「可愛い」→「〇〇そう」?

 先日、ツイッターで、こんな内容のツイートを目にした。

「『おいしい』→『おいしそう』
 『楽しい』→『楽しそう』
 じゃ、『かわいい』の場合は、どうなるの?」

 ギャグとして言ってるのか、それなりに本気で悩んでいるのか、よくわからないつぶやきである。
 しかし、少しばかり興味をそそられたので、考えてみることにする。一口で説明できる自信がないので、まず間違いなく長文になる。そこはご了承願いたい。
 ちなみに、言語学方面の下調べは一切しないので、誤りが混じる可能性は多分にある。なのでその場合は、よろしかったらご指摘ください。ただし当方非常に打たれ弱いので、バファリンのように、言葉に優しさを半分混ぜてくれると助かります。

 さて。この命題に対する、現時点での私の結論は、
「それに該当する言葉は、現在存在しない。
 ただし、今まで一度も誕生していないからなのか、
 過去にはあったが後に消滅したからなのかは、不明」
 である。
 その根拠を今から説明する。

 まず、この命題をわかりにくくしている要因の一つが、「矢印でつないでいること」のような気がするので、こう、書き換えてみることにする。

『おいしそう』:『おいしい』
『楽しそう』 :『楽しい』

 それぞれ対応する単語を単純にコロンでつないで並記してみた。

 ではまず、『可愛い』は、この左右どちらに並べるべきなのか。
「右側に決まってるだろ?」と思うだろうか。
 しかしこれ、一概にそうとは言えないのだ。案外厄介なのである。

(私の考える)正解は、「どちらに入れても成立する」である。
 なぜか。
 この左右の語群に分類した時、タイトルのつけ方が、2通り考えられるからだ。

 この左右の語群にタイトルをつけるならば、まずは一例として、こんな感じのつけ方になる。

『A:未来への推測』:おいしそう、楽しそう
『B:今現在の感覚』:おいしい、楽しい 

『可愛い』は、このどちらに入るのか。
 この場合は、Bである。実際に「可愛いなあ」とその時点で感じている。だからBのグループ。そこに異論はないはずだ。

 しかし。この語群に限って言えば、こんなタイトルをつけても成立する。

『A:体験しなくても生じうる感覚』:おいしそう、楽しそう
『B:体験しなければ決して生じない感覚』:おいしい、楽しい

『可愛い』は、このどちらに入るのか。
 この場合は、Aなのだ。
 例えば、実際に猫を目の前にしなくても、丸い目、三角の耳、しなやかな胴体、パタパタ動くしっぽ、ぷくぷくした肉球を思い浮かべるだけで「可愛い」と感じることはあるだろう。猫は可愛いですよね。私は犬も好きです。

 つまり。
『可愛い』は、「今現在の感覚」を「脳が作り出す」ことで生じる性質のものなのだ。
『可愛い』という感覚を「脳が作る」のは「常にたった今の何かに対して」である、とでも言おうか。

「体験」と「経験」は、似ているようで違う。
「体験」は「経験」の一種である。内包されていると言っていい。
『おいしい』や『楽しい』は「体験」に対する形容詞である。
 ならば、未体験のものに対する形容詞もあって然るべきだ。
 しかし、『可愛い』は「経験」に対する形容詞なのだ。
 そこには、体験による経験も、未体験の経験も含まれてしまう。

『おいしい』と『おいしそう』がふたりで担当するような仕事を、『可愛い』は、ひとりでこなしている状態である、と言える。
 よって、『可愛い』に対応する『〇〇そう』は、現在存在しない。
 これが私の結論の前半である。

 さて。
「過去には、『可愛い』に対応する『○○そう』が存在したのか?」
 について。

 私は古語には詳しくないので、「わからない」としか言いようがない。
 しかし、『かわいそう』は現在、『可哀想』という意味だけが残ってしまっている状態だが、もしかしたら過去、『可愛そう』と表記されるような意味を、内包する言葉だったのかもしれない、とは感じている。
 あくまで個人的な推測ではある。

 なぜか。
 現代の人たちの中には、人から言葉で説明を受けただけ、あるいは、写真で見ただけの料理に対する感想を、『美味しそう』ではなく、『それ、絶対美味しい』という言葉で表現する人が、そこそこいるのだ。
 あるいは、『それ美味しいに決まってる』『もう美味しい』など。
 未体験の味覚なのに、『美味しそう』ではなく『美味しい』という単語を、一応修飾つきではあるが、選択する人が増え始めている。
 同じことは、『楽しい』にも言える。

 この傾向が進んだら、もしかしたら500年後には、『美味しそう』『楽しそう』という言葉は、変質あるいは消滅してしまうかもしれない。

 その時、その頃の日本人は、こんなことを言うかもしれないのだ。
「『美味しい』に対応する『○○そう』は、何ていえばいいんだろう?
 『おいしそう』は、なんか違うよね?」
 と。

 これと同じ流れを『かわいそう』がすでに辿ったという可能性は、ゼロではない、という話である。
 もちろん、「そんな単語は、最初からなかった」のかもしれない。
 どちらなのかは、今のところ私にはわからない。

 というわけで。私の結論は、
「現在、そのような言葉は、日常生活の中には存在しない。
 過去にあったかなかったかは不明。なので、探しても徒労に終わる」
 である。
 散らかった文章になってしまったが、ご容赦を。

 ちなみに、先のツイートをしていた方は、冒頭の命題に対して、「いちばんしっくりくるのは、『それ絶対可愛い』かなという気がする」というような追記をしている。
『それ絶対美味しい』が『美味しそう』にとって代わり始めていることを、肌で感じているゆえであろう。
 言葉は刻一刻と変化する。
 そこには、寂しさもあれば、楽しさもある。

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