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医療のマーク「生命の星」は“アスタリスク”と“アスクレピオスの杖”

世界の救急車にあるマークの意味

海外の救急車のみならず、 日本の救急車にも最近このマークがついていることがあります。

有田川町 https://www.town.aridagawa.lg.jp/top/kakuka/shobo/1/kibikanayasyosyaryou/727.html

青いアスタリスクとそのなかになんか蛇と杖のようなサイン。これ、何かご存知でしょうか? 日本でも使われるようになったのはグローバル化によるもので、このマークをみると英語圏やヨーロッパの方は「医療関係の車両」っていうか「救急車」という認識できます。このマークは「生命の星(Star of Life)」と呼ばれるものです。

医療を意味する生命の星(Star of Life)

医療を意味する生命の星(Star of Life)

生命の星(Star of Life)は、救急医療サービスを示すために使用されるシンボルです。青い6角形の星を白い縁取りで囲んでいます。中央には、古代の医療の象徴であるアスクレピオスの杖が描かれています。このマークが付いたエレベーターは、ストレッチャーを乗せるのに十分な大きさであることを示しています。このマークを構成するものをそれぞれ解説していきます。

アスタリスク

まず6角形の星は、アスタリスク(Asterisk)と呼ばれる記号です。書物などでは注釈があることを意味する約物として使われています。小さい星(little star)という意味の古代ギリシャ語の ἀστερίσκος(asteriskos)が起源です。アスタリスクには、「誕生」や「生命」という意味も持っており、西洋の墓では、誕生と死去した年を表す記号として、誕生にこのアスタリスクを死去した年には十字架に見えるダガーという記号が使われます。

アスタリスク


左から二番目が「ダガー」

生命を意味する記号でもあるので、アステラス製薬の企業名やロゴもこのアスタリスクが由来になっています。


アステラス製薬のロゴ


アスクレピオスの杖

アスクレーピオスの座像 Nina Aldin Thune - The Norwegian (bokmål) Wikipedia, Bilde:Asklepios.3.jpg, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=762534による

もうひとつの記号「アスクレピオスの杖」について。アスクレピオスは、ギリシア神話に登場する名医です。優れた医術の技で死者すら蘇らせたため、彼の杖が、医療のマークとなりました。

アスクレピオスはアポロンとコロニスの子。アポロンは、一羽のカラスを遣いとしてコロニスとの連絡係にしていました。このカラスは言葉を話し、その羽は純白でした。あるとき、カラスがアポロンにコロニスの浮気を告げ、それを聞いたアポロンは怒って、コロニスを矢で殺してしまいます(短絡的!)。しかしこのカラスの報告は間違いでした。ゆえにアポロンはカラスを罰して、言葉を取り上げ、白い羽を真っ黒に変えてしまいます。コロニスは身ごもっていることを告げて死んだため、アポロンは胎児を救い出してケンタウロスの賢者ケイロンに養育を託しました(自分で育てないの?)。このこどもがアスクレピオスです。アスクレピオスは医学に才能を示し、師のケイロンさえ凌ぐほどでした。アスクレピオスはアテーナーから授かったメドゥーサの右側の血管から流れた蘇生作用のある血を使い、ついに死者まで生き返らせることができるようになりました。しかし冥界の王ハーデースは、自らの領域から死者が取り戻されていくのを世界の秩序を乱すものだとゼウスに強く抗議します。同意したゼウスはカミナリでアスクレピオスを殺してしまいます(ギリシャ神話はすぐに殺す)。アスクレピオスは功績を認められ、死後天に上げられてへびつかい座となり、神の一員に加えられることとなりました。

そんなわけで、このアスクレピオスの杖は、世界保健機関、WHO (World Health Organization)のシンボルマークにも入っています。

World Health Organization


似ているけど、違う「カドゥケウス」

カドゥケウス

アスクレピオスの杖にかなり似ているのが「カドゥケウス(ケーリュケイオンともいう)」。こちらもギリシャ神話をもとにしたもので、神々の伝令であるヘルメスの持物です。柄に2匹の蛇が巻きついている杖であり、その頭にヘルメスの翼が飾られています。伝令使の杖であるため、こちらは、商業や交通のシンボルとして使われることが多くあります。

一橋大学の校章 https://www.cm.hit-u.ac.jp


カドゥケウスはよくアスクレピオスの杖と間違えれる

似ているので、この杖、意味がぜんぜん違うにも関わらず間違って使われることが多々あります。たとえば、アメリカ陸軍医療司令部(United States Army Medical Command)のマーク。

U.S. Army Medical Command Patch

これは、カドゥケウスに近い。日本の聖路加病院のマークもカドゥケウスに近い。

https://garakuta-clip.com/read-st-lukes-international-hospital/

なんかけっこうまかりとおちゃっている感じがあります。


生命の星(Star of Life)の意味

生命の星の枝はそれぞれ救急のさいの6つの主要な作業を意味しています。

By Owain.davies at English Wikipedia, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=32066299

①発見
現場に最初に到着した救助隊員は、現場を観察し、問題を理解し、自身や周囲への危険を特定し、現場での安全を確保するために適切な措置を取るべし。

②報告
専門家の助けを求める通報を行い、出動と被災者を結びつけ、緊急医療出動を行う。

③対応
第一救助隊が能力の範囲内で応急処置と即時治療を行う。

④現場でのケア
救急隊員が到着し、現場で可能な限りの処置を施す。

⑤搬送中の処置
救急隊員は、患者を救急車やヘリコプターで病院へ搬送し、専門的な治療を行う。救急隊員は搬送中も医療を提供する。

⑥最終的な治療への移行
病院で適切な専門医療を提供する。


まとめ

アスクレピオスの杖や生命の星の由来でおもしろいことのひとつは、

けっこう間違ってカドゥケウスが使わている

ということです。そしてなんかもう定着しちゃったんなら良いか、という気配もあります。これは日本における「ホームページ」という言葉にもみられる現象です。本来は「ウェブサイト」なのですが、HPとまで表記されて定着しちゃっています。

とまれ、ギリシャ神話のいろいろが垣間見れて、あらためて「ギリシャ神話、一通りしっておこうー」と思った次第です。このようにマークや記号にはそれなりに由来があるので、深堀りしてみると面白く、また自分たちがマークを考案するときの参考にもなることでしょう。


参照


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