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アルファベットとは、いつ? なぜ? 生まれたのか? 意外なルーツにたどり着く!

ビジネスに使えないデザインの話

ときどきビジネスには役に立たないデザインの話もします。


文字体系は5種類ある

主要な文字体系の分布「ウィキペディア」を各文字体系で表記しています。
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わたしたち日本人が使っている文字は、表語文字である漢字と、音節文字であるひらがな、カタカナです。さらに音素文字であるローマ字も日常的に使っています。

(1)音素文字

音素文字(おんそもじ)(segmental script)は、表音文字のうち、音素(おんそ/phoneme:意味を区別する働きをする音声上の最小単位となる音韻的単位)が表記の単位になっている文字体系。
例:アルファベット、アブジャド、アブギダ

(2)表語文字

表語文字(ひょうごもじ)(logogram)は、一つ一つの文字により、言語の一つ一つの語や形態素を表す文字体系。漢字は、一音節が一形態素となる中国語の形態素それぞれを一文字ずつで表記するので、体系的な表語文字の代表的なもの。
例:ヒエログリフ、楔形文字、甲骨文字 (漢字、簡体字、新字体、朝鮮漢字)、西夏文字、マヤ文字

マヤ文字


(3)音節文字

音節文字(おんせつもじ)(syllabary)は、表音文字(一つの文字で音素または音節を表す文字体系)のうち、ひとつひとつの文字が音節を表す文字体系のこと。
日本語等で使われる仮名も音節文字の1つ。
例:ヒッタイト文字、仮名(平仮名、片仮名)など


(4)素性文字

素性文字(そせいもじ)(featural script)は、音素文字のレベルよりさらに細かく、弁別的素性を反映させた表音文字。
例:ハングル文字

ハングル文字
metalslick - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=63996191による


(5)絵文字

アステカ文字やトンパ文字など。


アルファベットはラテン文字(ローマ字)

ラテン文字

ラテン文字(Latin alphabet)は、ラテン語などを表記するためのアルファベット。ラテン文字は、ローマ字(Roman alphabet)とも呼ばれています。

ラテン文字 = ローマ字

ラテン文字(ローマ字)は、紀元前6世紀ごろから誕生しています。そして、このラテン文字(ローマ字)は、イタリア半島に存在していたラテン人が、エトルリア人とギリシア人から「文字」を取り入れました。西方ギリシア文字とエトルリア文字からそれぞれいくつかの文字を取り入れ、ラテン文字として完成させていきます。このラテン文字を表すための書体として、3世紀ごろにアンシャル体という書体が広く使われ始めました。

西暦800年ごろのケルズの書は、アンシャル体のアイルランドにおける変種である「インシュラ」で記されています。


ローマ字の元、「ギリシア文字」

ギリシア文字:αβγδεζηθικμνξοπρστυφχψω

「アルファベット」は、このギリシア文字の最初と二番目の文字、α(アルファ)とβ(ベータ)をあわせた言葉です。数学で使う円周率を示す文字、π(パイ)もギリシア文字。

ギリシア文字の先祖は、「フェニキア文字」

古代フェニキアの文字。22子音字でアルファベットの基礎となりました。
画像引用:中西印刷株式会社「世界の文字」

このギリシア文字の先祖がフェニキア文字(紀元前11世紀~)。フェニキア文字には母音が無く、子音を表す文字しかありません。ここから、別系統で生まれたのが今のアラビア文字(7世紀~)です。

フェニキア人は海の商人でした。ギリシア人と同時代、今から3000年ほど昔の地中海を中心に活動していました。活動の本拠地は、地中海の東の端、今のパレスチナ地方であるティルス(Tyrus)でした。

では、フェニキア文字の先祖は?

フェニキア文字の先祖はだれ?
画像引用:Diamond Online 「アルファベットは「なぜ」生まれたか?」

ティルスの周りには、当時東に楔形(くさびがた)文字を発達させたメソポタミア(バビロニア王国)がありました。西には、原シナイ文字を持つシナイ半島。さらに西には、ヒエログリフ(象形文字)を持つエジプト王国がありました。フェニキア文字は、ティルスの西のシナイ半島の原シナイ文字に由来しています。そして、この原シナイ文字は、もっと西のエジプトのヒエログリフに由来しています。

つまり、アルファベットの先祖をたどると象形文字、ヒエログリフにたどり着くことになります。

ヒエログリフ
A☮ineko - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 1.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=110260による


