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海外出張を命じられた男 (小説・第2回)

 こんにちは、Shimizu_Tです。

 今日は、またまた、超短編小説(約1,500字)です。小説なのでフィクションです。実在するSさんとは全く関係ありません。(ちなみに、前回の小説はこちら⇒ https://note.com/shimizu_t/n/nb787513da518 )


男は、上司に呼ばれた。
「君、パスポートを持ってるかね?」
「はあ? 持ってますけど、期限切れてます。」

「じゃあ、早速取ってきて!」
「何でですか?って、海外へ出張に行け!ということですよね。」

「そうだ。ただ、今すぐではない。行く時期はまた伝えるから、取り敢えずパスポートを用意してくれ」
「はあ。どこの国ですか?」

「いや、まだ正式に決まったわけじゃないんだ。ただ、決まった時にすぐ行けるように、予めパスポートを取っておいてくれ・・ということだ。もちろん、パスポートの取得費用は会社持ちだ。」
「はあ。」

男は、観光旅行で海外へ行ったことはあるが、仕事で行くのは初めてだ。
いくら感染が落ち着いてきているとはいえ、この時期に、わざわざ海外へ出張しなければいけない理由があるんだろうか?

ただ、とにかくパスポートを取れということなので、写真を用意して申請書を出し、10日ほどで受け取ることができた。

「いつ頃に行くんだろうか?」「どこの国だろうか?」

しかし、最初に上司に呼ばれてから1ヶ月・2ヶ月経っても、具体的な話が進んでいる様子が見られなかった。
「立ち消えになってしまったのだろうか?」

3ヶ月ほど経って、男は上司に聞いてみた。
「海外出張の話は、どうなったのでしょうか?パスポートを取ってから、かなり経ちますが・・」

すると、上司は「ああ、あの話ね。そろそろ決まるよ。韓国でね。1年だよ。」と、さらっと答えた。

「いっ?いちねんっ!!」

男は、上司の言葉のうち「1年」だけしか頭に残らなかった。どこへいくのかは、聞いたような気がするが、すぐに記憶から消えた。とにかく「1年」という言葉だけが、男の頭の中に残った。

「出張」というのは、1〜2週間程度、長くても1か月位だろうと想像していたので、1年と言われて、まずその長さにびっくりしてしまった。

上司によれば、社内の規定で1年までなら「出張」となり、1年を超えると「転勤」や「出向」になるらしい。

男は改めて上司に確認し、韓国への1年間の「出張」であると理解した。

その日、自宅へ戻った後、男は女に伝えた。
「韓国へ1年出張で行くことになった。社内規定では「出張」だが、転勤みたいなもんだな。」

女の反応は、あっさりしたものだった。
「ふ〜ん。急な話で準備が大変そうだけど、頑張ってね。行ってらっしゃい。」
1年もいなくなることに対して、びっくりしたとか寂しいとか、そういった気持ちは無いらしい。さらに、準備を手伝おうなどという気持ちも、ハナから無いようだ。

まあ、準備といっても、少しの着替えと身の回りの生活用品を持っていくぐらいで、荷物もそれほど多くはならないであろう。大きめのスーツケースに荷物を詰めていけば、当面はなんとかなる。それ以上に必要なものがあれば、現地で調達すればいい。
そうであっても、自分にはまったく関係が無いかのように、女が「頑張ってね。」と単に言うだけなのが、虚しかった。

まあ、そんな反応かな。

ということで、男は自ら準備を済ませ、10日間ほど後に韓国へと出発した。

(最初にも言いましたが、フィクションなので、実在のSさん・S家とはまったく関係はありません。第1回目からの小説は、マガジンにまとめます。)


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
いつものように、締めくくりはこの言葉で。

 「毎日が、心穏やかに過ぎますように」

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