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2019年に読んでよかった10冊の本。

2019年は、人生が大きく変わった激動の一年でした。

4月には転職し、このnoteを運営しているピースオブケイクで働き始めましたが、前職と変わらず本に囲まれたオフィスで、コンテンツに関わる仕事ができていて、プライベートもいろいろあったけど、本を読む余裕があるくらいには楽しく生活できています。

仕事とプライベートの総括は残すところ数時間しかない2019年中にはできそうにないので、読んだ本で振り返ってみようかなと思います。

1. 『夏物語』川上未映子(文藝春秋)

芥川賞受賞作『乳と卵』の登場人物たちのその後を描いた長編です。結婚はしていないし、性的なことへの欲求もない小説家の夏子は、自分の子どもを望むように。第三者から精子提供を受ける人工授精(AID)で生まれた人に話を聞いたり、シングルマザーやひとりで生きることを選んだ友人女性に考えを打ち明けたりして、「結婚せずに子どもを生むこと」を悩み、決断していく様子を描いています。

ちょうど自分も離婚を目前にしていたので、読みながらたくさんのことを考えて、そのぶん思い入れがとても強い一冊。子どもを持つということにも、結婚して出産する以外の選択肢はたくさんあるし、もちろん子どもを持たないという選択肢もあるし、どれが正しいということでもない。それでも生きていく女性たちの強さに、勇気をもらえる作品でした。

2.『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ(筑摩書房)

韓国では100万部を超えるベストセラーになった小説。1982年に生まれたキム・ジヨンという女性の幼少期〜子育てをはじめるまでの人生を、精神科医によるカルテというかたちで振り返っていきます。

わたしは幸いなことに、これまでの学校や職場でも「女だから」という理由で嫌な思いをしたことは少ないし、出産問題にも直面していないけれど、キム・ジヨンが受けてきた「女だから」を理由にした待遇や被害と同じようなことは、日本でも今日もどこかで起きているし、他人ごとではない。そして、世の中には「女性」以外の差別もたくさんある。“フェミニズム本”で片付けてはいけない、世の中のことを考えるきっかけになる一冊です。

3.『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン(講談社)

去年、『早稲田文学 女性号』で読んで衝撃を受けた「掃除婦のための手引書」を表題作にした作品集! ということで、当然すぐに買いました。

どの作品も数ページから20ページくらいの短いものばかりで、登場人物は異なります。でもほとんどの作品は、シングルマザーやアルコール依存症、掃除婦や教師などといった著者自身の経験を下敷きにしたものと言われています。だからか、描かれているシーンの一つひとつが鮮明で、感情がむきだし。過酷なことも悲しいことも、ちょっとした幸せもユーモアも、まるっと詰め込まれた、人生みたいな短編集。

4.『月と六ペンス』サマセット・モーム(新潮社)

ずっと気になっていたけど、なんとなく読むタイミングを逸していた本。友人に薦められた直後に、本屋で目に飛び込んできたので買いました。結果、「いま読めてよかった…!」と唸りました。

幸せな家庭と安定した職業を捨てて、画家として生きることを選んだ男の生涯を描いた作品。この男の発言とか行動にはいちいち腹が立つけれど、同時に、才能に生きることを選んだ人間の孤独も感じて、”アーティスト”と呼ばれる人たちの生きざまの一端に触れた気持ちになりました。クリエイターに向き合う仕事をしている身として、考えるべきことがたくさん生まれた作品です。

5.『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』幡野広志(ポプラ社)

がんを宣告された幡野さんが、がん患者へのインタビューや周りの人との対話を通じて考えた「家族」について綴っています。

この中でわたしが勇気をもらったのは、「家族は、選ぶことができる。」という言葉。

 同性婚を含め、自分で選んだパートナーこそが、ファミリーの最小単位なのだ。
 親を選んで生まれることは、誰にもできない。
 でも、パートナーを選ぶことだったら、誰にでもできる。
(『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』幡野広志 p147より)

親と仲良くできないことに悩み続けていたわたしに、「別にいいじゃん」と言ってくれたようで、前向きになれました。離婚の後押しもしてくれた気がします。

6.『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』東畑開人(医学書院)

昔から悩みを相談されるのが苦手だった理由が、本書を読むことでわかりました。「ケアとセラピーについての覚書」という副題がついているこの本では、ケアは「傷つけないこと」、セラピーは「傷つきに向き合うこと」と定義しています。

