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サーバントリーダーという職種

サーバントリーダーという言葉を初めて知ったのは今から5年ほど前になります。
プロジェクトマネジメントやアジャイルに関して実践を通して勉強をしていた頃、「スクラムマスターはサーバントリーダーになりがち」という話を聞きました。
そして実際に「シミタカさんってサーバントリーダーだよね」といったことを突然言われました。

え、そうなの?
ところでサーバントリーダーって、いったい何?

サーバントリーダーの意味

servantを辞書で引くと、召し使い、しもべ、使用人などの意味があります。あまりいい意味ではなさそうですね。
leaderは言わずもがな、先導者、指導者といった意味です。まるで反対の意味です。
サーバントリーダーとは、あるWebサイトによれば、

自ら他の人へ奉仕することで導いていくタイプのリーダー

ピポラボ

だそうです。

私はもう少しネガティブな、いわゆる「雑用係」のようなイメージでこの言葉に触れました。
「シミタカさんってサーバントリーダーだよね」という言葉には「お前には雑用係がお似合いだ」というニュアンスが含まれていたように感じます。
もしかしたらここ数年でその意味合いも変わってきているかもしれないですし、使うシチュエーションや職場にもよって捉え方が異なるかもしれません。

サーバントリーダーの業務

サーバントリーダーと呼ばれる人は、どのような業務を行っているのでしょうか。
スクラムマスターは「プロセスの番人」とも呼ばれるロールで、プロダクトオーナーがプロダクトのROIを最大化するために、あるいは開発チームが集中して開発できるように、できる限り尽力します。
その過程で、例えば以下のような作業を行うことが多いです。

  • プロセス資料の作成と周知をする

  • バックログのWiki(きまりごと)を書く

  • チーム全体で認識を合わせられるように用語集を作る

  • 会議体を整理して会議の調整と設定をする

  • ステークホルダーと折衝する

  • 開発チームを育成・支援する

  • 教育資料を作成する

  • Teamsでチームやチャネルを立ち上げる

  • 各種ツールのアカウントを発行する

  • ふりかえり会を設定してその意義をプレゼンする

いかがでしょうか。
確かに人によってはこのような作業は「雑用」だと思われるかもしれません。
誰かがやらないといけないけど誰もやりたがらない仕事、が多いです。

サーバントリーダーは超重要、なのに足りない

こういった仕事はあまり楽しくなさそうですし、敬遠されがちです。実際のところ、周りの人にこういった業務をやってみたいかと聞くと、多くの人が「やりたくない」「それは1年目の仕事なのでは?」といった答えが返ってきます。(ですので、これは誰かにお願いするのは難しいなと感じて、だいたい私がそのままやり続けます)

ところが、私が感じる限り、サーバントリーダーの重要性は近年ますます高まっているように思えます。その理由をいくつか挙げてみます。

ミニプロジェクトが増えた

まずミニプロジェクトが増えたこと。
ほんの10年前までは金融業界・製造業界・小売業界などで、いわゆるビックプロジェクトが多く存在していました。
ところがある程度のIT化が進み商品開発や設備投資も一服感を迎え、いわゆるビックプロジェクトは少なくなり、代わりに小型のミニプロジェクトが多数立ち上がるようになりました。
ミニとはいえプロジェクトはプロジェクトですから、そこにはチームが存在します。そしてチームが存在すれば作業のプロセスや約束事が必要になってくるのです。実際に私も様々なミニプロジェクトに投入されました。

人材が多様化した

次に人材が多様化したこと。
画一的に「このタイプの人はこのように指導すればよい」「このプロセスで万人に当てはまる」ということが出来なくなりつつあり、昔作ったプロセスが当てはまらなくなってきています。
そうすると新たなプロセスを作る必要があり、そのためには関係するステークホルダーと調整をする必要があり、そのためには会議を設定する必要が出てくる…、といった図式です。
見るからに仕事が増えそうですね。

スピード感が速くなった

そして業務のスピードが圧倒的に速くなったこと。
一昔前なら1年目は社会人の基礎を学び、2年目でプロジェクト業務に配属、3年目で一人前に仕事が出来るようになる…などといったスピード感でしたが、現代では即戦力が求められます。
ということは、人材の育成やスキルアップも急いでやらないといけないのです。業務のワークフローも「明日までに作って」といったことが多くなりました。
さらに、一度作ったプロセスも状況の変化によってメンテナンスが必要となり、そのたびに出番がやってきます。

