩共がへべれけで「We will rock you」を大合唱。レインボープライドでもDJがこれかけたら大フィーバー。だから俺を止めんじゃねえっつーの!



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