第20話 春季大会…

スタンドに一年生の姿が並ぶ
そして、茫然としている…


0-11
六回サヨナラコールド負け


先発は田代
初回は三者凡退に抑えるが
二回の先頭の4番打者にホームランを浴び先制を許す
四回には一死から味方のエラーで出塁を許すと初球盗塁、三球目がパスボールでランナーは三塁へ
次の打者をレフトフライに打ち取るがタッチアップにより1点追加される(0-2)
五回の頭から2年生ピッチャー交代するがこの交代が大誤算
四死球とエラーが重なり5失点
そこでピッチャー交代するも1失点してこの回だけで6失点(0-8)
最終回となった六回はランナー一、二塁からサヨナラホームランを献上してゲームセット。
打っては散発の三安打と鶴崎高校は攻守共に精彩を欠くこととなった。


・・・


圧倒的な完敗をスタンドで見てた一年生たち
何事もなかったかのように、さも当然かの如くスタンドから出ようとするが、4名だけは違った。

…次の日

部活はオフ日。
放課後の職員室前の廊下
高木の前に4名の一年生が立っていた。


「なんだ、どうしたお前ら?」


牧が口を開く


「監督さん、今日練習させてください!」
「「「お願いします」」」
「ダメだ、規則だ。わかってるだろ?」


高校野球に限らず
最近の部活動は休日を設けることを推奨している。公立高校に関しては国からのお達しもあり半ば強制に近い形で休ませるところも散見する。
しかも鶴崎高校のように部活より勉強の方に力を入れている学校からすると尚のこと…


「お願いします!」


牧を筆頭に4人揃って目で訴えかける


「ダメだ。仮に練習するとしてお前らの面倒は誰が見るんだ?」


安全面を考慮すると高木の言うことは至極当然のことだ。
しかし昨日の敗戦を目の当たりにして、居ても立っても居られない感情を抑えることができない4人
そこに…


「自分が見ます」


一年生たちの背後からそう言ったのは遠藤だ


「自分はリハビリも兼ねてウエイト(トレーニング)をやろうと思ってましたので、ちょうどいいかと!」
「…ったく、わかったよ。遠藤、お前に任せるからな?ちゃんとやれよ?」
「はいっ」
「んじゃあトレ室(トレーニング室)と部室の鍵持ってけ」
「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」


高木は渋々ながら練習を許可した。
そして鍵を渡してる最中に一人現れた…田代だ。


「あれ?どうたんだお前ら?」


田代は監督にあいさつを済ますと、そこにいる面々に問いかけた。
昨日の試合結果に満足できなかった田代は一汗流そうと高木に練習する許可を得ようと職員室に来だのだった。


「お前もか?」
「はい」
「先発した次の日だぞ?」
「すみません、居ても立っても居られなくて…」


苦笑いをしながらそう話す田代
呆れ顔の高木


「何呆けてるんだ?練習行くならさっさと行け。田代はちょっと残れ」
「「「はい」」」


6人は一斉に返事をして
5人は田代と高木を残して練習へ向かった


「田代、お前は一年(の今回の行動)をどう見る?」
「心強いです!」
「そうか…」
「監督さん」
「ん?」
「やはり自分はアイツらを中心としたチーム作りで夏大(甲子園予選夏季大会)を戦うべきだと思います!」
「本当にそう思うか?」
「はい!」
「・・・わかった。引き止めて悪かったな」
「いえ、では失礼します」
「うむ」


・・・


高木は思い返す。
今の一年生と同じ行動をとったヤツらが2年前いた。
そのときは誰もサポートするヤツはいなかった。
今回はそのときサポートされなかった2人がサポート役に回っている。
そして32年前も…


"なんの因果か…"


そうつぶやくと踵を返し職員室に戻っていく
おもむろに机の上に出したのは提出されなかった春季大会のオーダー表
そこには克己、牧、森の名前が並んでいた。
11 知野克己
13 牧昇太
18 森直人


『そういえば居たのはわかったが、一言も喋ってねぇな桑原…』


オーダー表の隅に鉤括弧付きで書かれていたのは


(24 桑原嘉智)


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