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昔の男:未来の経理候補にしてくる人②

付き合い始めてすぐ、私は出張の新幹線でスマホをなくした。

思わぬなくしものは、1週間の預かり期間を宣告され、当時すでにLINEが普及していた状況で、携帯番号はひかえておらず、社用携帯をもっていても、彼と連絡をとることができなかった。直前まで連絡をしていただけに、彼はたいそう心配して、とうとう会社に電話をかけてきてくれた。

「ごめんなさい。」
「頼むでほんまに。」

呆れた声だった。

別の日、会社の送別会の前に、私は盗難にあった。
幸い財布とスマホは持っていたけれど、クレジット付の定期やカギ類の入ったカバンを丸ごと盗まれた。

その旨を彼に連絡し、ひとまず無事であることは伝えたけれど、たいそう心配した彼は、送別会終わりで迎えに来てくれるといった。

盛り上がった送別会は、解散もぐずぐずになっていて、幹事の私はなかなか解放されなかった。彼は早めについたのもあり、解散予定時刻を過ぎても連絡のない私に何通もLINEを送ってくれていた。
やっと全てが終わって、彼と合流したとき、

「ごめんなさい」
「…頼むでほんまに…いろいろ…」

以前よりさらに呆れた声だった。

その後、彼が転職を決めてきた。東京へ行くといった。
付き合って2か月も経たないタイミングでの行動に、驚きは隠せなかった。
理由を聞くと、彼の実家は自営業で、その修行のために東京の親戚の会社で働くといった。

「なかなか会えなくなるし、仕事がんばるときやから、構ってやれないことも増えると思うけど、別れたくない。」

遠距離なんて、できるのだろうかと不安に思った。
けど、やってみないとわからないか、と思って同意した。

出発の日。
見送りにいくといった私に、「来んでええ」と彼は言った。
家族の見送りもあるし、私の仕事もあるだろうし、という配慮らしい。
でも、こういうときって、見送ってもらえる方が嬉しくない?
(しかし今思えば、後に付き合った彼にも私は同じことを言った気がする…)


到着を見込んで、LINEを送った。
数日おきに、LINEを送って、それこそ構ってもらいたがっていた、私が。

失ってわかる寂しさというべきか、はじめての遠距離恋愛に浮かれていたのかはもう定かではない。
元来LINEの得意ではない彼は、返事も端的かつそっけない。加えて、転職後すぐでも多忙を極め、返事がないことも多々あった。

「急やけど、そっちにいくわ!」

あまりに連絡も取れないので、連休のタイミングで私が言い出した。

「仕事やし、会われへんし、構ってやれへんし、来んくてええよ」
「じゃあ、おうちの家事でもしとくし。晩御飯つくっとくやん」
「いや、ほんまにええって」

(冷静に振り返ると、お母さん化した彼女そのものである。)
(当時の私よ…どんまい…。)

結局全力の拒否を受け、私は、自分が彼女でいる意味がわからなくなった。
少したって、彼からは、

「大阪にいたときと状況がちがうねん、ごめんな。連絡出来るときはするから。」

「そんな愛人みたいに待つだけなんてできへん。別れる。」


付き合って、たった3ヶ月の間で起きた出来事だった。



つづく。

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