四季ノ 東

シキノアズマです。 手探りで文字書いてます。

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  • じいの葬祭 シリーズまとめ

    祖父の葬式のために帰省した作者ことサクラが体験した伯母やその家族とサクラたちの騒動を綴るエッセイ「じいの葬祭」シリーズをまとめたものです。 更新した都度に追加しますので、まとめて読みたい方はぜひご活用ください!

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狂気を孕む 第一章 一話

(あらすじ)  それは我が子を授ける「キチショウカのおまじない」  気分屋な大学生、黒田深海は夏季休暇明けに大学の先輩から聞かされた話に興味を持った。それは、不妊に悩む女性の間で流行っているとあるおまじない。先輩の姉はおまじないを実行し、子供を授かったのだという。  しかし、姉は凄惨な死を遂げ、胎児は行方しれずに。事の次第を聞いた深海は、講義終わりに民俗学専攻の大学教授、御門尊に相談する。 ーー降って湧いたようなおまじない、不審な死因、胎児の行方、加速する事態。それらの謎を追

    • じいの葬祭29

         気分の落差というのはジェットコースターのように激しくなく、振り子のように緩やかな緩急で生じるものだ。  アニマルセラピーによって多少落ち着いた気分は、会場に近づく程ゆっくりと上がり下がりを繰り返し、やがて最低位置で停止した。  容赦なく照りつける日差しは湿気など含まず、地上を焦がすような渇いた熱を発している。  窓ガラスや道路に引かれた真っ白な線が目に突き刺さるような眩しさを纏っており、私の視界は八割ほどが白く、うっすらとした建物の輪郭や色味を捉えるのみである。  流石

      • じいの葬祭28

           「フラフラする……」  どんよりと沈んだ気分のまま、不規則に揺れる体に苛立ちながら、私は鏡と向き合っていた。  上半身は母から借りた白いインナー、下半身は持参してきたリクルートスーツのパンツで覆っている。  時刻は三時前。集合時間は三時半であるが私たちは急ぎつつ、いや急ぎながらモタモタしつつ身支度を整え始めていた。  「チッ、暑くて汗かいたんだけど」  苛立ちのまま舌打ちをこぼせば、弟が大袈裟に驚いた表情でビクッと肩を跳ねる。その手には、成人式で着たというスーツがあった

        • じいの葬祭27

           発熱により一眠りしたあと、結局母はばあの泣き落としに折れて通夜と葬儀に参加することとなった。途中、リュウからメールで謝罪されたり、心配されたものの、その趣旨を伝えれば安堵していた。  リュウやかん姉に罪悪感やら心配やら抱かせるのが申し訳ないと思いながら、とりあえずひと段落ついた現状に心なしか頭痛も和らいだ気がする。  とはいえ、貧血症状が出始めたため、通夜で粗相しないか心配ではあるのだが。  現在時刻は午後一時過ぎ。  ばあは先に母と弟が会場に送ったところである。母一人で送

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        狂気を孕む 第一章 一話

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        • じいの葬祭 シリーズまとめ
          28本

        記事

          じいの葬祭26

           フレンチトーストを食べ、ベッドに横たわる。全身にのしかかる倦怠感と、もう何もしたくない気持ちでいっぱいだ。  通夜は出ないといけないし、母を説得するにはどうすればいいのか、頭を悩ませども熱に茹る思考回路は正常とは言い難い。  むしろ、なぜ私がこんなに悩まないといけないんだと怒りが沸々と込み上げて来る。脳内で、伯母に何度も言い募り、言葉でコテンパンにすれど治らない。  いい加減にしてくれと喚きたくなる気分だ。  怒ったり悲しんだり、無気力になったり、冷静になったりと忙しない思

          じいの葬祭26

          じいの葬祭25

           ふと気がつくと、窓の外は朝日の眩しい晴れやかな空となっていた。室内灯の光はチカチカと目に刺さり、手探りでサングラスを探す。  枕元に転がっていたそれをかけて、ズキズキとした痛みと重怠さを持った頭を抱えながら、壁にかけられている時計を見やった。  時刻は八時である。  どうやら、あのまま眠り込んだらしい。  隣のキッチンから作業音が聞こえるため、母は朝食の準備をしているようだ。  私が最後に起きたらしく、ばあと弟はテレビを見ていた。  「ハル、ばあ! 朝はフレンチトーストでい

          じいの葬祭25

          じいの葬祭24

             家についた私達は、玄関に荷物を置いて居間に向かう。  ばあは暗い中をずんずん進んで、明かりもつけずに玄関に上がっていたため、少し心配した。  にゃあにゃあと白と茶トラの子猫が軒下から出てきており、また野良猫が増えたのかと驚く。  この島には野良猫が多い。至る所に生息しているため、家でご飯をねだることは少なくないのだ。以前訪れた時は三毛猫と黒縁の猫であったが、その子供だろうか。  「ただいま……」  「おかえり」  母は私の声にそう返し、電子タバコを吸っている。  寝起き

          じいの葬祭24

          じいの葬祭23

           暗い車内でスマートフォンを触って母にメッセージを送る。漢字変換する気力も無く、「発作起きたから、帰る」とだけ打った。  熱ぼったい目をぎゅっと瞑り、ハンドルにもたれ掛かって息を吐く。バクバクとうるさい心臓を鎮めるように、何度も深呼吸をした。  先程まで気づかなかったが、体の節々に痛みがあり、重だるさを感じていた。おそらく、発熱しているのだろう。高熱でなくとも、七度五分以上八度未満といったところか。パニック発作の後は大抵熱が出るため、感覚でわかった。嫌な慣れである。  ーー十

