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ユニクロの3センチに込められた意味

暑くなってきたので,ユニクロで感動パンツ(ウルトラライト・ウールライク)を購入しました。

感動パンツとは,軽く,動きやすく,肌触りがよく,自宅で洗濯できてシワになりにくい商品のこと。公式HPによれば,96%の男性が「また買いたい」と回答したとのこと(私も同意します)。詳しく知りたい方は,こちらからどうぞ。

https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/feature/kando-pants/

昨年から愛用していて,優秀だなーと感心していたのですが,今回驚いたのは感動パンツ自体ではありません。

私の記憶が確かならば,以前はウエストサイズごとの販売だった,つまり脚がめちゃくちゃ長い人以外は裾詰めが必須だったのですが,ウエストサイズに加えて丈が3センチ刻みで販売されていたのです(以前から販売していたらごめんなさい)。

たとえば,私の場合,ウエスト76センチ,丈73センチ。以前なら,試着して,ピン留めして,裾詰め(無料)をお店にお願いして,最短15分ほど待たなくてはいけなかったのが,ジャストサイズの商品があるので一連の作業が不要となりました。

便利すぎる!

置いてある商品を確認してみたところ,同じウエスト76センチでも,丈73,76,79……と,3センチ刻みのラインナップが揃えてあります。

一見すると大したことではなさそうですが,「パンツは裾詰めするのが当たり前」という常識を打ち破った,画期的なことではないでしょうか?

消費者として考えた場合,大変便利でありがたい話ですが,これを実現するため,ユニクロではどれだけのことを行う必要があったのでしょう?


以下は,私の想像です。

まず,丈3センチ刻みで販売するメリットとしては,顧客の利便性の向上,店内スタッフの裾詰め作業負担の軽減。デメリットとしては,3センチ刻みの商品の製造体制の構築と,売れ残りリスクの増加でしょうか。

少なくても短期的に考えた場合,メリットよりデメリットの方がはるかに大きそうです。

3センチ刻みの商品を揃えるには,まず従来のマックス脚長用商品を製造してから,3センチ刻みの裾詰め作業を行うのでしょうか。これまで製造工場では,裾詰め作業は行っていなかったと思われるので,その作業スペース,人材,ミシン等の設備を確保する必要があります。作業の習熟には一定の時間がかかるし,検品作業も発生。一定割合で不良品も出る。3センチ刻みの新しい商品タグを作る必要もある。販売実績管理も,3センチ刻みの丈の数だけ増え複雑化して増加します。

ここまで想像するだけで,とんでもない費用と調整が発生し,頭がクラクラしてきます。

さらに,重大な問題として,今までは,たとえばウエスト76センチのパンツを100本製造すれば,顧客の丈が何センチであろうと裾詰め対応して,70本売れていたとしましょう。

ところが,3センチ刻みの場合,丈73,76,79,82を各25本ずつ製造したら,それぞれ5,25,25,5本売れて計60本売れた。つまり,特定サイズが売り切れ,それ以外は売れ残り,トータル売上が減少するリスクがないでしょうか?

この問題の本質は,在庫リスクもさることながら,売り切れてしまったサイズの方。つまり,ジャストサイズさえあれば買ったであろう顧客を逃す可能性=機会損失が大いにありえます。


課題山積み。私が意思決定者なら,「コスパ悪そうだね」「3センチ刻みの販売はなし」と決定しそうです。

しかし,ユニクロは踏み切った。なぜか?そこには,「顧客満足度向上による顧客の囲い込み戦略と「テクノロジー活用によるコスパの向上」があるように思います(あくまで妄想です)。

まず,「顧客満足度向上による顧客の囲い込み戦略」ですが,私自身,今回の件で,ユニクロに対する好感度,顧客ロイヤルティが向上しました。感動パンツだけでも「素材革命」ともいうべき感動モノなのに,「顧客のため,ここまでやるか!」と感動しました。

そして,「テクノロジー活用によるコスパの向上」ですが,製造時点で,上記のような大掛かりな設備投資を行わない,何らかの方法があるのではないでしょうか?後から裾詰めするから大変なのであって,たとえばですが,パンツの元となる布を裁断する時点で,3センチ刻みに簡易に設定できるとか。

また,機会損失リスクに関しては,顧客が「このサイズの在庫ないんですか?」と尋ねてきた際に,近隣店舗の在庫をチェックして迅速に取り寄せられる仕組みを構築する。さらに,中長期的には店舗ごと,エリアごと,商品ごとに,サイズ別の販売状況を分析して,製造ラインに反映させるとか。

あるいは,リアル店舗販売からネット販売へのシフトを促進する意味もあるかもしれません。

私のように,ウエスト76センチ,丈73センチとパンツのサイズがわかる人は,今はまだ少数派ではないでしょうか?しかし,一度覚えてしまえば,リアル店舗へ行く必要はなく,ネットでポチッと購入できてしまいます。

トップスはともかく,ボトムスは裾詰め作業がほぼ必須なため,ネット販売が伸び悩んでいた。その問題解決のため,3センチ刻みの販売を開始したというのが,事の発端かもしれません(あくまで妄想です)。

また,あらためて考えるに,この「3センチ刻み」は絶妙な数字です。

1センチでは細かすぎるし,5センチではおおざっぱすぎる。2センチ刻みでもよさそうなものですが,仮に12センチの幅のラインナップを揃えようとしたら7種類(60,62,64,66,68,70,72)必要になるけど,3センチ刻みなら5種類(60,63,66,69,72)で済む。

ユニクロの3センチに込められた意味。ここには,大いなる物語が潜んでいる気がするのは私だけでしょうか?

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