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楽天のPCR検査を請け負うジェネシスヘルスケアとは何者なのか

楽天の法人向け「新型コロナウィルスPCR検査キット」のお話の続きです。

楽天のプレスリリースを見ると、「遺伝子検査キットのパイオニアであるジェネシスヘルスケア株式会社と連携」とあります。ジェネシスヘルスケアが解析を請け負うとのことですが、どんな会社なのでしょうか。

遺伝子解析サービスの老舗

ジェネシスヘルスケアは、唾液から遺伝子の個人差を調べる「遺伝子解析サービス」の中でも老舗の存在です。「GeneLife(ジーンライフ)」というブランド名でいろいろなタイプのキットを売っています。

遺伝子解析サービスといえば、唾液や頬の内側から細胞をとって、遺伝子を調べてその人の体質などを調べるものです。いろんな会社から出ていますが、ほとんどのものは化粧品やサプリを買うきっかけするための販売促進ツール扱いです。調べる遺伝子も数個なので、あまり信頼性はないです。

ただ、中には数十万カ所の遺伝情報の個人差を調べ、体質の違いを調べるだけでなく、大学などの研究機関や他の企業と連携して本気で遺伝子の研究をやろうとするところがあります。大手ならDeNAのマイコード、スタートアップ企業ならジーンクエストがあります。ルナルナで有名なMTIもDearGeneブランドで展開していましたが、今は通常販売していないようです。

例えばこんな成果を出しています。

そしてジェネシスヘルスケアも、国立遺伝学研究所の斎藤成也教授と共同研究で1万5000人分のミトコンドリアDNAデータを用いた日本人のルーツ分析を行っています。

遺伝子解析サービスは「当たるも八卦当たらぬも八卦」と揶揄されがちですが、少なくともこの4社は本気で遺伝子の研究に貢献しようとしています。個人的に遺伝子研究にはとても興味があるので応援しています。

DeNA、ジーンクエスト 、MTI、ジェネシスヘルスケアは、いわば遺伝子解析サービス四天王ですね(フリ)。

研究向けのサービスはあるが診断向けはない

先ほども書きましたが、ジェネシスヘルスケアは遺伝子解析の中でもかなりまともなほうの会社です。DNAの日である4月25日には毎年メディアや関係者を集めて、海外から著名人をゲストとして呼ぶ啓発イベントを開くほど、遺伝子研究や普及に力を入れています。さすがに今年はありませんでしたが。

個人向けのサービスだけでなく、研究機関や医療機関向けのサービスもあります。

研究者向けには全ゲノム解析も請け負っているなど、解析体制としてかなり整っています。受託サービスは他にもいろんな会社がやっているのでジェエンシスヘルスケアのシェアがどれくらいかわかりませんが、技術としては信頼できるレベルかと思います。

ただ気になるのは、「教育・研究機関向けサービス」「法人・研究者向け受託解析サービス」という表現。どこにも「病気の診断」という言葉がないのです。そこで専門家向けのページを見ると、こんな注意書きがあります。

※本検査は研究用検査です。病気の診断もしくはその補助の目的で使用することはできません。

研究なら多少のミスは許されますが、病気の診断となると誤診はあってはならないことです。研究のミスは次につなげることができますが、誤診は患者の人生を大きく変える可能性があるからです。

そのため、病気の診断のための検査となると、厳しい管理体制や機器の性能の正確性などについて当局が判断して許可をもらう必要があります。

今のところジェネシスヘルスケアは病気の診断をするつもりはないようです。もちろんそれは悪いことではなく、研究をサポートすると割り切っているなら、それはそれで企業の戦略です。

しかしそうなると、楽天の「新型コロナウィルスPCR検査キット」の解析を担当する意味合いがやはりわかりません。いろんなところで言われていますが、「新型コロナウイルス感染の陽性か陰性か判断するものではない」というのは医療機器としての認可をもらってないからなのですが、では何のための検査なのか理解できる人はいないかと思います。

ジェネシスヘルスケアは辞退すべきだった

「PCR検査キットを出そう!」と言い出したのが楽天なのかジェネシスヘルスケアなのか、それはわかりません。2017年8月には楽天がジェネシスヘルスケアに約14億円の出資をして、楽天の三木谷社長がジェネシスヘルスケアの社外取締役に就任しています。

ただ、ジェネシスヘルスケアのほうから「PCR検査キットはやめたほうがいい」と提言すべきだったと私は思います。

ジェネシスヘルスケアくらいまともな会社であれば、鼻の奥に棒を突っ込んでサンプルを採取し、高い正確性でウイルスを検出することがいかに高難易度かわかっているはずです。だからこそ、うかつに病気診断の分野に参入してないのです。

社外取締役が相手とはいえ、まずいことはまずいとはっきり言って止めることもまた企業責任ではないでしょうか。それができなかったというのは、遺伝子を扱う会社としていかがなものかと思います。

ということで、ジェネシスヘルスケアは遺伝子解析サービス四天王から外します(オチ)。

「ジェネシスヘルスケアがやられたようだな……」
「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
「楽天ごときに負けるとは遺伝子の面汚しよ……」

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