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創作短編小説『赤い正真正銘』  ――5、赤っ恥――


5、赤っ恥

 四人の男達しかいない割に、そのホテルの会議室は広かった。不敵な笑みを浮かべた太田から視線を外すように船橋は一瞬、外を眺めた。窓の外は相変わらず雨が降っていたが、先ほどの小雨とは違い、かなり雨脚が強くなっているようだった。窓ガラスにぶつかる雨の音は、今から雷でも落ちるのではないか、と思わせるほどだ。おそらく少し前から雨の音が大きくなっていたのだろうが、熱弁を振るっていた船橋はその時、初めて気がついたのだった。内心、いやな予感がした船橋だったが、まさか、この雨が今から起こる修羅場を物語っているとは、その時は気づくはずもなかった。

 会議用の長テーブルを挟んで、片や船橋とQが並んで座り、向かい合って発毛クリニックの太田と小関が並んで座っていた。時間と共にエンジンが掛かり熱く意見を述べた船橋は、少し調子に乗って歯に衣着せない意見を述べおえたところだった。時にやや大きな声にもなったが、それよりも常に太田の笑い声の方が大きく響き渡った。やや広めの会議室はそのためだったのか、と思うほど太田の相づち的笑い声は耳についた。

 太田は船橋が珍しく同意してくれたことに気をよくしたのか、もう一度同じ話を繰り返した。

「やはり船橋さんのおっしゃるとおりですわ。最近、若者は地上波みませんでっしゃろ。ネットでやった方がいいかなとも考えておりますんや。どちらにせよ、企画の段階では『TVショッピング』というタイトルの方が分かりやすいだろう、ってことだけなんですわ」

 調子に乗った太田は細い目をさらに細めながら、さも、もったいぶったような口調で、やや声を低くして続けた。

「実はでんな……、このTVショッピングの企画は、他でもない船橋さんとQさんのために作ったような企画なんですわ」

「僕達のために?」

 船橋もQも揃って怪訝な顔をした。そんなことはまるで目に入らぬように、相変わらず満面の笑顔で自慢げに太田は自分勝手に話を進めた。

「そうですわ! このTVショッピングを是非とも、船橋さんとQさんにやってもらいたいんですわ」

「はっ?」

 再び声を上げた船橋。その太田の言葉の意味がよくわからなかった。Qは隣で固まったままだ。お構いなしに太田が続けた。

「この企画書の例えばAを船橋さん、BをQさんにやってもらおうと思ってますんや。もちろん、逆でもカマしません。いずれにせよ、ネームバリューのある、そして付き合いの長い、お二人にやってもらえれば成功間違いないですやん? 本日、お二人にわざわざ大阪までご足労頂きましたんは、早速パイロット版を作ってしまおう思ってますんや。すぐ近くにスタジオもすでに用意してますんや。もちろんこの原稿を読むだけでカマしません。お二人が出演してくれたパイロット版を社長にみせれば、社長もイヤなんて言いよりませんねん。なんたって、お世話になっている船橋さん、Qさんが出てくれるとなれば、それだけで社長は上機嫌ですヤン。なあ、小関、せヤロ?」

 一方的にまくし立てた太田は、隣にいる小関を軽く肘で小突いて同意を求めた。豪快な笑い声が広めの会議室に再び響き渡った。太田の腕に光る目障りな腕時計――ロレックスの赤サブ――は、そんなこととはまるで関係ないように、相変わらず冷静に時を刻んでいた。

 あまりの強引な話に顔を引きつらせて固まったままの船橋とQ。その姿がまるで見えていないのか、あえて無視しているのか、かまわず話を続ける太田。

「どないでっしゃろな、船橋さん? いかがでっか、Qさん?」

「ムリ、無理、むり……」

 慌てて手を横に振りながら断る船橋。

「無理……」

 腕組みをしたまま、明らかに不機嫌声のQ。

「そないな事言わんといてくださいな。聞いてますんや船橋さん。なにやらセミナーの講師も務めてらっしゃるそうやないですか? どうりでお話しが流ちょうなわけでんな。そのまんま、ありのまんまの船橋さんでええんですわ。いかがでっしゃろ?」

「いやいや、それとこれとは話が別で……。無理でしょう、さすがにこれは!」

 くじけずに今度はQの方に顔を向ける太田。

「Qさん、何とかお願いできませんですか? Qさんこそイベントの司会業が本業みたいなもんやないですか? それと同じようにやっていただければいいんですわ。何せQさんは、弊社と長い長いおつきあいと、小関からも聞いておりますんや……。あきまへんですか?」

「……。太田さん、正直申し上げれば、企画的にあまり気が乗りませんなあ、私は」

 さすがはQ。この四人の中では一番年上だからだろうか、きっぱりと自分の意見を述べた。それは核心を突いた意見の何物でも無かった。はっきりと言われて、明らかに大げさな演技のように両手を広げるようなそぶりをみせる太田を尻目に、船橋も渋い顔でQの後に続いた。

「Qさんの言うとおりですね。太田さん、そもそもTVショッピングのMCを、このおっさん二人では無理があるでしょう?! しかも素人ですよ。やっぱりこういうことは鍛えられた――そうですねたとえば――ジャパンネットタカダのTVショッピングみたいに、好青年的な、ハキハキした方を起用しないと」

