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「志高く」バックナンバー⑯~「教える」ということ

こんにちは、志高塾です。

本日再録している「志高く」では、弊塾の教材の一つである、『きまぐれロボット』という星新一の短編集が取り上げられています。

教材に関して、簡単に補足を。
題材となっている物語を読んだ後、まずは大枠を掴むための「メモ」(変化の前後と、その理由)をまとめます。次に、ストーリーを200字に要約し、最後にその話の「主題」を導き出します。これが、主な取り組みとその流れです。

この「主題」ですが、紙の上に書いておしまい、ではなく、自分自身の日常生活に落としこんで考えてみると、新たな視点や気づきを得られることが往々にしてあります。
以下の内容は、まさにその最たるものでしょう。


Vol.53「『教える』ということ」(2011年9月/内部向け発行)

良い本に出会ったと友人が電話を掛けてきてくれたので、どこがどういいのか尋ねると、著者が苦労して得た教育だかビジネスだかの上手なやり方について書かれていて、それが参考になったということでした。世の中には、この手の情報が溢れています。

我々が教材として使っている『きまぐれロボット』の中の話の1つに次のようなものがあります。
ある博士が、リオンというリスとライオンの長所をうまく混合した(リスのかわいさとライオンの勇猛さを兼ね備えていて、平穏なときはかわいいペットなのだが、危険に遭遇したときには自分を守ってくれる)動物を作り出しました。その話を聞いた別の博士は、ブドウとメロンを掛け合わせてブロンという果物を開発しようと試みるのですが、あえなく失敗してしまうという内容です。メロンのような大きな実がブドウのようにたくさんできることを期待したものの、反対にブドウのような小さな実がメロンのように少ししかできなかったからです。

この話で子どもたちが最初に導き出す主題は、十中八九「人の真似をすると良くない」というものです。そこで、「上手にできた人の真似をするのは悪いことではないでしょ。では、この博士が成功するにはどうしたらいいのか」と質問を投げかけると、「成功するまで、何回も挑戦すればいい」「自分なりに工夫するのが大切」というような内容のものにたどり着くことができます。実際、本文の中にもリオンを作った博士は苦労してようやく完成させたということが書かれていて、ブロンを作ろうとした博士が1回失敗したところで話は終わっているのです。

教えるということの理想形は、「リオンという動物を作ったから見せてあげる。すごいやろ」と嬉しそうに見せてあげるだけで、それ以上何もしないことです。それを見た子どもが「じゃあ、ブロンを作る!」となったときには、子どもの性格に合わせて「君ならきっとできる」と励ましの言葉を掛けてあげたり、「君にできるかなぁ」と発破をかけてあげたりすることです。

冒頭に挙げたような類の本は、「正しいブロンの作り方」というマニュアルのような感じがするので嫌なのです。仮に子どもがそれを読んだとしたら、そこから学ぶことは、世の中には楽な方法が存在して、それをいかに手に入れるかが大事という間違った考えです。そもそも、そのように簡単に手に入れられるものだとしたら、それ自体に特別な価値はありません。

実際には、子どもは上記の通りに反応してくれません。だからこそ、「ブロンを作りたい」というような興味を持たせること、そして、その過程で上手に苦労をさせてあげられるような仕掛けを授業の中に盛り込んであげることです。一言で言えば、「考えさせるための仕掛け」ということになりますが、その重要性をより分かりやすく伝えようと文章にしてみました。

                              松蔭俊輔

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