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幻想を打ち砕かれたノマドランド

2021年米アカデミー賞で3冠(作品賞,監督賞,主演女優賞)を達成した「ノマドランド」を鑑賞してきました。

すごく単純で俗っぽい表現で恐縮ですが,一言で感想をいうと「ノマド,ムリ!」。

前提として,「ノマドランド」で描かれるノマドライフとは,アメリカの車上生活者のこと。アマゾンの工場などで短期労働をして小銭を稼ぎながら,単身,キャンピングカーで移動生活を送る人々です。

私が「ノマド,ムリ!」と感じた理由は,生活面・心理面の2つあります。

まず,生活面の理由は,食事は基本レトルト,トイレは車の中に積んだドラム缶,風呂なし・シャワーなし,洗濯はコインランドリー,車を停めて夜寝る場所の確保,暴漢に襲われる危険,体をのばして眠れない,寒い冬も車の中で凍えながら寝る,車が壊れたら基本アウト,必要なお金を短期労働で確実に稼げるかなど,不便で不満で不安すぎます。

また,心理面の理由は,日常的に会話をする人がいないこと,急病になったときに頼れる人がいないことなどが挙げられ,生活面の理由より正直こちらの方が大きい。

生活面の不便さは,日本であれば,コンビニ,スーパー,百均ショップ,漫画喫茶,スーパー銭湯,道の駅などの社会インフラが整っているので,アメリカより快適な生活が望めるのではないでしょうか。

しかし,「日常的に会話をする人がいない」というのは,致命的。いや,ノマドにもコミュニティがあり,車上生活社が安全に滞在できる場所はわりと決まっているので,ときどき集まって物や情報交換をしたり,仲間との交流や友情はあります。

しかし,基本は「ひとり」です。

もともと,私は孤独耐性が高いほうで,数年前に肺炎で1週間ほど入院したときも,仕事や家事・育児から解放されてこれ幸い!とばかりに好きなだけ本を読んだり,映画鑑賞したり,SNSで発信したり,自由な時間を満喫しました。

堀江貴文さんは勾留中に孤独を感じて大変だったそうですが,作家の佐藤優さんは読書に打ち込んだり大丈夫だったそうで,おそらく私は佐藤優さんタイプです(経験してみないとわかりませんが)。

そんな私なので,世界中を旅しながら生活するノマドライフに幻想や憧れがありましたが,「ノマドライフ」を観て「ひとりは無理!」と痛感しました。

なぜか?

「ノマドライフ」は,個人の自由を最大限に追求した生活のはずですが,あまり楽しそうでも,幸せそうでもない,と感じられたからです。

光があるから影が引き立つように,家族や仲間と過ごすベースの時間があってこそ,「ひとり」の時間が大切になる。ベースが「ひとり」となり,日常的に関わる他者が存在しない人生には楽しみや喜びは少なく,なんのために生きているかわからなくなるのではないか,と思ったのです。

もちろん,人それぞれの感じ方,考え方があると思います。しかし,孤独耐性が高く,ノマドの適性があると思っていた自分が,じつはそうではなかった,というのは本当に意外な発見でした。

興味を持たれ方は,ぜひ。


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