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絶対に染めないでね!

2年前にオンライン授業に切り替わって、やめた習慣がいくつかある。(*アメリカの私立校で教師をしています)

それまでは社会人として、女性として、教師として、大人として、やらねばならないと信じていたことだ。けれど、もう人に会わない、という事態になったときにやめた習慣は多分これ以前いつやめても構わないことだったろうと思う。自分がやめ時がわからず、やめた時の反応が怖かったり予想がつかなかったりするだけのことだった。

些細な習慣から大きな自己改変までいくつかあるのだが、その中で一番勇気がいったのが ”髪を染めるのをやめる” だった。

生徒たちにはもう何年も28歳で通しているが(笑)ここ何年か白髪が気になるようになってきた。最初のうちはほんの何本かで気になればその都度抜いていた(よくないらしいですが手っ取り早い対処でした)のだが、夫は”誰も気づかないよ、白髪なんてわからないよ” と優しい言葉をかけてくれていた。

実際鏡を見てもわからないのだが目に付くと自分が歳をとったのがあからさまになったようで本当に嫌だった。パンデミックの1年前からは定期的に黒く染めるようになっていた。白髪は目立つほどではなかったが、青っぽい黒に染めると顔立ちがはっきりするような気がして3ヶ月ごとくらいに染めていた。

白髪というのは染めて隠さねばいけないものだと思っていたのだ。白いのが混じると一気に老けて見える、若々しさがなくなる、歳をとったと思われる、そのどれもが受け入れたくないものだった。おばちゃんになりたくない。

2020年の3月で髪の毛を染めるのをとりあえずやめた。Zoomでは白髪なんてわからないだろうし、また対面に戻った時に染めればいいや、と思ってやめた。

それから2021年の夏までの約一年半で、以前染めた部分の色も抜け、長い髪の中に上から下まで真っ白な毛も見えるようになった。もう抜いて追いつくような数でもないのでそのままにしていたのだが、夫はいまだ優しく”全然白髪ってわからないよ” と言い続けてくれていた。その頃には自分の白髪が見える髪にも慣れてきて以前ほど気にならなくはなっていた。

しかし2021年の9月、いよいよ対面授業が始まる、というときに私は悩んだ。

生徒たちはどんな反応をするだろうか。同僚はどう思うだろうか。私は見ない間にずいぶん老けておばちゃんになったと思われるのではないだろうか。

とりあえず後ろでくるんと1つに結び、第1週目をやり過ごした。誰からも何にも言われない。みんな気を遣って白髪についてのコメントをしないのではないか、そう危惧しつつも、まとめているからわからないのかも、とちょっと安堵もしていた。

2週、3週、と過ぎたところで生徒の一人が笑顔で言った

”シマ先生、そのシルバーのハイライトかっこいいよ!染めたんじゃないんだよね?自分の毛だよね?”

あぁやっぱり生徒たちにも白髪はちゃんと見えていたのだ、みんな気づいていたんだ、とわかると何となく恥ずかしいような気持ちになったが、答える前にそばにいたもう一人の生徒がこう聞いた

”本当に自分の毛?美容院でやってもらったんじゃないの?”

その後はクラスの子供にわらわらと囲まれ、グレイがかっこいい、クールだ、女優みたいだ、と褒められまくった。

”絶対に染めたりしないでね!!” そうみんなに念を押され、もう何ヶ月も経った今も、定期的に髪の毛をチラリと確認されて ”よし、染めてないね!” と親指を立てられる。

白髪だと老けて見える、カッコ悪い、おばちゃんだ、そんな私の思い込みはたくさんの15歳にカッコいいと褒められたことで変わった。


誰かに ”先生って何歳なの?” と聞かれると私が答える前に他の生徒たちが叫ぶ

”28歳だよ!見りゃわかんだろ!”

大きな笑顔で叫ぶ生徒たちとゲラゲラと一緒に笑っているうちに、

白髪なんてとか、老けて見えると嫌だとか、歳をとったとか、あんまり大したことじゃないんだ

そう心が決まった。

シマフィー 

#思い込みが変わったこと

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