なにかに悩んでいる友人が「ケア」(相手のことを傷つけずに、話を聞いて、してほしいことをしてあげる)を望んでいるとき、わたしはつい「セラピー」(傷を生じさせている問題を明確化し、そこを変化させていくよう介入していく)をしたくなる。でも、「たぶんいま相手が望んでいるのは、話を聞いて『間違ってないよ』と言ってあげることだよなぁ。けど、それって意味ある?」と悶々して、結局、中途半端なことしかできなくなってしまっていました。

ここでは、ケアとセラピーは別のものではなく、ケースバイケースで選び取っていくものだと書いています。まずケアをして、相手が大丈夫になってから、セラピーをするというやり方もある。状況に応じて、ケアとセラピーどっちもできる人間になりたいと思いました。

7.『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(新潮社)

英国でアイルランド出身の配偶者と息子と暮らす、福岡出身のブレイディみかこさんが、中学校に進学した息子の学校生活や友人との交流の様子を描いたノンフィクション作品。

人種もバラバラ、貧富の差もある人たちがあつまる息子の中学校。平気で人種差別的発言をする友人もいるし、制服が買えない友人もいる。そんな中で、英国では「東洋人(オリエンタル)」、日本では「ガイジン」と呼ばれる息子が、いろいろな差別を目の当たりにしながらも少しずつ成長していく様子が描かれています。

英国の格差や差別のリアルにも衝撃を受けましたが、なにより驚いたのは、この息子のかっこよさ! 「え、ほんとに12歳!?」と疑いたくなるほどに、目の前で起こる差別に冷静に向き合い、考え、自分の態度を決めようとしている。彼のこれからの物語もずっと読んでいたくなりました。

8.『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』辛島デイヴィッド(みすず書房)

村上春樹の作品が海外で読まれるようになっていく過程で、その作品に携わった翻訳者や編集者、エージェントの話を追ったノンフィクション。”世界のHaruki Murakami”が生まれるには、その才能に惚れ込んだ多くの人の力がある。noteディレクターのミッション「クリエイターのバリューを最大化する」を、まさに実践している人たちの仕事を知りました。

文学作品の翻訳の難しさをあらためて感じ、多くの翻訳者たちに心からありがとうを伝えたくもなりました。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の原書は、一人称「私」と「僕」の章が交互に描かれる作品。でも、英語では「私」も「僕」も同じ「I」。この世界観の違いを表現するために、英語では「過去形」と「現在形」という時制の違いで区別することにしたという話に、おもわず「ほぉーっ!」と膝を打ちました。めちゃくちゃ考えたんだろうなぁ。

9.『ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー(東洋経済新報社)

会社の研修の一環で、CEOの加藤さんにオススメされた本。「相撲に八百長は存在する」「中絶の合法化で犯罪が減った」といったような事実をデータによって証明し、通念をひっくり返していくのが痛快!

「みんながそう言ってるから」「これが当たり前」と決めつけてしまうことの恐ろしさに気付かされたと同時に、「数字っておもしろい!」と教えてくれました。来年は経済学を含め、教養をしっかり勉強して身に付ける年にしたいと思います。

10.『違国日記』ヤマシタトモコ(祥伝社)

最後はマンガ! マンガもいろいろ読みましたが、これはピカイチでした。

両親を事故で失った中学卒業間近の主人公が、少女小説家で人付き合いが苦手な叔母(母親の妹)の家で暮らす様子を描きます。「同じ空間に他人がいるのが耐えられない」叔母が、姪とのコミュニケーションに悩みながらも、一人の人間として尊重して向き合っていく姿には、人と人がともに生きることの本質を感じます。

これまで、他人とのコミュニケーションでは逃げてきたこともたくさんあったけど、いろいろリセットした2019年を経て、来年はちゃんと真剣に向き合っていこうと思っています。

・・・

こうして振り返ると、自分が悩んだり直面したりしていたテーマ(家族や仕事)にシンクロする作品が多いこと気づきました。そして、本を読んだことで、背中を押されたり、救われたこともたくさんあったなと。

やっぱり、本は、いい!

「人に薦められた本はとりえあず買う運動」は来年も継続しますので、いい本があったら教えてください。

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