ヒエログリフの謎

紀元前32世紀から、2000年にわたってエジプト王国を支えてきた文字、ヒエログリフは、複雑な形と構造をしています。ヒエログリフは、少ない時期でも700文字、多いときには6000を超える文字数でした。この数が中途半端でした。音素文字であるアルファベットとしては多すぎ、漢字のような表意文字としては少なすぎて、十分な意味を表しきれません。

ロゼッタ・ストーン 上から順に、古代エジプトのヒエログリフ、古代エジプトのデモティック(草書体)、ギリシア語を用いて同じ内容の文章が記されている

1799年、エジプトのロゼッタでロゼッタストーンが発見されます。かのナポレオン・ボナパルト一行がその写しをフランスに持ち帰りました。その20年後(ナポレオンは1814年セントヘレナ島で死去しています)の1822年、天才言語学者、ジャン・シャンポリオン(Jean-François Champollion)は、ヒエログリフの解読に成功します。

天才言語学者、ジャン・シャンポリオン(Jean-François Champollion)

ヒエログリフは、音素文字(アルファベット部分)と表意文字の混成でした。これは、まるで音節文字である仮名と表語文字である漢字の混成である日本語みたいです。ヒエログリフもまた日本語と同じように複雑でした。この音素文字と表意文字の音素文字部分だけが発達して、原シナイ文字につながっていきます。しかしなぜ、表意文字主体のヒエログリフから音素文字だけの原シナイ文字に変化していったのでしょうか?

ヒエログリフと原シナイ文字をつなぐ「ワディ・エル・ホル碑文」

原シナイ文字の例。左上から右下へ読み、mt l bʿlt(バアラト (女神) へ)と読まれる可能性があります

1997年に紀元前2000年頃のものと思われる「ワディ・エル・ホル碑文」(Wadi el-Hol script)というものが発見されます。この碑文が、ヒエログリフと原シナイ文字をつなぐものではないか、と考えられました。象形文字であるヒエログリフから、音素文字であるアルファベットの元に変わる瞬間であり、ルーツとも言えます。ヒエログリフの特徴を持ちながら、古代エジプト語読みがではなく、原シナイ文字的な読み方が当てはまる音素文字がはじめて生まれたという発見でした。

音素文字の誕生の理由

ワディ・エル・ホル碑文が見つかった場所は、紀元前2000年頃のエジプト王国の首都、テーベ(Thebes)から北西35kmの砂漠の真ん中でした。碑文の解読結果によって、この場所には、街道を警護するエジプト軍の前哨基地があったことがわかりました。この前哨基地を治めていたのは、アジア人の将軍「ベビ」でした。エジプト人ではない外国人が、エジプト軍には多くいました。エジプト王国の拡大に伴い、支配する民族は多様化し、エジプト王国の周縁地域では軍すら外人部隊で支えられるようになっていました。

碑文の発見者のひとり、ジョン・ダーネル博士(John Darnell)は、こういった外人部隊こそが、この「ワディ・エル・ホル碑文」の文字を作り出したのではないかと考えました。

エジプト軍に所属しているものの、エジプトの文字であるヒエログリフには精通しない外国人たちが、自らの名前を記すためにヒエログリフの音素文字部分のみを使う必要がありました。そうするうちに、音素文字による独自の文字システムが形成したのではないか、とダーネル博士らは考えました。(ちょっと違いますが、「よろしく」を「夜露死苦」と表記する工夫(?)のようなものが、システムとして洗練されていたとイメージしても良いと思います。)

まとめ

たった26文字で構成される(最初は23文字だけ)、便利な文字アルファベット。この音素文字は、エジプト王国で、ヒエログリフをうまく使えない外国人が、必要に迫られて生み出したものが、その起源でした。困った人間が生み出す工夫や発明は、世界を変えていく力になることがあります。必要は発明の母と言われることがありますし、危機というのは、危険と機会をあわせ待つ状況だという解釈もあります。アルファベットも困った外国人が生み出したシステム。

今回は、アルファベットのルーツをたどってみました。振り返ってみると、

アルファベット ← ラテン文字(ローマ字) ← ギリシア文字 ← フェニキア文字 ← 原シナイ文字 ← ワディ・エル・ホル文字 ← ヒエログリフ

というのがアルファベットのルーツです。意外にも正反対な象形文字、ヒエログリフがアルファベットの母であり、ヒエログリフに不自由した外国人たちがその父でした。


参照





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