締め切り #011 2020年3月5日の偶然日記 / 檀上 遼
※今月は『関西人が阿寒で考えたこと』はお休みし、なにか日常で偶然を感じる出来事があった際に書くことにしている「偶然日記」(©︎赤瀬川原平)の中から2020年3月5日の一本を掲載します。
ミスドで日記を書いていた。
独り言がめっちゃ多い系のおばはんが隣に座った。
これはよくあること。
しばらくしたらこちらに話しかけてきた。
これもまぁあること。
なんでもドーナツをくれるらしい。
これはめったにないが数年に一回はあること。
「勉強の邪魔してごめんな! 11時から王将やねん!」
時刻はそのとき午前10時50分だった。
「11時から王将」の意味はよくわからなかったが、とりあえずもらっておくことにした。
ありがとうございます、そう伝えると、おばはんはにっこりと笑い帰る準備をしはじめた。
ドーナツにはすぐに手をつけず、そのままにしていると、
「ドーナツ食べへんの〜?」とじれったそうな顔でおばはんがいった。
「あとで食べようかと……」
「ほんなら早く紙で包んどき。トレーと皿はわたしが返しとくから」
おばはんは善意でいってくれている。
慌てて紙ナプキンで包もうとすると、おばはんは「アップアップ!」といった。
(アップアップ?)
「哲学の勉強してるの?」
「えっ?! いや、まぁ……」
「大学生?」
「いえ」
「高校生?」
「いえ」
「社会人?」
「は、はい(36歳)」
「あら〜ごめんなぁ! 勉強とかいってもて!」
「いえいえ全然」
「まぁ頑張ってや」
「ありがとうございます」
「ほんならグッドラック!」
やたらと英語をはさんでくるおばはんだった。
その後、海(須磨海岸)でいつものように弁当。
今日の半熟卵は7分半。上手くできていた。
弁当を完食後、悩んだ末におばはんがくれたドーナツを食べた。
悩んだワケはもちろんおばはんのドーナツなんか食べたくない、なんて理由などではなかった。
ただ単に、ここ最近ものすごくストイックに食べるものを制限しているからだ。
案の定、食べるとお腹がよくない感じでパンパンになってしまった。
しかもそのドーナツが、自分だったら絶対に注文しないような、きなこ風味のポン・デ・リングかなにかで、味もまたかなり微妙で……。
それでなんとなく凹んだ気分になってしまったから、気分転換にローソンにいって漫画を立ち読み。
「週刊漫画ゴラク」の最新号があったからミナミの帝王を読んだあと、いつものように巻末の星座占い『御瀧政子のパワーUP星占い』をチェック。
すると、射手座(わたしの星座)のランキングは6位だったのだが、なんと今週のラッキーアイテムが、驚くべきことにまさかの「ドーナツ」!
全部オッケーになった。
絶対いいことあるはず。
嬉しかったから雪見だいふくを買って店を出た。
おばはんありがとう。
世の中は偶然に満ちている。
檀上 遼
だんじょう りょう。兵庫県神戸市生まれ。文筆と写真を中心に活動中。著書『馬馬虎虎 vol.1 気づけば台湾』台湾旅行記『声はどこから』『馬馬虎虎 vol.2 タイ・ラオス紀行』など。
https://linktr.ee/ryodanjyo
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