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宇宙打Unity/WebGL版リリースに寄せて〜あの時の宇宙用語たち7選〜

2020年12月24日に、天文・宇宙なタイピングゲーム「宇宙打(ソラウチ)」のUnity/WebGL版を公開させて頂きました。2004年に公開した同タイトルFlash版のリメイクゲームになります。

宇宙打は宇宙の用語や用語解説が特徴ですが、今回リメイクするにあたり、用語・用語解説・画像は2004年のFlash版公開当時のものをそのまま活用しました。これは大きく2つ理由があります。

・開発当時協力いただいた方に敬意を表して
・当時と今を比べて欲しかったから

開発当時協力いただいた方に敬意を表して

ひとつめの理由はシンプルで、開発当時(2004年)ご協力いただいた26名の方々に敬意を表してです。

用語の選定や用語解説の作成、画像の収集や利用許諾については自分たちで行ったのですが、宇宙の業界といっても大変広く、ロケットや人工衛星などの宇宙開発や、星や銀河などの観測や理論を研究する天文学、プラネタリウムや科学館や天文台といった施設関連など、多岐に渡ります。当時はインターネットによる情報にも限界があり、何が正しく何が間違いかは分からない状況でした。
一方で、ゲームという特性上、学術用語をそのまま掲載してもエンターテイメント性が少ないため、面白く分かりやすい解説にする必要もありました。

一人で考えるのは限界がある。
そこで私が取った方法は「分からないことは分かる人に聞こう!」でした。

天文学普及プロジェクト「天プラ」(当時は「天文学とプラネタリウム」)というコミュニティで呼びかけさせて頂き、様々な業界からご支援・ご協力を賜り、いまの用語解説が出来上がりました(2020年の今では、国立天文台などで立派な研究をされている方、科学館でプラネタリウムの解説員として働いている方、一般企業に就職された方、など様々です)。

そのような方々への敬意も込めて、このような形を取らせていただきました。

当時と今を比べて欲しかったから

もうひとつの理由は、2004年当時と2020年の今とで、天文学や宇宙開発がどう変わったか?を比べて欲しかったからです。
138億年の歴史を持つ宇宙においてこの16年間というのはごくごくわずかな期間にしか過ぎませんが、人類にとっての16年間は天文学や宇宙開発を進化させるのに充分な時間でした。
一方で16年前とほとんど状況が変わらないものも沢山あります。
そのような変遷をぜひ肌で感じていただきたいと思いました。

ここでは当時の用語(つまり今回のリメイクでも引き継いだ用語)の画像と用語解説を引用しながら、特徴的な用語を7個紹介しようと思います。

タイムカプセルを開けて答え合わせをするような気持ちでお楽しみください。

・小惑星探査機はやぶさ
・めい王星
・有人宇宙飛行
・スペースシャトル
・ブラックホール
・太陽系外惑星
・地球外生命体

小惑星探査機はやぶさ

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日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究本部(ISAS:旧文部科学省宇宙科学研究所)が打ち上げた探査機。2003年5月に鹿児島県内之浦で打ち上げられ、2005年10月ごろ小惑星ITOKAWAに到着する予定。世界で初めて次の2つのことを行う:1、小惑星物質のサンプルリターン。世界で初めてとなる小惑星サンプルは2007年に地球に帰還、世界中の研究者たちによって分析される予定。2、主エンジンにイオンエンジンを搭載。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

まずは何といってもコレです。2004年時点では「2005年10月ごろ小惑星ITOKAWAに到着する予定」とありますね。無事に小惑星イトカワに到着してタッチダウンを行ったものの、その後幾多の困難に遭遇して一時は通信が途絶、地球への帰還が絶望視されました。しかし、技術者の様々な努力と奇跡により蘇り、2010年に無事地球への帰還を果たしたのでした。帰還翌日の新聞を見ると、その感動が蘇ってきますね。

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差し込まれた画像も象徴的で、小惑星イトカワがラッコのような形をしているなんて、当時は誰も考えもしませんでした。
その後、後継機にあたる小惑星探査機はやぶさ2も宇宙に飛び立ち、つい先日地球にカプセルが帰還したことは記憶に新しいところです。

めい王星

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太陽系の第九惑星で、太陽からの距離約59億km、直径2300kmで9惑星の中で一番小さく、主な成分はメタンなどの氷と考えられています。めい王星も海王星と同様に天体力学から存在が予測されたもので、1915年アメリカのパーシバル・ローウェルが計算し、1930年にクライド・トンボーが発見しました。未だに探査機が訪れていない惑星で、詳しいことはよくわかっていません。カロンという衛星をひとつ持っています。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

めい王星(冥王星)に関しては、面白い点が3点あります。

1つ目は用語解説冒頭の「太陽系の第九惑星」について。2020年現在では冥王星は「準惑星」という区分になっており、太陽系には所属しているものの「惑星」ではないという立ち位置になっています。が、2004年当時は紛れもなく太陽系の第九惑星だったのです。

