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《週末アート》ソール・ライター —生活の中に霊光の反映の発見—

 《週末アート》マガジン

いつもはデザインについて書いていますが、週末はアートの話。


ソール・ライター(Saul Leiter)

ソール・ライター New York 2008
By Pierre Belhassen - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53147103

名前:ソール・ライター(Saul Leiter)
生没:1923年12月3日 - 2013年11月26日(没89歳)
誕生国:アメリカ合衆国
死去国:アメリカ合衆国

ソール・ライターは、アメリカの写真家、画家であり、1940年代から1950年代の初期の作品は、ニューヨーク派写真(The New York school of photography)として認識されるようになったものに重要な貢献を果たしたと考えられています(※2)。

ソール・ライターの生涯

1923年12月3日、ソール・ライターはペンシルベニア州ピッツバーグに生まれました。父親は有名なタルムード学者で、ソールはラビになるための勉強をしていました。

1946年、23歳のとき、神学校を中退し、画家になるためにニューヨークに移住。早くから絵画に興味を抱いていたライターは、抽象表現主義の画家リチャード・プセット=ダートと出会います。

プセット=ダートW・ユージン・スミスはライターに写真の道を勧め、ライターはすぐに35ミリのライカでモノクロ写真を撮るようになりました。

1948年(25歳)、カラー写真を撮り始めました。ロバート・フランクダイアン・アーバスといった他の現代写真家と交際を始め、ジェーン・リビングストンが1940年代から1950年代にかけてニューヨーク派と呼ぶ写真家の形成に貢献。 

ライターは、その後20年間ファッション写真家として活動し、『Show』、『Elle』、『British Vogue』、『Queen』、『Nova』などに掲載されました。1950年代後半には、アートディレクターのヘンリー・ウルフがライターのカラーファッション作品を『エスクァイア』に掲載し、後に『ハーパーズ バザー』にも掲載された。

アメリカ人写真家、画家、キュレーター、エドワード・スタイケン(Edward Steichen)は1953年、近代美術館で開催された『Always the Young Stranger』展にライターのモノクロ写真を展示しました。

エドワード・スタイケン(Edward Steichen)
By F. Holland Day - Library of Congress Prints and Photographs Division, http://hdl.loc.gov/loc.pnp/cph.3g03319, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1081710


ライターの作品は、ジェーン・リヴィングストンの著書『The New York School』(1992年)やマーティン・ハリソンの『Appearances』(1991年)で大きく取り上げられていました。


2012年(88歳)、トーマス・リーチ監督によるドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」製作。

編集者であり『Saul Leiter Early Color』(2006年)の著者でもあるマーティン・ハリソンは、ライターについてこう語っています(※2)。

「ライターの感性は......ロバート・フランクやウィリアム・クラインのような写真家に関連する都市の不安との直感的な対決の外に彼を置いていた。その代わりに、彼にとってカメラは、出来事をフレーミングし、現実を解釈するための、別の見方を提供した。彼はマンハッタンの大混乱の中で静かな人間性の瞬間を探し求め、最もありそうもない状況からユニークな都市の牧歌を作り出した。」
Leiter’s sensibility . . . placed him outside the visceral confrontations with urban anxiety associated with photographers such as Robert Frank or William Klein. Instead, for him the camera provided an alternate way of seeing, of framing events and interpreting reality. He sought out moments of quiet humanity in the Manhattan maelstrom, forging a unique urban pastoral from the most unlikely of circumstances.

ライターは2013年11月26日、ニューヨークで死去。2014年、ソール・ライターの作品を管理する目的でソール・ライター財団創設。



“写真のニューヨーク派”

“写真のニューヨーク派”(The New York school of photograph)は、ジェーン・リヴィングストン(Jane Livingston)によって「1930年代、1940年代、1950年代にニューヨークに住み、活動した、ゆるやかに定義された写真家のグループ」であり、彼らはいかなるグループや信条にもコミットしたがらなかったが、「多くの影響、美的前提、主題、文体の特徴を共有していた」とされています。

ジェーン・リヴィングストンは、アメリカアートのキュレーター。

彼らの作品にはヒューマニズム、強靭な精神、フォトジャーナリズムの技法、フィルム・ノワール、ルイス・ハイン、ウォーカー・エヴァンス、アンリ・カルティエ=ブレッソンの影響が見られ、「多くのフォトジャーナリズムの逸話的描写」やアメリカのアクション・ペインティングのエゴイズムは避けられています。

ヴィングストンは、ダイアン・アーバス、リチャード・アヴェドン、アレクセイ・ブロドヴィッチ、テッド・クローナー、ブルース・デヴィッドソン、ドン・ドナギー、ルイス・フォーラー、ロバート・フランク、シド・グロスマン、ウィリアム・クライン、ソール・ライター、レオン・レビンシュタイン、ヘレン・レヴィット、リゼット・モデル、デヴィッド・ヴェスタル、そしてウィージーをニューヨーク派の主要な写真家として選んでいます。 

ニューヨーク派に関連すると言われる他の写真家は、イアン・コナー、モリス・エンゲル、ハロルド・ファインスタイン、エルンスト・ハース、アーサー・ライプツィヒ、ルース・オーキン、ウォルター・ローゼンブラム、ルイス・ステットナー、ギャリー・ウィノグランド、マックス・ヤヴノ。

リヴィングストンは、ニューヨーク派を生み出した要因として、芸術、とりわけ写真が労働者階級の状況を改善するために利用できるという信念、フォト・リーグ、多種多様な写真雑誌の編集部が地元に存在したこと、展示スペース、映画鑑賞の背景、ヨーロッパからの移民またはヨーロッパでの滞在などが挙げられると論じています(※1)。


ソール・ライターの作品

Image source: The Independent Photographer


Snow, 1960, by Saul Leiter. Photograph: Saul Leiter Foundation/Gallery Fifty One
Image soruce: The Guardian


Jean Pearson, circa 1948, by Saul Leiter. Photograph: Saul Leiter Foundation/Gallery Fifty One
Image soruce: The Guardian


Saul Leiter, Untitled, early 1950s–1961
Image source: aperture

まとめ

ソール・ライターの写真は、(彼の作品に限らないのですが)わたしたちを取り巻く普通の日々の世界に潜む美しさや面白み、または一瞬の光景のみで語られる物語を直截的に見せてくれます。

岡倉天心が『茶の本』という著書(英語で書かれていますが翻訳もされています)で、このようなことを記しています。

極致を求めんとする者はおのれみずからの生活の中に霊光の反映を発見しなければならぬ。

岡倉天心『茶の本』

この「生活の中に霊光の反映を発見」するということをソール・ライターの写真を通して、少し理解が深まるような気がしています。


ソール・ライター展:ソール・ライターの原点

7月8日から8月23日まで東京、渋谷ヒカリエにてソール・ライター展が開催されています。




参照

※1

※2


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