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パンツ履くの忘れた

ちんまい布一枚なのに履いてないと履いているのとでは心の持ちようが大きく変わってしまうパンツ。パンツがあるとないとでは行動も思考も変わるものだと体験から学んだ。

コロラドの大学でスピーチの授業を教えていたある日、授業が始まる前に落としたチョークを拾おうとして屈んだ。その時に なんかちょっとすーすーするな と思ったのだが、生徒が続々と入ってきたので時間通りに講義を始めた。

私は講義中に教壇にじっと立っていることはない。右に左に前に後ろにとうろうろと歩き回るうちに、大切なことを思い出して背中がゾクゾクしてきた。

パンツを履くのを忘れた。

履くのを忘れた、というか履き直すのを忘れた。

家を出る直前にパンツの脇の縫い目がほつれているのを発見して、”これは交通事故に遭ったら恥ずかしいパンツ!” と思いバスルームでささっと脱いだ。

それを私が新しいバンツを箪笥から出している間に、チワワがあっという間に咥えて逃げ去ってしまい、あっちやこっちや追いかけている間にパンツを履いていないことを忘れてしまった。そして家を出る時間になってしまったのでそのまま出た。

その日履いていたのは膝までのピランピランしたワンピースだった。

風が吹いたら完全にお尻が丸出しになってしまうやつである。

講義中も思いはあちこちに飛んでいた・・・・履いてないと思っているだけで、履いたかもしれない・・・・さりげなく腰のところを触ってみても下着の引っ掛かりがない・・・・これは完全にお尻丸出しな自分である。

それがはっきりしてからは右へ左へ動くのをやめた。何かにつっかかって転ぶかもしれないし、窓から一陣の風が吹きお尻が見えるかもしれないからである。

とりあえず教壇の後ろにいれば風が吹いても露出狂にはならんだろう、と75分の講義まるまる教壇から微動だにしなかった。

やっと授業終わりになり生徒たちが 次々に出ていくのだが、その一人が ”先生、今日は全く動かなかったね、珍しいね!” と言った。

パンツ履いてないからね!

とは言えなかったので そう?へへへ としか返せなかった。

みんな出て行ってからワンピースの後ろを大きくペロンとめくって確認した。

うん、履いてない!

その確認と同時に反対側のドアから入ってきたお掃除のお兄ちゃんと目があった。

お兄ちゃんは見て見ぬ振りなのか、はっきり見えなかったのか、わからないけれど Hello! としか言わず入ってきたばかりなのにそそくさとまた出て行った・・・・というとこはちゃんと見えていたのだろう(笑)。

帰りは1秒でも早く家に着きたかったが、交通事故で運ばれたらまたお尻丸出しなのがバレるので慎重に慎重に運転して帰った。帰り着くと、チワワは私が履く予定だったパンツをガッシガシに噛みちぎって遊んでいた。

それからもうずいぶん経っているけれど毎朝着替える時になんとなく下着のラインを触って確認している、履いているね、よしよしって。


シマフィー 

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