家と遺影
この頃、家探しに血眼になっており寝不足が続いていたため今日目が覚めたのが16時でびっくりした。
携帯を見ると『まもなく小雨になるでしょう、およそ9分間降り続きます』、の報告。そんな秒単位で天気を分析する方法がこの世界にはあるというのに、私は人間の心が分からない儘だ。新宿で真っ新なキャンバスを買おうと計画していたが、天気も悪いし無理しないでおこう。
部屋に求めている事は多い。
駅徒歩15分から20分以内、2階以上、バストイレ別じゃなくていい、日当たり良好だと嬉しい。都内には1時間以内で出られて、大学には30分以内で行ける事。家賃は管理費含め4万以内。
無い訳じゃない。
が、そんな物件を目にすると本当にそれを自分が求めていたのか分からなくなる。手に入りそうになると怖くなる。手に入れた物には月々支払いをしなきゃ駄目だ、バイトは続くのか、ちゃんと出来る?憎くなって来たりしない?また放棄して迷惑をかけたりしない?
基本的に自分を信用していないから引越しという大した問題でも無い事に対し非常に長く足踏みしている。優柔不断なのだろう、我儘で強欲なのだろう。
やってみなきゃ分からないし、その優良物件は4月にならなきゃ空かない訳だし、十分過ぎるくらい悩めばいいよ、と言ってみる。大学も一年ブランクあるから様子見てからでもいいじゃん?要するに新しい生活に変わる事が面倒くさくて、怖いんだろ?
実家に遺影は無かった。あったのは死者分の水の入ったコップだ。喉が渇いては辛かろうと祖母が毎日水を取り替える音を聞きながら目を覚ました。祖父が亡くなってからは一つコップが増え、私は手元供養のネックレスに遺髪を詰めた。
一人暮らしを始めてから記憶が暴走し出した。喜怒哀楽など自分には関係無かった筈なのにペットボトルを壁に投げて漆喰がボロボロ床に落ちる様を不思議に思っていた。そこらじゅうに記憶の断片がべっとり付いていつか天井や壁が自分を押し潰してくるに違いない、そんな妄想に駆られて実家に帰った。自分という殻から家出したいのに向かった先が実家とは非常に情け無い。
実家に帰って、海を見に行ったら知らない初老の男性に車で立待岬まで行こうと言われた。自殺名所だ。死にたい気分だったのに、彼のような出会ったとすら言えない人に命を渡せる訳が無いと、怒りが沸々込み上げてきて、断った。逃げた。浜辺の砂に足をとられながらひたすら走った。
こんな話、何度も書いているのに、書き足らないのだ。馬鹿みたいに繰り返さないとその記憶が何なのか、自分にとって意味を持つのかすら判断出来ないのだ。
(捨てちゃえ、もっと身軽になれよ、)
身軽になったらあの時の自分を見捨てる事にならない?
(そんなに自分の過去が大事なのかい?大したことでも無いから価値判断に時間がかかっているとは考えないのかな?)
ちょっと黙っててくれないかな
(ホントにお前は自己中心的で可愛げのない奴だな、孤独が嫌だと言いながら自分が生み出した存在を拒否して更に別の何かを探してるなんて。求めているものすらわからない時に足掻いたって苦しみを増やすだけじゃないか、一人相撲が一番徒労だぜ?しかも相手は自分なんだから、自己愛を拗らせたら余計他者と関わりを持てなくなるぞ?)
、、、。
(しかもお前には帰る場所がちゃんとあるじゃないか。此処じゃない、と言い張ったってお前がお前以外の人間になれないのと同じで既にあるものを改善する謙虚さを持てよ)
肥大化する頭の声にとらわれているから現実が進まないって事はないかな?このままだと私の遺影はこの家そのものになってしまうほど、家に人格を乗っ取られて寄生されそうだ。
ここまで書いて思う、果たしてこの題材はありふれた屑ではないか、と。
もっとユーモアを持って他の形にしろよ、と心が囁いている。
バイバイ、もうちょい待っててね、
また何を書きたかったのかわからなくなったよ
2024/03/25
追
これ書いてる途中で父から家賃を振り込めとLINEが来た。管理会社は口座変更をしてくれない。網戸は壊れた儘だし、トイレの扉は閉まらないし、排水口は蛞蝓やヒルが出てくるから木酢液や重曹を撒いている。1.9万円。安かろう悪かろう。そんな人間になりたくない。バイトしなきゃ、外仕事じゃなきゃなんでもいい、始めなきゃ、うーー。
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