冥王星が太陽系の惑星から外れたのは2006年。冥王星の軌道が海王星までの他の8つの惑星とは明らかに異なっていることは以前から分かっていましたが、2000年代初頭に太陽系外縁部に冥王星と同等の大きさの天体が多数見つかってきたことが決め手となり、国際天文学連合(IAU)の決定により惑星から外れたのでした。これは世間でも大きなニュースとなり、子供の頃に「水金地火木土天海冥」と覚えた世代にとっては大変衝撃的なニュースとなりました。

2つ目は画像です。「え?何この2つの光の点??」と思いませんか?
実は2004年時点では、冥王星に関する画像はこれぐらいしかなかったのです。あまりに遠すぎて、当時の観測技術では限界があり詳細を見ることができませんでした。

現在では、Wikipediaにも掲載されている通り詳細な解像度の画像が取得できており、この2つの画像の対比はまさにこの16年間の人類の進歩といえるでしょう。

3つ目は「未だに探査機が訪れていない」という点です。2004年から11年後の2015年、遂にNASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」が冥王星を訪れ、詳細な画像の撮影に成功しました。この時、人類は初めて冥王星の詳細な姿を見ることができたのです(それが上記のWikipediaにも掲載されている写真です)。そこにはハートマークのような模様が描かれており、大きな話題となりました。

有人宇宙飛行

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一般的に、人を乗せたロケットなどが地上100km以遠の大気圏外を飛行することを言います。ソ連、アメリカに継いで2003年には中国が、さらに2004年には米の民間宇宙機「スペースシップ・ワン」が民間機として初めて、有人宇宙飛行を成功させています。日本の宇宙機関は有人宇宙飛行に対しては消極的な態度を取っていますが、株式会社ライブドアの堀江貴文氏が市場参入を表明するなど、新たな動きも出ています。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

宇宙開発界隈には「有人か無人か」という議論が昔からあります。「有人」とはその名の通り、宇宙船に人を乗せて宇宙を飛行することを言いますが、これは「無人」よりも格段に難しく必要とされる技術も多岐に渡ります。そのため、2003年までは米・露の2か国のみが成功していました。

次は日本かと思われる向きもありましたが、2003年、中国が宇宙飛行士一人を乗せた「神舟5号」の打ち上げ成功により、遂に3か国目として名乗りを上げます。ちょうど日本はそのころH2Aロケット6号機の打ち上げ失敗などもあり「日本は無人でも失敗するのに、有人でうまくいくわけがない」「中国に抜かれた!」という論調が強くなったことを大変鮮明に覚えています(無人探査の強みを生かしてはやぶさが大きな功績をあげるのはもう少し先のお話)。

それから16年たちましたが、依然として有人宇宙飛行に成功しているのはこの3か国だけです。ただし、国という単位ではなく、民間として見たときには大きな進歩がありました。

象徴的なのは、イーロン・マスク氏率いるスペースX社でしょう。2019年に宇宙飛行士2名を乗せた「クルードラゴン」の打ち上げに成功、2020年には日本の野口聡一宇宙飛行士も搭乗し、国際宇宙ステーションに旅立ちました。それまで国が主導となって進められてきた宇宙開発の歴史に、新たな1ページが加わったのです。

また、2004年の用語解説として言及されている堀江貴文氏は、インターステラテクノロジズというロケット開発の会社のファウンダーを担っており、いまでも宇宙開発と関わりがあります。

スペースシャトル

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アメリカ航空宇宙局(NASA)の開発した有人宇宙船です。宇宙へ出るときは外部燃料とブースターをつけて打ち上げますが、人の入っているオービターは飛行機のようなつばさをもち、宇宙を周回した後、地球へ戻ってきて、機体は再利用が可能です。1981年から運用が開始され、現在まで5機のスペースシャトルが作られ、合計110回以上もの飛行をしています。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

そして、前述の「有人宇宙飛行」と大変大きな関わりがあるのが、このスペースシャトルです。2004年当時、「宇宙開発といえばスペースシャトル」といえるほど象徴的な存在でした。

しかし、1986年の「チャレンジャー号」、2003年の「コロンビア号」と、2つの大きな事故が契機となり、2011年のSTS-135を以て30年あまりに及んだスペースシャトル計画を終わりを告げます。これにより、アメリカは宇宙へと飛び立つ手段を無くしたのでした。

次世代の宇宙船が登場するまでの間、国際宇宙ステーションに行くための手段はロシアのソユーズ宇宙船のみ。それを覆したのが、前出のスペースX社の「クルードラゴン」でした。スペースXは、民間として初めての有人宇宙飛行というだけでなく、アメリカにスペースシャトル以来の有人宇宙飛行を取り戻した立役者でもあったのです。

ブラックホール

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重い星がその進化の最終段階に大きな爆発を起こしたときに、自分自身の重力で押しつぶされてしまった天体をブラックホールといいます。ブラックホールは重力がとても強く、どんな物質も逃げだせず光さえも脱出できないとされています。ブラックホール自体を目で見ることは出来ませんが、天体の動きなどから近くにブラックホールがあると考えられている場所はすでに多く見つかっています。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

