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★台湾法廷傍聴記★2 高等法院

台湾台北地方法院での傍聴が大変に興味深かったので、台湾高等法院も傍聴してきました。この日、刑事法廷は休みだったので、民事法廷のみ傍聴しました。
 
・9割律師
高等法院(民事)は権威を感じさせる西洋風な外観内装で、法廷部分は2階建てでした。正面玄関を入ると2階に上る階段があり、左右に廊下が伸びて法廷がいくつかありました。2階への階段を登ると、ソファーとテーブルがいくつか用意された待ち合わせスペースがあり、やはり左右に廊下が伸びて法廷がいくつかありました。1階2階合わせて約20の法廷がありました。この待ち合わせスペースで開廷時間を待っていると、人が集まり始め、その人達が律師の法服を羽織りだし、数回瞬きをするうちに居合わせた人の9割ほどが律師という壮観な眺めになりました。この日、律師控え室は使用不可だったのかもしれません。法服の下はカジュアルな装いの方も多く見受けられました。

・当事者席の位置
地方法院の法廷と高等法院の法廷の違いの一つに、当事者席の位置の違いがありました。地方法院の法廷では、裁判官・書記官席の左右に当事者席が設置されていましたが、高等法院の法廷では、裁判官・書記官席の前に当事者席が設置されていました。
 
・傍聴人は珍しい?
法廷の左右の壁にスクリーンが設置されている点は高等法院の法廷も地方法院の法廷も同じでしたが、高等法院の法廷のスクリーンはウィンドウズのデスクトップのままで、当事者席のモニターの様に調書は映し出されませんでした。これは、2,3法廷を見ましたが同様でした。私が傍聴席に着くと、事務官がすぐに席を立って私の側に立ち何事かを問うので、「傍聴したい」旨の翻訳画面を見せると、「なんだ傍聴か、OKOK」といった身振りと共に踵を返していきました。どこの法廷でも事務官は代理人や当事者が来ているかを積極的に確認していたので、「どういう立場でここにいるのか」といったことを問うたのだろうと思います。待合スペースにもいくつかの法廷にも当事者や証人はいても傍聴人はいなかったようなので、地方法院と異なり高等法院では傍聴人はかなり珍しいのではないかと思いました。
 
・直接主義・口頭主義
高等法院の法廷の左右の壁のスクリーンには調書が映らないので、当事者席のモニター画面を読むことができる傍聴席に移動しました。高等法院での審理は地方法院の判決に対する不服に沿って行われていると思われ、やりとりは地方法院の傍聴ほど分かりやすくはなかったのですが、驚いたのは、直接主義(判決をする裁判官自身が直接に当事者の弁論を聴取し、証拠調べをするという原則)・口頭主義(原則として、判決は口頭弁論に基づいてこれをしなければならないとの考え方)が高等法院でも徹底されていると感じたことです。

各訴訟代理人は事前に書面を提出した上でその内容を口頭で述べているようでした。書記官はその発言(又はその要旨?)や「〇〇書面〇の〇頁第〇(2)の通り」といった内容、裁判官の発言・訴訟進行、証人の証言を調書に記載していき、裁判官、各訴訟代理人、各当事者、証人らの指摘を受けて調書の記載を修正し、書記官の記載する内容は随時モニターに映された調書に反映されていきました。
 
ある損害賠償事件の証人が4~5人、1人約30分づつ証言をしましたが、その属性(目撃者、被害者の配偶者、救急搬送された病院の看護師など)や録取された証言の内容(被害者との位置関係、距離、被害者が事故後何と言ったかなど)からすると、その証人らはおそらく地方法院でも証人として同様の証言をしているのではないかと思われ、高等法院に移審し裁判体が変わったので改めてその証言を高等法院の裁判官が直接聴取しているのではないかと思いました。

日本では地裁でも高裁でも事前に書面を提出し、法廷では「書面のとおり陳述します」と述べれば足ります(必要に応じて補足説明はしますが。)。台湾では、日本と異なり、書面に沿って実際に口頭で陳述がなされた上、補足説明もなされているように感じました。
日本の高裁での証人尋問はかなりハードルが高いです。地裁の裁判官の前でなされた証言が録取され、それを高裁の裁判官が読むことで、裁判全体として直接主義・口頭主義が行われているということになっているのだと思います。
台湾の裁判において証人について直接主義・口頭主義が徹底されている点を羨ましく感じました。
 
・裁判の公開
地方法院同様、高等法院でも、開廷中各法廷の扉は開け放たれていました(証人尋問において後の証人に先の証人の証言を聞かせたくないときは、後の証人は退廷し扉は閉められました)。開廷中、裁判官・書記官らの食事と思われるお弁当が法廷に配達されましたが、誰も全く驚く様子がなく裁判の公開が徹底されていると思いました。
日本では受付や書記官室にはともかく法廷にお弁当が配達されることはないです。
 
・その他
日本では司法試験は裁判官、検察官、弁護士に共通で、裁判官、検察官は修習後任官試験を受けますが、台湾では裁判官の司法試験と律師の司法試験が異なるそうです。また、律師の修習中、裁判所内での修習はないそうで、司法修習については日本の方が充実しているのではないかと思います。
台湾では近年裁判官の年金制度が変更され、それに不満を持った裁判官が大量辞職し人手不足になっているそうです。

高等法院での傍聴も大変に興味深いものでした。

*写真は、台湾高等法院民事法廷の建物。

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