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強くなりたいって思ってた

ずっと、強くなりたいと思っていた。

確かな自信、経験値、生活や仕事の基盤、豊富な仲間と幅広い信頼……そういったものたちによって人は強くなるのだと、なんとなく無意識に思っていた。強くなるためには、そういうものを育てていかなくちゃいけないんだろう、そんなの私には到底難しい、そう思っていた。

だけど、いつのまにか、強くなっていた。

些細なことで傷ついたり、ちょっとした言葉尻に揺さぶられたりすることはあっても、少し離れたところで「そんなこと、関係ないでしょ」というもう一人の自分がいるような心強さ。
想像していた強さとはちょっと違うけれど、そんなニュアンスの強さを得た感覚がある。

それは嫌なこと、しんどいことたちの山の中で「いつまで続くんだろう」と暗いトンネルを走っていたら、突然私にぴったりのサイズの穴が合って、そこから顔だけ出せてあぁ心地いい、みたいな感じ。別に何も変わってないんだけど、「ここから顔を出したら呼吸ができるな」って場所を見つけた。

それは、書くことと、そのための取材によるものだったと思う。

書くことに関して、いつも自分を疑っている。表現力、構成、コピー、そういった要素に特別優良なものがあるタイプではなくて、ただただ愚直に制作している、という方がよっぽど近い。自分の中に取り入れた言葉たちを世界と接触しながら精緻に翻訳していくような作業、そんな感じになっている。重ねて、私一人ではできるものでもなく、インタビュイーや知見のある方から友人、仕事仲間といつも誰かに助けられながら走ってきた。

インタビューという名目で、ほぼ初対面の私に大切な話をしてくださった方々。その人たちの言葉の温度、表情、選んだ言葉たち、その中に含んだ出来事と思い、背景……。そういったものを一つひとつ手にとっては、私の紐で編んでいく。

人生観やターニングポイントについてお聞き出来る機会が多く、インタビューはまるで、それらを私自身が追体験するような時間だった。それは、特別な経験になっている。

華やかに見えるも、話を聞くまではわからなかったことたち。
まだ言葉にならないけれど、沸騰するような熱い想い。
不器用で、愚直な姿。

運営しているメディア「瀬戸内通信社」で地方にいる多様な人を伝えることによって私が表現したかったのは、「あなたはあなたのままでいい」というメッセージ。それはもしかしたら、私のためのものだったのかもしれない。そして、記事を重ねるたびに、私を強くしたんじゃないだろうか。

人と交わり、その熱量を交換するようなインタビューの時間は毎回とても濃密で、時間をかけた人間関係の構築をすっとばして、とつぜん裸でぶつかり合うような時間でもあった。そんな風に、委ねてくれる人がいること。また、ぶつかり合った時間から編み出したものが誰かに届くこと。それらも私を強くしていった。

できることが増えたのかと聞かれると、歯切れの悪い答えになってしまう。私はきっと、できないこともできることも含めて可能な限り経験を積もうと試みていた。可能な限り調べつつ、わからないときは教えを請い、そうやってできないことも含め、少しずつ、少しずつ数を重ねた。

速く書くこともできない、特別な才能もない、頭も良くない、コミュ力が高いわけでもない。弱みはあるけれど、私はそれらと一緒に走り続ける強さを手に入れた気がする一方、強くなくたっていいとも思うようになった。私は、弱さも含めて私自身を愛しんでいる。

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