失いたくないでぴゅ

期末試験だった。

わたしはテストの記入が終わり、開放感を噛み締めながら残りの時間をボーッと過ごしていた。

ふと、下を向いた。

急いで家を出てきた為、パーカーワンピ1枚に生足、スニーカーというファッションだった。通りで足が寒いわけだ。しかし、わたしは強く心に決めている事がある。


「寒い」と言わない、と。


なぜならわたしは、自分でこの服を選んで着てきたからだ。

もし全身防備されたあったか~い服を着ていたとしたら「寒い」と大声で言える。
または、何かの事故があって全身纏っていた布が剥ぎ取られた際には「寒い」と全力で叫びたい。

今回、足を出したのは紛れもないわたし自身なのである。そんな地球(気温)を舐め腐っているわたしが、地球(気温)のせいにするのはどうかと思う。だから寒いと言わない。

寒さはどうでも良いと諦めていたが、どうしても気になって仕方ない事があった。


膝が砂漠かというくらい乾燥していたのだ。

真冬でも半袖短パンで校庭をかけまわっているわんぱくな男子小学生と同じ膝になっていたのだ。


これは、かなりひどい。
かわいいパーカーワンピを着ているのに、膝がわんぱく男子小学生なのだから。

今、手元にあるのはリップクリームとペットボトルに入っている水だ。
リップクリームでは範囲が狭すぎるし、膝がギトギトになりかねない。それに口につけるものを膝につけるには抵抗があった。
そうなると、もうペットボトルに入ってる水で潤すしかないと、ペットボトルを開けたところで冷静になる。

水をかけたら確実に寒い。


危ない。
水をかけて凍った足を引きずって帰る所だった。
そして思わず「寒い」と口にしてしまい、自業自得だろバカ女!と責められる所だった。(こんな酷いこと言う人いないと思うけど)


ここで、試験終了の合図があった。
わたしはどうしても膝が気になって仕方なく、ついに口に出してしまった。
「やばい膝めちゃ乾燥してるんだけど!」

一斉にみんなの視線がわたしの膝に集まる。
やだ……やめて、見ないで!!!

1人の女の子がハンドクリーム持ってるよ?と、膝がわんぱくなわたしに声を掛けてくれた。天使だ。
砂漠の中で見つけたオアシスのようだった。


柑橘系の香りがするハンドクリームを遠慮なくたっぷりと膝に塗らせて頂いた。

わたしはハンドクリームが好き。

色んないい香りがあって、持ち運びが簡単で、いつでも乾燥を潤すことができる。
かわいいハンドクリームや気に入った香りのハンドクリームを見かける度にほしくなって買っている。

そういえば、わたし、ハンドクリームを使い切った事ないな。



膝を潤しながら考え込んでしまった。
どうして、ハンドクリームを使い切った事がないのか。




たぶん、いや、確実に、無くなるのが嫌。



とにかく無くなるのが嫌なのだ。
わたしの中で、ハンドクリームは所持しているだけで満足してしまうアイテム。
使い切って無くなってしまうのがもったいない。








使わないなら買う意味ないと思われるんだろうな。
でも、わたしにはしっかり意味がある。もっているだけで女子力とテンションがあがるお守りみたいなもの。







手に入らないものが嫌いだし、手に入れたものを失うのも嫌い。


パン屋さんやケーキ屋さんに行くと少し切なくなるのもそのせい。
全部買えない、全部食べることが出来ない。

図書館や本屋さんも腹が立つ。
多分一生かけてもここにある本を全て読むことは出来ないと思うから、それがとても悔しい。








でもそれでいい、それでいいんだ。
全部手に入らないから毎日が面白い。
選択できる喜びがある。






全部手に入れる事が出来ないとわかっているから、手に入ったものを大切にしようと思える。







ハンドクリームも今日からしっかり持ち歩こう。
わんぱくな膝にならないように、もったいぶらないでしっかり塗ろう。膝に。







膝…に?









そういえばわたし、膝以外は乾燥肌じゃなくて脂肌だった。










だからハンドクリームを使い切れた事がないのか。
謎が解けてすっきりし、潤った膝で帰った。















ボディクリームをしっかり塗ろう。

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