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伊丹十三記念館を訪れて

伊丹十三は、13の顔を持つ男。

商業デザイナー、俳優、エッセイスト、CM作家など12の顔を経て、最後に映画監督にたどり着いたとは、知りませんでした。

「伊丹十三は不思議な男」と、妻の宮本信子館長は評します。

愛媛県松山市の記念館にまで行っておきながら、じつは私は、伊丹監督の映画作品をひとつも観たことがありません。もちろん「マルサの女」など、一世を風靡した作品のタイトルは聞いたことがありますが、その価値観や世界観は未知なのです。

しかし、伊丹監督自らがPRする3分ほどの映画宣伝の映像を見て、これはたまらない魅力を持った大した人物だな、と思いました。飄々とした風貌、味わいのある語り口、大人の余裕の風情、そして見る者をあっと言わせる人を食ったようなユーモラスな演出。

なぜ、今まで伊丹さんをよく知らず、作品も見たことがなかったのだろう、と後悔したほどです。

なにが、多面的な顔と深い味わいを持つ「伊丹十三」という人物を作り上げたのか?非常にこじんまりとした記念館ですが、私は1時間半ほどもじっくりと様々な資料を読み込み、考え込んでしまいました。

出口近くに、伊丹さんの父、伊丹万作さんの展示コーナーがあります。

「父の役割とは、父の父の役割を伝えることである」という言葉を引用し、戦時下の状況で、いかに万作さんが全体主義にあらがい、十三さんを心より愛おしみながら、肺結核のため46歳でこの世を去ったのかということが、切々と伝わってきます。子どもの十三さんを想う万作さんの詩は、ちょっと涙なしには読めません。

時を越えて伝わるもの、伝えたいもの。

伊丹作品をひとつも見たことのない私が言うのは僭越な限りですが、伊丹さんは人の一生の短さ、儚さ、切なさをよく知るがゆえに、透徹した視点で世の中を俯瞰しながら、同時にめいいっぱい楽しみ、おもしろがっていたのではないでしょうか?

写真の車は、伊丹さんが晩年に愛用したベントレーコンチネンタルE・BD。伊丹さんの審美眼が紹介されているエッセイも、じつに味わい深くおもしろそうです。

興味を持たれた方は、映画も、本も、記念館も、ぜひ。

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