          じいの葬祭23

          じいの葬祭22

             私はなんとか会場内に戻った。  どれだけもがいても離してくれない上、吐き気と軽い過呼吸が重なって体調はとても悪い。とにかく、誰かに伯母を引き剥がしてほしかったのだ。  入ってきた私と伯母の状況に、弟は席を立った。号泣といってもいい程泣きながら伯母を拒絶している私を見て、かん姉とリュウは眉を顰めた。  しかし、席を立つ様子もなく、静観している。なぜ引き離してくれないのか、私は期待を裏切られた気持ちになった。  「離して、本当に離して!」  「大丈夫よ、ね? おばがここに居

          じいの葬祭22

          じいの葬祭21

           目元の熱が少しマシになり、サングラスをかけ直す。乱れた髪を整えて、鏡を見た。汗ばんだせいか、髪はうねり、首や頬に張り付くのが不快だ。  さて、そろそろ戻ろう。  そう思うと緊張するが、心を奮い立たせて話し合いに臨む姿勢を作った。  トイレのドアに手を掛け、引く。  しかし、私が力を入れる寸前、ドアの向こう側から開かれた。  ーーそこに立っていたのは、伯母だった。  「えっ……?」  予想外の人物に驚いて立ち竦む。私は自然と後退り、再び洗面台の前に立った。  なんで、トイレか

          じいの葬祭21

          じいの葬祭20

             「はぁー……もう一回トイレ行って来る」  「大丈夫?」  「ん……落ち着いたら戻るよ」  弟から離れ、重く熱を持った目元を抑えながら深く息を吐いた。  「眠そう」  「……まぁ、完徹だし」  ぼんやりとする視界をどうにかすべく、ぎゅっと目を閉じる。焦点が定まらないのだ。  数秒して目を開くも、焦点定まってなかった。  「つかさー……ミヨさんヤバくね? 聞いててイライラしたわ」  「イラついてたのね、お前」  声を潜める弟は、眉間に皺を寄せて不快な感情を露わにしている。そ

          じいの葬祭20

          じいの葬祭19

           一番手前の個室に篭り、すぐさま便座へ顔を近づける。口を開いた瞬間、胃が収縮し、胃液が吐き出された。  やばいやばいやばい、薬持ってないのにパニック発作起きた……!  鳩尾あたりが凍ったように冷たくなる。それはゆっくりと全身に広がり、比例して感覚が麻痺し、立てなくなった。  平衡感覚を失った体は崩れ落ち、ガタンと頭を壁に打ちつける。その拍子に、サングラスはカシャンと音を立てて床に落ちた。  バクバクバクと高速に鼓動する心臓、じーんと痺れていく脳みそ、ぼんやりと霞み、次第にぐる

          じいの葬祭19

          じいの葬祭18

           会場に到着し、車から降りる。弟の手荷物はリュックサックのみで、大層身軽な出で立ちだ。  「これ開いてるの?」  「開いてる」  閉じられたガラス扉に近づき、軽く押して開く。弟は、頷いて通っていった。  会場の扉を開くと、中の光が周囲を照らす。暗闇に慣れた目の奥を一瞬だけズキッとした痛みが走った。  「おー! 久しぶり、ハル!」  「よく来たねー。おつかれさまー」  リュウと伯母が明るく弟に声をかけてきた。弟は「あ、はいお久しぶりです」と淡白な反応をしつつ、私に線香のあげ方を

          じいの葬祭18

          じいの葬祭17

           数時間前に訪れた港には、見送りと迎えにやってきた人で混雑していた。早朝であるが子供の姿も多く見受けられる。やはり、船が港に入る時刻は人で賑わうようだ。  待合所の側に停車して、スマートフォンを取り出す。弟のチャット欄を開き、迎えに来た趣旨を簡潔に送った。  船はすでに接岸している様子だが、既読はつかない。スマートフォンを見る暇が無いのだろうか。  私はなんだか胸がムカムカする感覚に大きく息を吐いた。事態が好転しない今、ちょっとしたことでも多大なストレスとなって心身を蝕んでい

          じいの葬祭17

          狂気を孕む 第一章 九話

           「まず、二人のトークルームを開いてくれ。今回亡くなった木下樹から送られたメッセージと動画は同時刻で合ってるか?」  「あってるよ」  「よし。私はチャットツールに詳しくないのだが、同時に二人以上へ動画を送信することはできるのか?」  御門は基本メールを使用しているため、SNSに疎かった。メールで一斉送信が可能ならばチャットも可能だろうと思っているものの、念の為確認する。  返答は、予想していたものだった。  「可能ですよ。……ですが」  「疑問だよねぇ。動画見た限りだと先輩

          狂気を孕む 第一章 九話

          じいの葬祭 16

            母が降り、静かな車を運転しながら、私は先ほど聞いた話を思い返していた。  ことの発端は、察していた通り伯母の余計な一言にあるらしい。受け流していたものの、一番触れてほしくない事を引き合いに出され、我慢ならなかったようだ。  まとめてしまえばそれだけなのだが、そこに至るまでの過程が母の怒りのパラメーターを振り切る要因になった。  箇条書きにするとこういうことだろう。  ・昔の思い出話をしていた。その過程で軽く貶されたりもした。  ・リカコさんについてしつこく聞かれた  ・自

          じいの葬祭 16