用語解説をよくご覧ください。
「どんな物質も逃げ出せず光さえも脱出できないとされています
「ブラックホール自体を目で見ることはできませんが
2004年当時、ブラックホールはまだ理論上の天体でした。数式によれば間違いなく存在するとされ、観測でも「おそらくこれがブラックホールであろう」という天体が見つかってたにも関わらず、最後の決定的な証拠はまだ無い状態でした。実際、画像も想像図となっており、まさにブラックな状態だったといえるでしょう。

2019年、イベントホライズンテレスコープにより遂にM87中心部の超大質量ブラックホールが撮影されました。

私たちは人類史上初めて、ブラックホールの姿を目にしたのです。2004年に、このようなこんがり焼けたドーナツのような姿を想像できた人がどれだけいたでしょうか。

象徴的なのは、このプロジェクトが世界各国の天文台を繋ぎ合わせた、文字通り地球規模の国際的なプロジェクトであったこと。
まさに人類の英知の結晶といえるでしょう。

太陽系外惑星

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太陽以外の星のまわりにも、数多くの惑星が発見されています。1995年の太陽系外惑星の初検出以来、すでに100を超える恒星のまわりに惑星が見つかっています。観測技術の限界から、地球のような小さな惑星はまだ見つかっていませんが、木星のような巨大惑星が中心の星のすぐ近くを回っているような奇妙な惑星系も見つかっています。このような発見によって、太陽系の起源についての研究も大きく進展しています。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

2004年時点では100個程度だったのですが(それでも「100個も見つかってるんですよ凄いでしょ!」ぐらいの言い方をしていますが)、2020年12月時点では4,300個を超える太陽系外惑星が確認されているそうです。

また、「地球のような小さな惑星はまだ見つかっていませんが」とありますが、現在では様々な軌道・大きさの惑星が見つかっており、特にハビタブルゾーンと呼ばれる地球と似た生命が存在できる領域に位置する惑星には注目が集まっています。2017年にNASAは、トラピスト1と呼ばれる恒星の周りに、地球とほぼ同じサイズの惑星を7つ発見したと発表しました。この7つのうち3つはハビタブルゾーンの中に含まれており、液体の水が存在している可能性があるとされています。

2004年時点では、太陽系の外に惑星が見つかったというのはまだ「すごいニュース」でした。現在2020年では、当たり前のように惑星が見つかり、その大きさや成分なども分かるようになってきました。太陽系外惑星の研究も格段に進歩したのです。

地球外生命体

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地球以外に存在する生命体を、地球外生命体と総称します。まだ生命体そのものは見つかっていませんが、地球のような環境が普遍的に存在するかどうかについては研究が進みつつあります。もっと直接的に地球外文明からの電波を受信しようというプロジェクトも行われていますが、こちらも残念ながらまだ発見には至っていません。この広い宇宙のどこかには、もしかしたら、私たちと同じように話し、笑い、考え、タイピングゲームに興じる生命がいるかもしれません。
(2004年Flash版公開当時の用語解説)

最後は誰もが関心があるであろう地球外生命体です。2004年の用語解説はだいぶ情緒的な締めくくりになっていますね笑。たしか私が執筆したと記憶しています。

生命が存在する条件として水や有機物の存在などが挙げられ、太陽系では木星の衛星「エウロパ」や土星の衛星「エンケラドス」などが着目されているほか、前述の太陽系外惑星のうちハビタブルゾーンに位置する惑星にも注目が集まっています。
また、アストロバイオロジー(宇宙生物学)という比較的新しい学問も生まれています。生命が存在する証拠となる物質や物理現象のことを「バイオシグネチャー(生命存在指標)」といい、これを探し出す研究もおこなわれています。

これとは別のアプローチとして、電磁波によるコンタクトを試みているプロジェクトもありますが、SETI@homeなど地球外生命体とのコンタクトとしておなじみのアレシボ天文台が2020年に運用中止となり、その直後に老朽化(と思われる)により望遠鏡が崩壊し、ひとつの時代を終えました。

地球外生命体に関してはこの16年間で格段の進歩があったものの、肝心の「地球外生命体の発見」には至っておりません。しかし、だからこそ今後も人類の飽くなき好奇心は宇宙へと向けられることでしょう(結局情緒的な締めくくりとなりました)。

まとめ

いかがだったでしょうか。
今回ご紹介した用語だけでなく、宇宙打では他にも様々な天文学や宇宙開発の用語が搭載されており、リメイクする過程ですべてその用語解説を読み返したのですが、「ああそうか、2004年当時はこうだったんだな」と思うことしきりでした。
最新の情報を知りたい方は、ぜひ科学館やプラネタリウムに足を運んでみたり、研究者の話を聞いてみたり、図鑑や書籍を紐解いたりしてみてください。
16年間で科学技術は格段に進歩しましたが、人類の好奇心と探究心は限りのないものですから。


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