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宿題手伝い隊:勉強以上に大切な学び

3時に授業が終わり、その後1時間から1時間半ほどのクラブ活動やスポーツの時間があるが、そのどちらもやっていない生徒は家に帰るか残って勉強するか、を選択する(*アメリカの私立校で教師をしています)

私はクラブの顧問はしていないので教室に残り、補習や質問に来る生徒たちを待っていることが多い。
誰も来ない日もたまにあるが、そんな日はザックザックと論文の添削をしている。

今学期は最終学期ということもあり、生徒たちはなんとか成績を上げようと必死だ。遅れてしまった課題やプロジェクト、あまり点数がよくなかったテストのやり直し、次の発表の練習、などいい成績で一年を締めくくろうと頑張っている。

その週は9年生と10年生の生徒たちが居残って発表や宿題をやりに来ていた。
そのほぼ全員が留学生で、ELLという英語強化クラスの子供たちも私の教室に来ていた。英語強化クラスの生徒たちは、今年の成績で来年も強化クラスに残るかどうかが決まるので1つでも単語を覚えようと、作文を上手に書こうと、一生懸命だ。

そんな話をランチの席でかつて私の生徒だった12年生のアレハンドロにした。
彼はスペインからの留学生で8年生で来た当初は英語強化クラスにいた子だ。
”みんな頑張っててすごいよ〜 何度もスピーチの練習をしているよ〜” と何気ない会話をしたのだが、次の日の放課後にアレハンドロは友達二人を連れて私の教室に来た。

一人は中国からの、もう一人はロシアからの留学生だった。

三人は私の教室の真ん中に陣取り、9年生と10年生が入ってくるのを待った。
”先生の教室、懐かしいな〜 前みたいにクッキーとかキャンディとかあるの?” とわいわい楽しそうだ。
彼らが私の補習の常連だったときは、4時をすぎるとお腹が空くだろうから、と教室のキャビネットの中におやつを隠していたのだ(笑)。
もちろん今も隠している。15歳はいつだってお腹が空いていて、お腹が空いていると力が出ないのだ。

恐る恐る9年生たちが入ってくる。
いつもは真ん中に座るけれど、12年生が陣取っているので彼らは隅の席に座った。
10年生も入ってくる。知らない先輩たちがいるのを見てちょっと驚いた表情をしている。

それぞれがノートやパソコンを出して準備が出来たところで、アレハンドロと友達は別れて9年生と10年生のテーブルに移動した。
軽い自己紹介をして、自分たちも留学生なのだ、英語が難しいことがわかっている、9年生の時の宿題は大変だった、と会話を始めた。母語で話す子もいる。

その日12年生は4時半近くまで残り、後輩たちの作文の添削をし、スピーチの発音を直したりアドバイスをあげたり、数学用語の説明をしたりしていた。
私が出る幕はなく、時々見回ってポジティブな言葉をかけるくらいしか仕事はなかった。

翌日、アレハンドロはもう二人友達を連れてきた。
そして昨日の補習が楽しかったと言って、9年生と10年生の人数も増えた。

さらに次の日、アレハンドロは7人友達を連れてきた。11年生もいる。
そして補習は9年生から11年生までの20人ほどが教室で待っていた。
ここまで増えると私の教室では間に合わず、隣の教室も使った。

12年生はもうほとんど授業はなく、後は期末試験を受けるのみで、大学も決まり卒業式まで”ヒマ”なのだ、と笑っていたけれど、彼らの意図はわかっている。

宿題手伝い隊のみんなは、ここまで来るのに苦しい経験や悔しい思いをし、きっと”誰か助けてくれないかなぁ”と願っていたに違いない
苦しい道を通ってきたからこそ、いま苦しんでいる9年生を助けてあげたいのだろうとわかっている。
9年生がほんの何年か前の自分達と重なるのだ。

今日の午後もたくさんの生徒たちが教室にやって来た。
今まで見たことない生徒も
”I heard you have a team of homework helpers"(宿題手伝い隊がいるって聞いたんだけど)とやって来た。

私は色んなことを教える立場だけれど、先生が言葉にして指導しなくても子供達同士で学ぶことがたくさんある。
数式や単語や文法なんか以上に、この子供たちはお互いにたくさんのことを教えて学んでいる。

私が今日出来たことはみんなにクッキーを配ることと楽しそうに勉強する彼らを見ながらニヤニヤすることだけだった。

私もたくさんたくさん学んでいる。

シマフィー 


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