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眉毛の力

ペンシルとパウダーを使って眉毛を描いている。もう何十年も描いているのでちょいちょいっとやるだけでパキっとした眉毛になる。力強くbossyな印象に作っている。

アイラインもぎゅーっと入れている。日本に帰るとたぶん私はくっきりアイライン日本一の称号がもらえるほど、一般的な日本人女性と比べるとバキバキにアイラインを入れている。そしてアイラインももう何十年も入れているのでリキッドの筆の先をしゅーーーーーっとやるだけで一気に描けるスキルがある。必ず目尻をシュッとさせるキャットアイにしている。

ちゃっちゃっと終わるのでお化粧の時間は非常に短い。

以前はアイシャドウにも凝っていたしシェーディングなども丁寧にしていたが、年相応にお化粧も変わり(眉毛とアイライン以外)、ゴテゴテと塗りつけることはもうない。ただハイライトとチークは必ず入れている、顔が暗くなるのがいやだから。

そんな風に、抑え気味になったとはいえ私はバッチリメイクをして毎日学校に通っている(*アメリカの高校で教師をしています)。大学生になって以来の”大人の私”は毎日毎日、家でゴロゴロしている日とダイビングで外にいる時以外はメイクをしている。

原因は母だ。私が大学生になった時に ”化粧は自分のためにするだけではなく、周りの大人への敬意を表す身だしなみだ、なのできちんとお化粧して人前にでなさいよ” と言われた。それを今でも頑なに守っている。

確かにヨレヨレのズボンでも、髪の毛ボサボサでも、唇カサカサでも、大人としてはよろしくない気がする。実際に学校でヨレヨレシワシワのズボンを履いている教師を見ると、”生徒や同僚に失礼だよ” と怒りもわく。身だしなみというのは、最低限のレスペクトであり、私にとっては化粧はその最低限の域にある。

そんな私が一度だけ眉毛もアイラインもなしで学校に行ったことがある。

なんと、忘れていたのだ、眉毛とアイラインを!

他の部分はちゃんと色が載っているのに、生徒に指摘されるまで全く気づかなかった。

”先生、今日は優しい表情だね、眉毛もふんわりしててアイラインもないもんね”

生徒たちは口々に、雰囲気が違う、やさしそうに見える、日本人ぽい、などとポジティブな意見をくれたが、それを聞いている間、私は気が気ではなかった。ぶるぶる震えるような気持ちだった。トイレに駆け込み、鏡を見ると、なんともぼんやりした表情の自分が見え恐ろしくなった。

パンツを履いていないような、歯が一本抜けたような、そんなそわそわした気持ちだった。

眉毛の力は思ったよりも大きく、なんとあまりにも強力なそわそわに我慢できない私はランチの時間に近くのドラッグストアに車を走らせ、茶色のペンシルを買ってきた。

走って店に入り、震える手でペンシルを掴み、車に乗り込むなりパッケージをびりびりと破って、バイザー裏についている小さな鏡を使って眉毛をキュッキュッと描いた。

綺麗なくの字の眉になり、ようやく気分が落ち着いた。ふーーーーーー。

頭の中は眉毛眉毛眉毛と忙しない半日を送り、ようやく眉毛を手に入れて落ち着く自分・・・まさに麻薬中毒者になったらこうであろう、という姿だった。

シマフィー 

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