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人間は死ぬ時に何が起こるのか?ーーー看護師が解説する人間ってよくできてるんですよって話

人間ってどうやって死ぬか知っていますか?

私は普段某国立病院で病棟看護師として働いている看護師です。
なので、ごく普通に暮らす人より病気や死に触れる機会が多いです。

死について考えてみよう的な文章にありがちなことですが、日本は死に触れる機会が少ないです。
誰かを看取る、お葬式など故人の旅立ちを見守ることは、自分の親ぐらいではないでしょうか?
これには、核家族化やハレとケの概念など色々な要素が影響しているそうです。

いろんな影響があるとしても、自分が死ぬときに何が起こるのかわからないって不思議な話ですよね。
人間である以上、必ず死にます。
それは明日か数十年後は人によります。
突然かもしれないし、闘病をした後かもしれません。

なかなか知る機会がない「死」
今回は“老衰“で死ぬ場合について少し解説してみたいと思います。

この解説ではあえて人間ではなく機械のような表現をしています。
この書き方を不快に感じる方がいると思います。
最近身近な方を亡くされた方は特にそう思われると思います。
この解説を読むのかどうかは自分自身で判断していただければと思います。

死ぬ半年〜数ヶ月前

この時期に起こること
歩けなくなる
体重減少
失禁

“老衰”は文字通り、「老いて衰えていく」ていく状態を示します。
人間をつくっている筋肉や骨、神経、その他もろもろは、細胞レベルで古い箇所は壊れそれを修復することで機能を保っています。
いわゆる新陳代謝というからだの働きです。

この新陳代謝は、赤ちゃんが最も盛んで歳を重ねていくごとに衰えていきます。
(部位にもよります)
つまり、高齢になると新しい細胞がなかなか作られなくなります。
パーツの交換頻度が遅くなったり、古いものを古いまま使い続けることになるので、その機能はどんどん落ちていきます。
あるいは機能ができなくなります。

筋肉や骨の機能が落ちていくと「歩けなくなる」
内臓の機能が落ちていくと、食べ物などからエネルギーを摂取できなくなり「体重減少」
神経の機能が落ちていくと排泄のコントロールができなくなり「失禁」
(他にも様々や要素が絡み合って起こります)

死ぬ1〜2ヶ月前

この時期に起こること
寝つく
睡眠時間の増加
食事摂取量の低下
睡眠時間の増加

ゆっくりとからだを動かす機能が落ちていくと、自分で何かをするということが難しくなっていきます。
人に自分のからだの世話を任せる介護が必要になります。

人間には基礎代謝という心臓を動かしたり、呼吸をしたりというランニングコストが必要です。
食べ物を食べ、エネルギーを作り出せなくなってくるので、少ないコストでからだはやりくりを始めます。

当然ですが激しい運動や脳みそを使う考え事などはエネルギーをたくさん使います。
そんなことをしていると少ないエネルギーがあっという間に無くなります。
なので、からだをあまり動かさなかったり、睡眠時間を長く取ったりするようになります。

死ぬ1〜2週間前

この時期に起こること
食事をほぼ取らない
尿量減少
傾眠傾向
血圧低下

使うエネルギーも少なければ、食べるということが難しくなってくる時期です。
この時期になると食事をほぼ取らない(取れない)ようになります。
水分や食べやすいものを少しずつ、口での摂取が難しければ点滴治療を必要となってきます。

からだに入ってくるものが少なくなると、出ていくものも減ります。
尿がなかなか出なくなります。
尿は肝臓や腎臓というところでつくっているのですが、この機能も落ちていくのでさらに尿が少なくなります。
尿にはからだの中でエネルギーを作るときにでるゴミを捨てる働きがあります。
このゴミが尿で排出されず、からだの中に溜まっていくと意識障害が起こります。

これらの結果、傾眠傾向という状態が出てきます。

傾眠傾向なんていうよくわからん言葉が出てきました。
「眠りに(意識が)かたむく」ということで、軽度の意識障害のことを言います。
ずっとうとうと寝ているような、何か刺激を与えないと眠ってしまう状態のことです。

ゆっくりとからだの機能が落ちていく中には、もちろん心臓も含まれます。
心臓は大きくなって、小さくなってを繰り返してからだ中に血液を送っています。
この大きくなったり、小さくなったりすることができなくなります。
そうすると血圧がゆっくりと低下します。

死ぬ1〜2日前

この時期に起こること
低体温
心拍数低下
呼吸困難
意識障害

体温を維持する機能が落ちていき、体温が低くなっていきます。
からだの中でエネルギーを使い、熱を作ることも難しくなってきます。

心臓の機能が落ち、血圧が下がってくるとからだ中に血液が行き渡らなくなります。
一回に送れる血液の量が少ないなら、回数で補うようになります。
ですが、回数で補うのにも限度があります。
心拍数が低下し、からだ中に血液を送れなくなっていきます。

呼吸の機能も落ちていきます。
呼吸は肺を広げ、空気を取り込み、肺を縮めて、空気を吐き出します。
普段ならそれを肺の近くの筋肉でできていたのですが、それもできなくなります。
顎を動かしながら呼吸をしたり、呼吸が弱くなったり元通りになったりと繰り返します。
呼吸により酸素が取り込めなくなると、さらにからだのエネルギーが作れなくなっていきます。

からだ中の機能が落ちていき、意識障害が進みます。
この頃になってくると話しかけると話せていたような状態から、ずっと寝ているような状態になります。

死ぬ瞬間

この時期に起こること
多臓器不全
意識障害
心肺停止

そしてその瞬間が訪れます。
心臓も肺も、すべてのからだの機能が止まります。

かなりざっくりとした解説になってしまいましたが、これが「生」から「死」への状態の変化です。
この解説はかなり掻い摘んでいるので、この解説通りに変化していくことはあまりありません。
合間に持病や肺炎などによる悪化、逆に治療や介護による改善を繰り返していきます。

死のプロセスを学んで

私は小学生の頃から、死ぬことにとても恐怖を感じています。
自分がなくなるってどういうこと?
みんな死んじゃうってどういうこと?
こんな風に考えているということすら無くなるの?
そんな思いが降り積もって、私は看護師を選んだような気がします。
(就職に強いとかそんな理由も大きいですが笑)

人間のからだは様々な機能の低下によって、意識障害を引き起こします。
私はこれを学んだ時、「そりゃ頭がしっかりしたまま死んだら、怖いし辛いもんな」と思いました。
人間のからだは、自分自身が必要以上の恐怖や苦痛を感じないようにデザインされているのではないか。

そもそも恐怖や苦痛は、状況や自分のからだの変化に気づくことで生存するための機能とも考えることができます。
死に向かうためには必要ありません。
なら、その機能ですらゆっくりと落ちていくのは他の機能と同じことです。

死への恐怖

私の死への恐怖心は、「なんだからだの機能と時間が解決してくれるのか」という結論で落ち着きました。
死に対して恐怖を感じることは危機回避のために必要です。
でもある程度健康に過ごした場合に、何十年後かに確実にくるであろう“老衰”については今から恐怖を感じる必要はないと思いました。

老衰以外でも、心筋梗塞などの急な死に方ではなければ人間が死ぬときにはほぼ意識障害が起こります。

人間のからだは永久機関ではなく、いずれ機能停止する。
機能停止するときは、恐怖や苦痛の和らげるデザインになっている。
感傷的な捉え方ではなく、システマチックな捉え方をしてみると、人間ってよくできてるんだなと思いました。

投げやりな結論になりますが、「なるようになる」
人間はそうできているのです。


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