ChatGPTは「可能性を広げる」ツール
東京工業大学で非常勤講師として生命理工学院のM1向けにバイオアカデミックライティングという講義を担当しています。いわゆるサイエンスライティングの講義です。僕のコンセプトとして、「センスではなくテクニックを使う」ことを挙げていて、相手に伝わるような文章を書けるテクニック、つまり誰でも習得できて活用できる方法論を身につけることを目的にしています。
で、今年度から新しいトピックとして、もちろんChatGPTを紹介しています。東工大ではChatGPTをはじめとする生成AIについては全面的に禁止をしておらず、道具として使うことに期待しているようです。
僕の担当回は就職活動用エントリーシートを題材にしています。大学からの指示がどうあれ、就職活動は個人の活動なので大学から規制されないはずで、生成AIは自由に使っていいでしょうと解釈して、講義で紹介しています。
ただ、ChatGPTのクセや、実際にどう使うのがいいかはすごく気をつける必要があります。包丁は便利だけど、使い方を間違えると自分や他人を傷つけてしまうのに似ています。
具体的にどう教えているかはまだ講義が全部終わっていないのでここでは書きませんが、使い道としては「可能性を広げる」というのが一番いい考え方かな、と思っています。
たとえば、「この専門用語は一般的ではないので、その言葉を一般向けに表現し直したうえでこの文章を書き直して」とか、「私は日本の民間企業の就職を目指して就職活動をしている大学生です。学会の要旨集向けに書いた研究テーマの文章を採用応募のエントリーシート向けに300字以内で書き直してください」とかで指示すると、結構いい感じに返してくれます。
こんなふうに、いろいろな選択肢がある中で、自分が思い付かない可能性を提示してくれるという目的においては、ChatGPTはかなり優秀な秘書さんです。
一方で、ただ一つの正解を知りたいというときには、ChatGPTはかなり不向きです。「これこれについて教えて」と質問すると、間違った回答をするリスクがあります。
というのも、そもそもChatGPTがどうして文章をつくれるのかというと、インターネットにある膨大なテキストを解析して、単語ごとのつながりの強さを計算したデータベースをもとにして、質問に対して最適な単語を順番につなげる、ということをしています。要は、非常に高度な穴埋め問題を解いているようなものです。なので、サラッと読むとすごく自然な文章に仕上げることができます。ただ、単語同士のつながりの強さをもとに作っているので、全体として正しいことを書いているかどうかは別評価になります。
仮に全体として正しい文章でなくても、「こういうキーワードが出てくるのか」とか、「出てきた文章を自分なりに取り入れるにはどうすればいいか」という考え方をすれば、それなりにしっかり使えます。そこで前提となるのが、「この文章は全体として正しいかどうか」と見極める力です。結局、最後は人間が正誤を判断しないといけないので、人間が学び続ける必要が相変わらずある、ということになります。
AIで人間が学ぶことがなくなるかというと、むしろ逆で、ちゃんと学ばないとAIを使えない、ということだと思います
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