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ゆく客くる客

 僕は今年も喫茶店バイトを続けた。大学入学と同時に始めたこのバイトも来年で3年目になる。今年も店にはいろんな人がやってきて、同じようにいろんなことがあった。

 ビットコインのバカでかいモチーフのネックレスをぶら下げた暗号資産投資家は「働くなんてバカバカしいですよね。」と語り合っていた。

「紅茶で」と注文されたので、ストレートティーかレモンティー、ミルクティーのどれにするか訊いたら「どっちでもいい」と答えた女性。

裸足に革靴のマルチ商法業者と、気の弱そうな少年。後から決まってやって来て説得力を持たせて帰る、もっとくるぶしの出たカリスマ。

ある女性には「ミルク金時の金時抜き」と注文され、突如として"金時とは何か"という禅問答が始まった。

 僕がこのバイトを始めたのは、自分は接客という仕事が一番苦手だろうと思ったからだ。自分が人見知りで、勝手に人を怖がっているだけではないかと思い敢えて飛び込んだ。1年目は接客のいろはを学ぶのと慣れるのに精一杯だった。お客が大きな壁を隔てた特別な存在であるかのように感じていた。でも2年目だった今年は、"自分が知らない人たち”と接することになんら違和感を感じなくなった。誰も特別な存在ではない。僕がするのは、お客の立場になって考えて要望に応えることだけだ。それにしても、まだまだお客のことでわからないことだらけだ。

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