大学の自己紹介コールの変遷

 大学入試に合格し、無事入学手続きを終えた学生が、まず行うことは何か。
 シラバスを熟読することか。
 履修項目を吟味選択することか。
 否。
 まず行うこと。それは、飲み会に出ることである。(暴論)

 大学によっても、学部によっても、サークル主催か、学部の先輩方が主催なのかなどの、多少の差異はあると思うが、「旨いメシと酒で受験勉強の憂さをはらし、我が世の春を謳歌する」という基本スタイルは同じである。
 最近は酒を無理強いする不届者も随分減っていると聞く。喜ばしいことである。

 で、その席で、新入生が、問答無用でいきなりやらされることがある。
 自己紹介である。
 ちゃんと調査をしたわけではないが、おそらくこれは、全国共通である。

 とは言え、全然難しいことはない。
 履歴書の一部を読み上げるみたいなもんである。
 フォーマットはすでに完成されていて、先輩方が、見本を見せてくれる。何も考えずにそれを真似れば良い。親切設計である。


 YouTubeの動画の出演者は、慶応出身であった。
 慶応の場合は、ざっくりこんな感じのフォーマットが確立されているのだという。

1 自己紹介する人(以後A)「塾生、ちゅうもーく(注目)」
2 それを聞く人たち(以後B)「何だ-」
3 A「甚だ僭越ながら、自己紹介させていただきます」
4 A「○○高校出身」
5 B「めいもーん(名門)」
6 A「△△と申します。よろしくお願いします」

 4でどんな校名が飛び出しても、5では躊躇せずに「名門」と叫ぶのが全国共通のマナーである。偏差値差別はやめましょう。
「学生」ではなく、頑なに「塾生」と言うあたりに、慶応のプライドが見えて、面白い。義塾が母体の、歴史ある大学なのだぞよ。
 早稲田は、1が「塾生」ではなく「学生」であるとか、エスカレーター校では、内部進学の場合、5の「名門」が「裏口ー!」と変化することがあるとか、バリエーションもいろいろあるようだ。裏口は初めて聞いた。慶応の場合は洒落にならないケースもありそうなイメージだが、流石である。

 私の母校の場合は、
1「お願いしまーす」
2「どーぞー」
 という感じであった。はず。いやどうだろう。記憶が完全に怪しい。
 注目ではなかったことだけは確かである。
 あまり飲み会には出なかったせいで、忘却の彼方なので、いっそフェイクということで容赦願いたい。
 3はなく、いきなり4に飛ぶ。5は同じ。
 すでに酒が入ってるヤツや、頭のネジが数本外れているようなヤツは、4で「○○小学校出身」と叫んだりすることがある。こういう場合は流石に、「めいもーん」の中に笑い声が混ざったりするが、スベらないようにするためには場の空気を読む力が必要になる。

 ところで。
 件の動画での一連の流れを見ながら、私が興味深いなと思ったのは、誰も、5と6の間の存在に触れなかったことである。

 我々の時は、新入生も先輩方も、こうだった。

4 「○○高校出身!」
5 「名門!」
5a「○○予備校経由ー!」
5b「お疲れさまー!」
6 「□□大学□□学部、△△です!よろしくおねがいしまーす」

 むしろ浪人がデフォ、現役合格はいろんな意味でクレバー、くらいの認識だったのである。5aと5bがないと「おおー」と歓声が上がったりした。
 当時の母校では、浪人:現役は、肌感覚として7:3くらいだったと思う。

 最近は、本当に、学生の数が、減ってるんだろうなあと、しみじみと感じたのであった。
 浪人なんかしなくても、どこかに席はある、という状態だろうか。
 本来大切なのは「どこで学ぶか」よりも「何を学ぶか」なので、ちゃんと席が用意されているのは、望ましい状態である。
 そしておそらくは、我々の若い頃より、今の若い学生の方が、知識レベルが上である。
 なんせ、我々が高校時代に覚えた内容が、中学の教科書に載ってたりするのだ。
 我々の時代のセンター試験なんか、今の学生なら楽勝であろう。
 物量作戦から、少数精鋭に移行しつつある印象がある。

 ちなみに。
「○○小学校出身」とのたまった件の学生は、「○○自動車学校経由」と涼しい顔で続けていた。
 よくあんなこと言えるねと、後で訊いたら、「だってあんなの誰も聞いてないんだしさ」とやっぱり涼しい顔であった。
「何だお前ふざけてんのか」などと絡む酒乱がいない、のんきな校風でよかった。
 ギャグは横断歩道の通行と同じである。
 右見て、左見て、安全を確かめてから、速やかに。
 でないと、事故に遭う。まあ、満身創痍もまた風流ではある。

 酒は飲んでも呑まれるな。法律と適量を守って楽しくのみましょう。
 飲んだら乗るな。タクシー会社や運転代行業者など連絡先を、きちんとスマホに登録してから、酒の場に出向きましょう。
 こちらからは以上です。

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