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やっぱり雑草がいい。

小さな虫が蔓延る季節になってしまった。

昼間、家主がいなくなったアパートの部屋は熱気に包まれ、シンクに置かれた洗いかけの食器やコップに付いた有機物を求めて、"彼ら"はやってくる。そういえば、学生時代に住んでいた部屋も虫が多かった。彼らは、テーブルの上に次から次へと舞い降りるので、私はワニワニパニックのごとく人差し指一本で始末していた。さすがにその無意味な時間には飽き飽きするものだ。しかし、なぜだか懐かしい感覚であったりもする。

保育園に通っていた頃、私は運良く大きな劇場に通っていた。超絶人見知りが激しかった私は、自我が目覚めた時にはすでに芸事の世界に入れられていて、幸い人前に出ることに抵抗が無い人間になっていた。(そのせいで今は逆に引きこもりがちであったりする)

子役は地下の古い楽屋を分け与えられ、終始浴衣を着て出番を待っていた。その当時も、暑い夏だった。地下は一段と暑く、扇風機しかない部屋は、"彼ら"にとって絶好の居場所だったのだろう。メイクやヘアセットの最中、鏡にやってくる小さい彼らを人差し指一本で仕留めていく。血も涙もない。
一人っ子で人見知り、子ども同士で遊ぶことを知らない私にとって、淡々と彼らと向き合うことが一つの仕事であり、日常作業だった。
"彼ら"を見ると、ふとそんなことを思い出してしまう。
この前観た映画で、人は5回くらい生まれ変わると言っていた。何回も人間に生まれ変わっている人は、立派だとか人格者だとかいわれる人間なのだと。

それでいうと、たぶん私は3回くらい小さな虫として生まれ、すぐに誰かの人差し指で潰されて、今ようやく人間になれている気がする。
人間の人生だって、誰かの人差し指でたまたま潰されてしまうくらい、儚くて切ないものかもしれない。せめて意味のない人生を、自由に飛び回って過ごせたら良いのです。

でも私は、5回目に生まれ変わるなら、高級な家猫か雑草がいいな。

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