映画「ファーザー」に涙が止まらない
映画「ファーザー」を観てきました。
主演のアンソニー・ホプキンスが「羊たちの沈黙」以来,2度目のアカデミー主演男優賞を受賞,また脚色賞も受賞した話題作。
噂には聞いていましたが,「認知症の人の目から見た世界」に愕然とし,涙が止まりません。
ややネタバレになりますが(実際に映像で見ないと,このリアリティはわからず,問題ないと思われるのでバラします),認知症により記憶力が衰えているため,娘が別人に見えたり,見知らぬ他人が家の中にいたり,娘の家が長年住んできたわが家に思えたりするのです。
しかも,認知のズレがある一方で,過去の記憶と整合性を図ろうとする理性は健全。目の前の人を邪険にしない思いやりや,ウィット、ユーモアの精神もある。
そのため,「これはいったい,どういうことだ!?」と,周囲よりも誰より本人が不安でたまらなく,混乱するのです。
想像してみてください。
ある朝起きると,見知らぬ女性が家の中にいて,「お父さん!」あるいは「お母さん!」と親しげに話しかけてくる。
通常の反応なら,「誰だおまえは!」「なぜ,どうやって,うちに入った!」と言うところですが,その女性はたしかにわが子のように自分のことをよく知っている様子で,まるで悪意もなく,朝食の準備をしてくれているのです。
いったい、何が起きた?
「ちょっと,驚かせてやろう」というタチの悪い冗談なのか?あるいは、寝ている間に宇宙人によってパラレルワールドへ連れ去られたのか?
時間が経っても解決することはなく,むしろ状況は悪化します。
なぜなら,その見知らぬ人物や出来事は、ひとつ前の記憶とは矛盾していても、さらにひとつ前の記憶とは整合性が取れていたり,そのさらにひとつ前の記憶とはやはり矛盾したりするからです。
もう,何を信じたらいいのか,わからない。他者はともかく,自分のことさえ,自分の記憶さえ信じられなくなったら,もはや自我を保つことは困難です。
認知症とは、かくも残酷なものか。
ラストのアンソニー・ホプキンスの演技は,涙なくして見られません……
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