下版(入稿)のときにしていること

下版(げはん)。
いまは入稿と呼ぶ人のほうが多いかな。
印刷会社さんに印刷をお願いする工程。(※補足)

いわば、デザイナーとして、印刷されるものに関われるクライマックスの工程。この後も色校正などあるけれど、そこから先は印刷会社さんがメインのパートでもあるので、一番緊張する工程でもあります。

お客さんにヒアリングをして、デザインを考えて、作って、提案して、反応を受けて、修正して…などなどを経て、お客さんから「OK!(校了)」をいただき、はじめて「下版」となります。
 この下版データをもとに印刷会社さんが印刷するので、このデータにミスや不具合があると、これまでの工程が水の泡になるというドキドキの工程。もっと素敵な言い方だと、より素敵に印刷を仕上げるために、デザイナーが自主的に関われる、ほぼ最後の工程。

ちなみに僕はデザイナーになって20年が経つけれど、いまだにこの下版データを作るときは緊張する。会社に勤めていたころは、途中で電話が入ると、いちから作業をやり直したし、今は電話が鳴っても出ない(ごめん)。そんなに長時間かかるものでも無いのだけれど、お医者さんが手術中に電話に出ないのと一緒だ。いや、もちろん命を預かっているわけではないし、手術もしたことはないけれど、気持ちとして。
 一番始めに下版したときは、まだ専門学生でインターンのときで、その後に先輩が確認をしてくれるという安心感があったのだけれど、それでも、下版という工程があまりにもドキドキするものだから「こんなに日々、ドキドキ緊張するなんて、自分はデザイナーになれないな。というかなりたくない…」。なんて思ったりもした。
 と言いつつ、今やデザイン大好き!なんて言って20年もこの職業をしているのだから、人生っておもしろい。

でも、下版という工程が、緊張するというのは20年経って、何千回下版をしようとも変わっていない。少しは慣れたと言っても、やっぱりドキドキするし、このドキドキを忘れてはいけない気もする。
 印刷はね、一度刷ってしまったら、簡単には直せないから。過去には刷り直しになったこともあるし、訂正シールを作って対応したこともある。僕のミスもあれば、そうじゃないこともあるけれど、やっぱり刷り直しはいやだ。。

下版データをつくるにはいくつか工程がある。色の塗り足しをつけたり、文字をアウトライン化したり、印刷方法に応じたデータをつくる。このときに、いや、正確にはこの前に僕がしてる工程が、「磨く」という作業。
 お客さんからのOK(校了)をもらったあと、あらためてデザインをチェックする。そこで細かなバランスとかを微調整して整える。ほぼ、僕にしかわからない工程になる。刷り上がった印刷物を見てお客さんも、「良くなったね!」だなんて気が付いたりしない(気が付かれても困るけれど)。
 でも、なんだろう、たとえるならカバン屋さんでカバンを買うとき、最後にさっと一拭きするような、そんな工程。服についたほこりをさっと払って、より良い状態でお客さんに渡すような工程。

この「磨く」工程がすきだったりする。僕以外、誰も入れない神聖な時間。下版前デザインとの最後の関わり。さっさっとホコリを払って、磨いてあげて、「さ、素敵に刷られてくるんだよ。」と、こどもを見送る母のような心持ち。もともと下版には神聖さを感じているのだけれど、それがさらに清められる感覚。

最後にデザインを確認して、磨くことで、自分のできることをやりきったと思ってデータを印刷会社さんに託す工程。この下版前の磨く工程が好きで、下版という緊張とずっと付き合えているのかもしれない。


(※補足)
「下版=印刷会社さんに印刷をお願いする工程」について
もっと正確に言うと、「印刷の版をつくるための版下(はんした)を製版に出すこと」なんだけれど、正確に言おうとすると長くなるので、ざっくりと印刷会社さんに完成したデザインデータを渡す工程としています。だから、今はデータを入稿するの方が正しいのだけれど、ぎりぎり版下末期世代(データではなく紙に切り貼りしていた)だった僕は下版という響きに愛着がある。

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