無門関第十三則「徳山托鉢」②
無門関第十三則「徳山托鉢」の続きを綴ります。
公案の現代語訳は、こちら。
今回は、巖頭が徳山に呼び出されるところからになります。
徳山は、巖頭を呼び出し、こう訊ねます。
「お前、わしを、未だ悟ってないと思ってるのか」
それで、巖頭は事細かに事の次第と自分の真意を説明した。
その結果、徳山は安心するに至った、と書かれています。
ちょっと意外な展開だなというのが、この下りに対する第一印象でした。
私が今まで公案の中で見てきた、大悟した坊さんたちは、みんな、確かな自信を持っていました。
どんなときも、自分なりのやり方で教えようとしてくれたし、「試してやる」と挑まれても、自分の禅で応じていました。
弟子に張り倒されても、その弟子の成長を朗らかに喜ぶような、大きな人たちでした。
弟子にツッコまれたのに無回答で立ち去ったり(無言が最適な回答だったのなら、雪峰はこの逸話から雪峰なりに何かしら得たはずです)、弟子の言動の真意を見抜けず動揺したり、問いただして安心したりする和尚は、無門関の中では、初めて出てきたように思うのです
徳山って、本当に悟っているんだろうか?
なんか、そんなふうに、見えないんですよ。
私が、見抜けてないだけなんだろうか?
少なくとも、雪峰は「理解出来ない自分が未熟なんだ」と思っていて、それで悩んでます。
でもこれ、雪峰だけの責任かというと、そうじゃないでしょう。
十一則で考えたことに従うならば、もしかしたら徳山の教え方のせいかもしれないし、相性の問題かもしれません。
なので、巖頭のように「老師がポンコツ」と言ってみるのも、場合によってはありだったりする。
そもそも、本当に徳山が会得レベルで悟ってるなら、他人の評価はあまり気にならなくなるはずなんですよね。このことは九則で書きました。
だったら、巖頭に対して、「儂のことバカにしてんのか」などとわざわざ呼び出してまで言う必要はないわけですから、これをやらずにいられないとなると、やっぱり「悟っている、にしては、なんかちょっとなあ」と、感じてしまいます。
そんな徳山に対して、巖頭はいろいろと説明をします。
何を言ったのか、具体的な内容は書かれていません。
しかし、それを聞いて徳山が安心したというなら、「徳山をバカにしているのではない」ということは言ったでしょうし、そしておそらく、雪峰から持ち込まれた一連の話について、事細かに話したのでしょう。
その結果、翌日の徳山の説法が、普段とはかなり趣の違うものになります。その内容は具体的には書かれていません。
そして、それに対して、巖頭は「老師は末後の句を会した」と言います。
徳山が巖頭の話を聞いて、いつもの自分の、言葉をあまり使わないスタイルだけでは、ダメな場合もある、と考え、敢えて普段よりも饒舌に話してみた、というのが、最も想像しやすい状況かなと思います。
そして、巖頭がそれを見て、「徳山が『言葉を超えたところに禅の境地があるというこだわり』を脱し、自由な境地に至った」と受け止め、徳山の大悟を喜んだ、という流れ。
でも、そうだとすると、なんだか、「巖頭が師匠で、徳山が弟子」という、逆の構図に見えてしまいます。
だって「師匠の大悟を弟子が認める」って、随分不遜じゃないですか?
お前はどういう立ち位置から物を言ってんだ、ってなるでしょう。
でも、評唱で無門が「徳山と巖頭」という順でなく「巖頭と徳山」と書いたのは、こういうことの表れのような気がしてるんです。
師弟とは言うけど、弟師とは言わないでしょ?
さらに、「あるこだわりを脱して、自由な境地に至った」というのは、末後の句たり得るのか。
そもそも、本当に、「自由な境地に至っている」のか。
徳山は、巖頭から話を聞いたから、バカにされたのではないと安心して、いつもと違う説法をしました。おそらくは、雪峰との一件を題材にした説法だと思います。
でもこれは逆に言えば、「巖頭から話を聞いて安心できなければ、そうするつもりにはなれなかった」ということでもあります。
つまり、この説法は、徳山の自発的な行動とはちょっと言いがたい。
「自分のこだわりを捨てた方がいい場合がある」というのは、確かに大切な気づきではあります。
しかしそれは、自然な状態に高めて、維持できなければ、失われます。
「他人から話を聞いたからそうした」止まりでは、今後また何か起ったときに、不適切な対処をしてしまう可能性があります。
その結果、本来生じさせる必要がなかった面倒な出来事を、生じさせてしまうことになりかねない。
ちょうど今回の一連の出来事のように。
つまり、徳山は「この時点では、小悟は幾度もしているけれど、大悟に至っていない」という状態のように思えるのです。
いろんな人からお叱りを受ける解釈なのかも知れませんが、私にはそう見えるんだから仕方ないんだもん。
では、巖頭は。
この続きは次回に。
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