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第三章 人間の顔とは何か?-004


食の軟化が顔の軟化に!

頭蓋骨の変化という現象とともに、顔の軟化が始まりました。
なぜなら顔の多くを占めていた大きく硬い咀嚼筋の役割が必要ではなくなったからです。

このことによって顔の表面に新たなる機能を作り出すことに
成功していきました。

それは何か?と申せば、
五感の穴の開閉をおこなっていた筋肉の機能が衰退し、
あらたなる表情筋という機能を作り始めました。
(今や意識しないと、耳や鼻は動きませんよね)

表情筋がどのような機能を推し進めたのか?と申せば、
こころの表出」です。(これとても重要です)

五感の情報を脳が処理し、そのことによってこころを形成することによって、その内容を顔に直接反映するための仕組みを、
人類は新たに開発したのです。(これ重要です)

私たちの祖先はさまざまな表情(喜怒哀楽)という
非言語コミュニケーションを、
顔を通してこころを生み出せるようにしたのです。

まだこの時代には言語は存在しません。
この非言語コミュニケーションは、
それまでのジェスチャーやボディーランゲージ、
さらに音楽といったこころの表れを、
より具体的に後押した可能性は高いと考えられます。

このプロセスは、
言葉をしゃべることのできない一歳未満の赤ちゃんの顔の成長発育に現れていることをご存じでしょうか?

第二のコミュニケーション術

直立二足歩行による喉の拡大は狩猟時代末期に入ると、
咀嚼機能の退縮によって奇跡的にも発語機能を発達させました。

いわゆる言語コミュニケーションの始まりです。*1

このことは狩猟時代の集団の拡大に、大きな影響を与えたのではないか?
と考えられています。
なんと集団を最大150人体制にまで増加させたと言われています。

今や、あごは咀嚼するだけでなく、
表情という非言語コミュニケーションに加え、
発語という言語コミュニケーションという機能を
マネージメントする重要な場所となっているのです。(これ重要です)

現代社会での私たちのあごは、
実に多彩な機能を司るようになっているのです。

さて人間の赤ちゃんの発育過程を思い出してみてください。

私たちは生まれてすぐに呼吸をしたのち、お母さんに腸から
発するこころを喜怒哀楽の表情と奇声を使って語り始めるのです。

赤ちゃんは非言語(表情)とわずかな言語(奇声)という
コミュニケーションを使って、
たちどころに食べて生きるための必要不可欠なこころの叫びを、
お母さんに伝える力を有して誕生してくるのです。

早くお乳を飲ませろ/と…(結構乱暴に)

やがて身体的能力を発揮できるようになると、
ハイハイや立ち上がってさざまなものを手に取り、
それを口に入れて舐め回したり噛み始めます。
(この頃になるとお母さんはいつもヒヤヒヤしなければいけません。
なぜなら食べてはいけないモノまで飲み込んでしまう
危険性があるからです)

赤ちゃんが何をしているのか?と申せば
目の前の情報をあごを使って脳に積み上げ始めるのです。
(どんな硬さ?どんな形状?美味しい?どんな匂い?)

これは人間という動物のあごから上げられる情報を
脳と結びつける大事な作業となっているのです。


あごを中心とした五感からのさまざまな情報を脳に入れ、
自給自足の脳の学習と記憶の装置を動かし、
人間らしいこころを育むベースを作っていくのです。
(大人になったあなたも、乳歯が生えてたのち鉛筆を噛んだ味や感触をいまだに忘れてはいませんよね。記憶は消えないのです。面白いでしょう)*3

この後、約1歳を過ぎる頃になると発語が始まり、より具体的にこころを言葉を使って表現し始めるのです。

赤ちゃんは人類の長い進化のプロセスを、
生後わずか約1年間で成り立たたせる力を持っていることを
お分かりいただけると思います。

人間はこのわずかな短い成長発育のプロセスの中で、
こころを表出する2つのコミュニケーションを整えることによって、
より具体的にお互いのこころを読み合うことのできる動物となっていくのです。*2

私たちの顔すなわち『あご』が、
現代社会の中での食べて生きるための最重要な場所であることは、
この理由によります。


*1 S. Mithen. The Prehistory of the Mind: The Cognitive Origins of Art, Religion and Science. Thames and Hudson. (1996).「心の先史時代」スティーブン・ミズン著、松浦俊輔、牧野美佐緒訳、青土社(1998年)

*2 S. Mithen. The Singing Neanderthals: The Origins of Music, Language, Mind, and Body. Harvard University Press. (2005) 「歌うネアンテルタール人ー音楽と言語から見るヒトの進化」 スティーヴン・ミズン著 熊谷淳子訳、早川書房(2006年)

*3 D. U. Silverthorn. Human Physiology: An Integrated Approach, 2nd. Upper Saddle River. NJ: Prentice Hall. (2001). and J. B. West, ed., Physiologiical Basis of Medical Practice, 12th ed. Baltimore: Williams and Wilkins. (1990). 


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