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物語はなくならない、本屋もなくならない

こんな世界がほんとにあったらいいな。

書店との出会い、そこで広がる本との出会いがある。それを究極の最高の形で体現できるのが、ヨシタケシンスケさんの『あるかしら書店』だ。

電話するたびに「最近おもしろい本あった?」と最高の合言葉を口にできる、本好きの友人がいる。彼女に紹介されたのが、本書だった。

すぐ買いに行った。読んだ。大好きになった!即座に彼女に電話し、2時間ほど本書について興奮しながら感想を語り合った。

『あるかしら書店』は、「こんな書店があったら良いな~」と思う私の想像のはるか上をゆく、夢が詰まった書店だった。

特にお気に入りは、「月光本」と「お墓の中の本棚」だ。

「月光本」は、満月の夜、月明かりの下でしか読むことができない、特殊なペンで書かれている本だ。月に数日しか訪れない夜に、町のみんながときどき空を眺めながら、ベランダでそれぞれの本を読んでいるなんて、すごくロマンチック。この日だけは、こどもも夜更かししても怒られない。続きが読みたくても、読めるのはまた一か月後で、タイパとか、効率とかそんな考え捨てちまって、満月の夜の日だけちびちび読んでいく悠久の時間を過ごしてみたいな。

もう一つは「お墓の中の本棚」だ。一年に一度だけお墓が開き、中には故人の好きだった本がぎっしり詰まっている。その中から毎年一冊だけ本を持って帰り、代わりに故人に読んでほしい本を一冊置いて帰る、いわば故人とお気に入りの本をやり取りできるのだ。本好きだった祖父は、どんな本を墓に入れただろう。私は自分の墓にどの本を入れよう。想像するだけで涙が出るほど愛おしい。物語は、生死を超えて行き来できる力があるんだ!ということに感動した。

こんなにすてきなことを考えている人がこの世界に存在することを知れただけで、私にとっては救いとなった。

というのも、近年、都内の大型店舗が続々と閉店していってる気がして、とても悲しかったからだ。西部新宿駅地下の福屋書店は閉店してしまったし(本書はここで買ったな…)、なんと八重洲ブックセンターまで閉まるみたい(こちらは再開発後の複合施設に入居されるようだが…)。複数店舗展開している大型書店さえ閉店していくさまを、固唾をのんで見届けるしかできないもどかしさを抱えていたのだ。

どうしたら書店は続いていくのだろう。『店長がバカすぎて』や『世界は終わらない』、『書店ガール』などの書店が舞台の本を読むと、そこにはほぼ必ず、書店員さんたちの給与と労働実態が見合わないということが描かれている。そうした話を聞くたび、書店員さんたちが健全に適正給与で働けるにはどうしたらよいのだろう、と勝手に思い悩む。書店が続いていくには、書店員さんたちが欠かせない。だからそんな書店の現状を本好きとしては見て見ぬふりできないのだ。

そんな折に読んだのが、この本だった。感動した。泣いた。悲しい話じゃなくても涙は出ることを思い知った。うれしくて泣いた。

本屋はなくならない!!!と思った。

人に想像力がある限り。人が物語を必要とする限り。

だから、大丈夫なんだよね。私は粛々と書店で本を買い、読み、好きな本を増やし、いろんな物語の世界を堪能し続けていればいいんだね。

そう、力強く、思った。


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