「そうそう、そうだよねえ」

 横でQも大きく頷く。しかし、それを待っていたかのように、太田の声が一段と大きくなった。

「いやいや、船橋はん。この商品、我々のターゲットを考えてみてくださいな。どう考えても、船橋さんやQさんと同世代、私も含めて等身大のそれこそ『おっさん』がターゲットやないですか? そりゃあ、女性用商品にも、ウチは力入れておりますんや。そんときは、また女性ターゲットにあわせたMCにやってもらうつもりですねん。とりあえず、メインの中高年向け商品は、船橋さんとQさんに是非、お願いしたいんですわ」

「いやいや、それこそ、女性のMCとかの方がいいんじゃないの?」

 相変わらず厳しい表情のQが眉間にシワを寄せながら言い放った。

「いやいやいや、最近のTVショッピングを思い返しておくんなはれ。そりゃあ、今のジャパンネットはんのように若いMCの番組もありますやろ。せやかて、一昔前のジャパンネットさんはあの有名な社長はんでしたやないですか? あの声の高い社長さん。他にもトーカイ堂のTVショッピングの社長はんだって、夢枕グループの社長はんもしかりですわ。オッサンこそ、説得力ありますやろ。ここは、オッサンでビシッと一本、筋を立てたいんですわ。オッサンこそ、うちの商品にはピッタリ合う思うんですわ。ちがいまっか? どうでっしゃろ?」

「いやいや、今あがった社長さんたちだって、はじめは素人だったかもしれないけど今となっては立派な役者さんと同じだよね。それと同じ土俵で我々を見られても、同じようにできるわけがない。万一できるようになるにしても、同じようにできるようになるまでは相当な時間がかかってしまう。すぐに形にしたければ、やはり専門の役者さんとかアナウンサーさんとかを使った方が良いに決まってるでしょう、やっぱり。ねえ、船橋さん」

「そうそう、そうですよ! Qさんの言うとおりですよ。しっかりした人を起用した方がいいですよ。私ら所詮素人ですから……。第一、あまりに荷が重すぎますね」

「そこをなんとか……。何とか、あきまへんでっしゃろか……」

「無理ですね……」

「ですね。ごめんなさい……」

 大げさに両手を合わせて、これまた大げさに泣き顔をつくる太田に、船橋もQも困り果てた。

 ――ガタンッ!

 と突然、大きな音を立て太田がイスから立ち上がった。と、次の瞬間には、床にしゃがみ込んだではないか。しゃがみ込むと同時に、太田の脂ぎった額も同時に床についていた。かなりメタボな太田が床にひれ伏している。その姿は、まるで巨大なバランスボールか、はたまた大雨の裏通りに突然現れたガマガエルか、を連想させるほど滑稽にうつった。いや、その姿はある意味恐怖すら感じさせるものだった。足が太いために、正座はやはり苦しいのだろう。結果、頭を床につけた方が楽なのか? と思えるほど額を床にこすりつけ、同時に両手を床についたまま太田は悲痛な叫び声を上げた。

「Qさん、船橋さん、なんとか、何とかお願いします。この太田、一生に一度のお願いでございます! 何とか助けてください。既に別のスタジオでは撮影スタッフも待機してますんや。このままでは、引くに引けませんのや。何とか助けてくださいな。なんとか、なんとか……。お願いします。この通りです」

 ――土下座かよ……

 正直、船橋は言葉を失った。いや、何の言葉も出なかった。ただただ、言葉にはできない感覚、それは嫌悪にも似た違和感が大きくなるばかりだった。いや、不信感といった方がいいかもしれない。船橋には、太田が頭を上下するたびに、右腕の赤サブが悲しく泣いているようにみえた。太田のその姿を見ながら以前にも増して心が引いていく自分自身を感じていた船橋。

 ――俺らが土下座で落ちると思っていたのか? どうやら甘く見られたもんだな。いくらお世話になっている企業様とは言え、納得できないまま協力するほどヤワではない……

 隣のQに顔を向けた船橋。Qも船橋の目を無言のまま見つめ、やれやれ、と首をかしげた。それは船橋と全く同じ考えである、との意思表示に他ならなかった。

 いきなり土下座を始めた太田の隣では、小関が引きつった顔で、太田の丸い大きな背中に視線を落としていた。おそらく先ほどまでの会話を聞くに、普段は上司としての太田は小関の前では、絶大な力を持っていたのだろう。それが今、横にいる太田は、ただただ床にひれ伏して弱々しい姿をさらしている。太田のその背中が、小関にはさぞや小さく見えたことだろう。そんな姿を見せつけられた小関の心中を察すると、船橋はいたたまれない気持ちになった。太田にしてみれば、そんなことはお構いなしなのだろう。赤っ恥だろうと何だろうと、ここで話をつけねばならない、背に腹はかえられない必死の姿だった。

 そんな太田の背中から視線を上げた小関は、おびえるように船橋とQの顔を交互に見つめた。メガネの奥の瞳が少しうるんでいるようにも見えたが、船橋は声をかけることができなかった。小関は固ったまま、それ以上なにも言葉を発することができなかった。

 窓を打つ雨の音は、相変わらずかなり大きな音だったが、四人の耳には全く聞こえていなかった。それは、まるで会議室が先ほどより、さらにさらに広く大きくなったかのような錯覚を覚えさせるほどだった。

                             〈つづく〉

*この物語はフィクションです。実在のあらゆるものとは一切関係ありません。



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注)以上は、鹿石のブログ『ダイ☆はつ Ⅴファイブ』より抜粋です。

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