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”光は時を視覚化する” 六本木ヒルズ

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。


日本人が軽視する照明デザイン

日本を含めてアジアの夜は明るくて均質
画像引用:MotoM 

日本を含めて、アジアの夜は明るい。ヨーロッパへ旅行に行くと実感するのではないでしょうか。天井に蛍光灯があるうちは、ヨーロッパにいくとほとんどありません。夜、東京の街を歩くと気がつくのは、オフィスが煌々と照らされていることです。ヨーロッパのオフィスだって夜明るんですが、日本よりはずっと暗い。

source: Quartz

なぜか? それは夜は暗いほうが快適だからなんです。でも眠くなって仕事の効率が落ちるのでは?と心配されるかもしれません。九州大学の研究によると照明が時間に関係なく、一定の明るさである場合と、節電してずっと暗い状態と、時間に合わせて明るさと色温度(オレンジがかった色か青白いか)を変化させた場合で、覚醒度合い、エラーの回数、深部体温を調べています(※1)。結果、時間に応じて照度と色温度が変化する場合がもっともエラーの回数が少なく、夜になると体内時計を調節するメラトニンの分泌量が多かったことがわかりました。

【夜間のメラトニン分泌】 「調光・調色 照明」で、最もメラトニンの分泌量が多かった。
画像引用:Panasonic 調光・調色 照明制御手法について、九州大学と共同で検証実験を実施 「知的生産性」と「健全なサーカディアンリズム(生体リズム)」の維持が可能であることを確認

つまり、昼は明るく、夜は暗く暖かな照明であるほうが、よく眠れ、エラーの回数が減るということです。これは、人間が自然からかけ離れていくほどに具合が悪くなる例証です。

光は時を視覚化する

六本木ヒルズ、アマン東京などの照明デザイン計画に携わっている建築照明デザイナーの面出 薫氏は、照明について「光は時を視覚化する」と述べています(関連書籍参照)。明るくて、光が青白いと晴れた日の午前中であり、青白いが減るもより明るいと昼前後であり、少しずつ明るさが減っていくと夜が近づいていて、下からのオレンジ色の照明になると、それは焚き火を意味して、夜であると人間は感じます。これが、光は時を視覚化する、という意味です。自然に近づくと人間の身体も脳も安心します。こちらは、コンラッド東京というラグジュアリーホテルの部屋の様子です。

夜になるとラグジュアリーホテルは暗い。

遮光カーテンをつかわなければですが、朝になると朝の明るさになります。

コンラッド東京の夜明け

照明の明るさは一定であるより、時間にあわせて照度と色温度がかわることで、人間は快適なだけでなく、エラーの回数が減り、夜はぐっすり眠れ、結果、良い仕事ができる環境に近づきます。

六本木ヒルズは24時間の光がデザインされている

六本木ヒルズに(も)あるフランス出身の女性アーティスト、ルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)の蜘蛛「ママン」
画像引用:Smart Access「本木ヒルズと蜘蛛のオブジェ」

六本木ヒルズには、ホテルも映画館もあるので、夜に訪れたことがあることがある方も多いのではないでしょうか。体験するとわかるのですが、六本木ヒルズの夜は意外に暗いんです。フットライトはあるので、階段などにこまることはありませんが、全体的に暗く、デートにもってこいな場所でもあるのですが、「快適」なんです。

六本木ヒルズは2003年に森ビルが開業した商業施設で広さは11.6haもあります。設計時に、24時間それぞれの顔を持つ街づくりを森ビルは目指していました。そこで、六本木ヒルズの照明計画を企画した面出薫さんは、屋外の照明設備を時間によって変化するようにプログラムすることを提案しました。その結果、六本木ヒルズは、商業施設ですが、“深夜になればなるほど暗くなっていく街”になっています。この結果、照明に使う電力も節約できているので、一石二鳥になっています。

六本木ヒルズの深夜を体験できるホテル、グランドハイアット東京

思ったより小さいのですが、いい雰囲気のグランドハイアット東京のプール
画像引用:じゃらん

六本木ヒルズのなかには、グランドハイアット東京というハイアット系列のホテルがあります。ここに宿泊したとき、夜9時過ぎにちょっと欲しい物があって、六本木ヒルズのなかにあるスーパーにまで足を運びました。するとチェックインしたときや、普段映画を観に訪れたときとは別の雰囲気が六本木ヒルズにはありました。もし、グランドハイアット東京に宿泊されることがあれば、深夜にホテル周りを散歩することをおすすめします。


自宅でもできる照明計画

証明を使って住んでいる場所を快適な空間にすることは、他の要素に比べると、思いの外、コストが掛からない試みです。家そのものは、家賃なり購入費は高額になりますし、家具も安くありません。しかし照明は、ラグジュアリーブランドではなくても、温かい照明、冷たい照明など使い分けたり、設置したりできます。

ルイスポールセンのPH5
画像引用:CONNECT

写真のルイスポールセンは安くありませんが、イケアにもかなり多くのフロアランプが販売されています。さすが北欧のブランド、白夜で夜が長い国なだけあって、照明の重要さをよく理解しています。

まとめ

冒頭で、照明に弱い日本人と述べましたが、六本木ヒルズのように照明の重要さを尊重した施設や建築が増えてきています。夜に街を歩いて、蛍光灯の明かりではなく、灯火がオレンジ色であることが見て取れる窓の数が増えてきたなと思えたら、それがその左証です。街によっても変わってきますので、そういう目で夜散歩をしてみてもおもしろいです。ちなみに鎌倉は東京より、蛍光灯率が低いです。オフィスも例外ではありません。コツは、空間の照明にムラがあることです。


関連書籍

『建築照明の作法」面出薫(著)


面出薫さんのインタビュー

こちらのJapan Design Committeeのサイトで、面出薫さんのインタビューを聞くことができます。(67分)動画でのインタビューもあります。


参照

※1


https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.1600377



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