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6.15 1,000kmの散歩~ポルト

巡礼はちょうど50日目になる。おとといからポルトにいる。ポルトガル第2の都市。別に深い思い入れがあるわけではないが「ポルトまで来たかぁ」という気持ちになる。

旅に出ていろんな町を見てきたが、「どうしてこんな住みにくいところに町を作ったんだ?」と思うことが多々ある。平地に作ればラクなはずなのにガケの途中とか急斜面の谷間とか、とんでもないところに町を作って人々が暮らしている。

きっと外敵から守るためとかいろいろ理由はあるのだろうが、ポルトはその最たるものだった。とにかくめちゃくちゃな坂道に街がある。最初に着いたとき、ドウロ川を挟んで大きな橋が架かり、急な坂道にビッシリ家が張り付いている様を見て「尾道みたいだな」と思ったが、あんなもんじゃない。尾道の斜面もハンパないが、ポルトの斜面はもっとハンパない。世界遺産になっている旧市街など道もぐちゃぐちゃでアップダウンも激しいので歩いていると平衡感覚がおかしくなる。二次元ではなく三次元レベルで自分がどこにいるかわからないというのは初めての経験だ。

さて、ポルトに着いた。巡礼をはじめて50日というのは、基本的に歩きはじめて50日ということになる。スタート地点のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからサンティアゴ・デ・コンポステーラまでが780キロ、サンティアゴからポルトまでが260キロ。つまり合計1,040キロ。私はフランス~スペイン~ポルトガルと1,000キロ以上を歩いたことになる。

先日カミーノフレンドから連絡をもらい「今はポルトまで歩いてます」と返すと「まだ歩いてるんですか!?」と驚かれた。自分の中では普通のつもりだったが、言われてみるとヘンかもしれない。巡礼はもう終わったのだ。あとは電車でもバスでも使って好きなところに行けばいい。なのにまだ歩いているって……でも今の自分にとってはこの徒歩旅が一番しっくりくる。

今回の旅に出る際、まわりの方には「元気なうちにもう一度放浪したいんです。ヨーロッパ放浪してきます!」と伝えたが、なんかニュアンス違うんだよなと感じていた。「放浪」というと気持ち的に荒んでいてボロボロのイメージがある。何のあてもなく、他を寄せ付けない厳しさを感じる。しかし私はそこまでハードコアではない。もう若者じゃないし、おじさんとして心も体も丸くなっている。

50日かけて歩いてみてわかったのは、私は「放浪」ではなく「散歩」がしたかったんだな、ということである。長い、長い、長~い散歩。私が今やっていることは、まさにそれである。

私のアイドルのひとりに作家の吉行淳之介がいるが、彼は「街角の煙草屋までの旅」ということを言っていた。いつもの煙草屋までの道のりも感じ方によっては非日常の旅になる、ということを言っているのだが、それをそのままひっくり返すと、たとえ異国でも近所の煙草屋までふらりと散歩するような感覚で楽しめるということになる。

確かに私はこれまで普段着の短パンで、何の気負いもなく、つかの間の現実逃避を味わうような感覚で歩いてきた。きれいな川があれば魚がいないか覗いてみたり、面白そうな路地があればルートなど無視して進んでみたり、地元の人たちが集まっていればなんだなんだと首を突っ込んでみたり――私が一番楽しいのは、そうしたフラフラした自由な時間。英語で言うところのポタリングに近い感じである。

私は巡礼のゴールに着いたとき何の達成感も感じなかったが、それはやはり巡礼がやりたかったわけじゃなく、歩いている行為そのものが好きだったのだろう。いろんな町を見て、いろんな人を見て、いろんな風景を通り抜けていく。言うならば「ぶら巡礼」。理由もなくぶらぶらすることが私にとってのフリーダムであり、自分が100%ピュアでいられるときだった。

しかしいくら大好物の散歩といっても50日も続くとさすがに飽きてくる。やっぱりものには賞味期限というものがある。珍しいものを見て、珍しいものを食べて、また珍しいものを見て、珍しいものを食べて……それを50日も繰り返すと、それはもはや日常だ。珍しいのが当たり前。そうなると「へ~」「すごい~」「なんじゃこれ~」という好奇心も次第に麻痺してくる。


それもあって私の「ぶら巡礼」はポルトまで、キリもいいし1,000キロで終了、ここからは違う旅の楽しみ方をしてみよう!――と気持ちをリセットした。

しかしそう思ってさっそくポルトを観光してみたが、まったく楽しいと思わない。大聖堂や教会に行ってみても「そうっすか~」としか感じない。私には有名らしきものを見て「これがホンモノか~」と有難がったり写真を撮ったりするミーハー心が決定的に欠けているのだ。ていうか人が多くて疲れたよ。ヨーロッパもコロナ明けで観光意欲は相当なのだ。

こんな状態なのに帰国まであと1ヶ月もあるのか……。

巡礼に飽きた、散歩に飽きた、旅にも飽きた――ほんと旅なんて3ヶ月もするもんじゃない。食事と同様、腹八分目、「あともうちょっと滞在したいな~」と思う1週間くらいがちょうどいい。3ヶ月なんてもはや短期留学と同じじゃないか。

でも旅に飽きた先に何があるかの見れるのは今回だけかもしれない。ならば行こうぜ、ピリオドの向こうに。

明日は電車でリスボン行。日本は梅雨の最中か。



実際「♪歩こう~歩こう~私は元気~」と歌いながら歩いてました。歩くの大好き。どんどん行こう。ふくらはぎが太くなって脚の形が変わりました。







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