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「考える脳」と「感じる脳」ー 脳は世界が見えていない

今回は、サセックス大学のアニル・セス(Anil Seth)教授(神経科学)の動画を参考に、皆さんの認識している現実世界と呼ばれるものは、皆さんの妄想かもしれないということを学びたいと思います。

自己認知は、「感じる脳」を成長させるための非常に重要な第一歩です。自己認知自体は決して難しいことはありません。そもそも脳にはその能力が備わっているからです。しかし、多くの人にとっての障害のひとつは、自分自身を認識している「自分」が何者なのかということを理解することを妨げる様々な情報があふれていることだと私は感じています。例えば、「自分を客観視する」といった表現がありますが、このような曖昧な表現もその一つです。ちなみに、自己認知とは自分を客観視することではありません。今回は、「感じる脳」にまつわる様々な知見を組み合わせることで、「自分」の探究とそのプロセス全体をより深く理解することを試みたいと思います。

動画を見る際には、日本語の字幕を参考にしてください。


「感じる脳」の能力は予測

脳は骸骨に覆われた器官であり、それ自体で外界を認識することはできません。五感からの信号を頼りに、外界がどのようなものかを学び、想像し、予測します。

脳はそれ自体で外界を認識できない

皆さんには世界を認識しているという感覚があるかもしれませんが、それは必ずしも正しい感覚ではないかもしれません。脳は、過去の経験から蓄積された記憶に基づいて、世界を認識するためのモデルを構築しています。そのため、あらゆる認識は主観的であり、他の人と同じとは限りません。逆に客観的というのは、広く合意された主観です。集団が変われば、客観的な意見も変わりうるということです。それはある意味、すべては幻覚であり、夢であるとも言えなくもありません。しかし、多くの人が同じ夢を見ているのであれば、それは現実と呼べるかもしれません。

だまし絵は、それを認識する良い例でしょう。私たちが何かを見た時に何が見えるかは、経験を通じて蓄積された記憶によって決まります。その記憶に基づいて、脳は現実世界について予測を立てるのです。既に知っている嫁と義母のだまし絵であれば、経験によって正確な予測ができるので、すぐに嫁と義母を見ることができます。同じ絵を見て違うものが見えたり、同じデータを見て違う意見が出たりするのは、様々な予測の結果なのです。

「嫁と義母」のだまし絵

脳の予測によって生成された情報として世界を認識するという感覚は、世界をありのままに認識しているという感覚とは大きく異なるのではないでしょうか?誤解を恐れずに大胆に言えば、あなたが認識する世界は、あなたが創り出すものなのです。

「感じる脳」の仕事は調和

脳のこの予測機能は、代謝バランスを調和させるために使われます。世界を直接認識することができない脳にとって、五感からの信号や予測は非常に重要であり、それによって適切な代謝バランスが取れなければ死を意味します。したがって、その予測能力を高めるためには、「考える脳」とともに適切な記憶の蓄積が不可欠なのです。

自分とは経験の蓄積

経験の蓄積によって「自分」が構築されているという感覚は、理解しがたいかもしれません。一方、昨今話題の人工知能(AI)がインターネット上の膨大な文章化された知識によって人間のように物事を理解し、返答できる様子は、その理解の一助になるかもしれません。脳の仕組みそのものは遺伝子に組み込まれたプログラムであり、そこに与えられる記憶というデータによって「あなた」は創られています。そしてそれは、あなたが生きている間、絶えず強化され続けているのです。

この事実は、自らの経験を積極的に選択することの重要性を示唆しています。私たちの選択は、家族、友達、職場など環境に大きく左右され、必ずしも自分の望む選択ができるとは限りません。それでも、与えられた状況に受動的に流されるのか、それとも能動的に自分の行動を選択するのかによって、脳の発達に大きな違いが生まれ、見える世界が変わってくるのです。あなたは、あなたの人生の監督であり、主演であるべきなのです。

次回は、自己認識にとってとても大切な脳からのシグナルに関して学びたいと思います。


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