しかし誰もやりたがらない

サーバントリーダーは、誰もやりたがらないことが多いです。
その理由は、

  • 成果に繋がらない

  • 誰も評価してくれない

  • 楽しくない

  • 大変

などです。誰も評価してくれなくて楽しくなくて大変な仕事なんて、そりゃ誰もやりたがらないですよね。

つまり、現代のビジネス環境はサーバントリーダーを必要としているにも関わらず、サーバントリーダーになりたい人が圧倒的に少ない、という困った状況なのです。

サーバントリーダーに必要なマインドセット

サーバントリーダーに必要なスキルやマインドセットは何でしょうか。

ここでは、私が普段大切にしている考え方を書き記すことで、サーバントリーダーに必要とされるスキルがある程度見えてくるのでは?と考えました。私が意識しているのは、以下のようなことです。

  • 相手の立場になって考える

  • 傾聴する

  • チームメンバーが動きやすくなる手助けをする

  • 全体としての成功を意識する

  • 気持ちに寄り添う

  • 成長を喜ぶ

  • 先を見て段取りを取る

基本的、といえば基本的なことです。このあたりは、コーチングやメンタリングといった言葉で語られることもあります。

余談ですが、私は自身のミッションステートメントで「ボランチ」という言葉を使っています。
「ボランチ」というのはサッカーのポジションで、中盤の底のかじ取り役を意味します。ディフェンダーからのパスの供給先となり、ミッドフィルダーやフォワードへのパスの供給元となる、いわば起点となります。

元・サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏はボランチ・鈴木啓太選手のことを「水を運ぶ人」と評しました。時には攻めに回り、時には守りに回り、全体としてチームがうまく動くように機能する。そういったポジションが私の理想であり、サーバントリーダーに求められるスキルやマインドセットにも近いように思います。

また、スキルとしてWebアプリを活用できる程度の能力や、システム開発の全般的な知識が必要になることが多いです。
また、PowerPointによる資料作成のスキルや言語化力なども大切です。
コミュニケーション力は基礎スキルとしてなくてはならないですし、時にはネゴシエーション(交渉力)も必要とされます。
なにより全体のプロセス化を行う上では、基本的なプロジェクトマネジメントの知識も必要となるでしょう。
つまり、「雑用」と言われながらもオールマイティに様々なスキルが必要となるため、誰にでもできるというわけではないと感じています。

サーバントリーダーのKPI

サーバントリーダーとしてロールが存在する以上、ある程度KPIを求められることがあります。実際に「KPIを設定して」と言われたこともあります。先述の業務に照らし合わせて、そのKPIを考えてみましょう。

  • プロセス資料の作成と周知をする
    →プロセス資料作成:○件

  • 会議体を整理して会議の調整と設定をする
    →会議設定数:○件

  • Teamsでチームやチャネルを立ち上げる
    →チャネル立ち上げ数:○件

  • ふりかえり会を設定してその意義をプレゼンする
    →ふりかえり開催数:○件

・・・いかがでしょうか。「それがどうした?」って言われそうですね。
プロセス資料を20件作成したからといって、それがいったい何なんでしょうか。全体としての生産性の向上につながったのか、業務改善につながったのか、分からないじゃないか、と言われてしまうかもしれません。
だいいち、こういった類のものは「たくさんやればよい」というものでもありません。会議なんて少ない方がいいですよね。

何が言いたいかというと、サーバントリーダーはKPIの設定が極めて難しく、そのため成果が(特に経営層など現場にいない人から)見えづらい、という特性がある、ということです。
私も何度も「忙しそうにしてるけど、何がそんなに忙しいの?」と言われました。悲しくなりますね。

これに対する解はまだ私自身見つけられていないのですが、ひとつのKPIとして生産性があります。
サーバントリーダーがいることによって生産性が向上するということを示せれば、その存在意義を示せるかもしれません。

サーバントリーダーの生きがい

KPIのことを考えるとなんだか悲しくなってきましたが、サーバントリーダーにも生きがいはあります。

そのひとつは「チームの成長」、もうひとつは「プロジェクトの成功」です。
チームが成長してプロジェクトが成功する。これが達成できた時、何よりも嬉しいのです。
そして、プロジェクトがひと段落した時に「シミタカさんがいなければこのプロジェクトは成功しなかった」と言ってくれる人が一人でもいてくれれば最高です。

まとめ

私なりにサーバントリーダーというものについて紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか。

地味だし、パッとしないし、成果も良く分からないかもしれませんが、なくてはならない重要な業務を担っています。縁の下の力持ちです。
そして、繰り返しになりますが絶対的に不足しているロールでもあります。

先述のマインドセットにひとつでも近いものを感じている方は、サーバントリーダーとして活躍できる可能性があると思います。
サーバントリーダーにならなくても、サーバントリーダーというポジションがあるということ、サーバントリーダーにとってチームの成長とプロジェクトの成功が何よりの生きがいであるということを、理解してもらえれば十分です。

以上、サーバントリーダーという職種について語ってみました。
何かの参考になりましたら幸いです。

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