日向ぼっこ03
食堂でご飯を食べた後、いつもの少し狭い部屋に戻るとナツがパソコンの画面を見ながらコーヒーを飲んでいた。ナツは普段はノートパソコンを使っているがそれでは性能的にドローンを動かすのは難しいらしくデスクトップ型のパソコンに操縦桿のようなコントローラーが接続されていた。
「ナツ。流石に散らかし過ぎ」
クロは散らかった机を見てため息をついた。クロがチラリと見るとレオは黙々と机に散らかったプリントを片付け始めていて、その勤勉さにあきれてクロは重ねてため息をついた。
「ああ、ごめんごめん」
ナツはいつもより少し遅れて返事した。クロが画面の方に回りこんでもナツは変わらず画面を眺めていた。
「今は自動運転?」
「そうだけど普通のドローンと違ってこれ1つしかないから。雨も不安だし。」
ナツはそう言って笑うとコーヒーを口に運んだ。そのころレオはプリントの片付けが終わったようで椅子を引いて座る音がした。
「なにかすることは?」
「あと20分から30分くらい、目標の『なにか』にたどりつくまではやることなし」
と画面と紙の地図を見比べながらナツは言った。
「つまんね」
とぼやいてクロはレオの向かいに沈むような格好で座った。ちらりと見るとレオは何かの本を読んでいた。
「珍しいの読んでるね」
クロはつまらなさを紛らわせようと聞いた。
レオは視線を挙げて
「これ?」
と本を見せた。だいぶ年季が入っているようで表紙に書いてある題名はかすれてよく見えない。紙は茶色く酸化し、おまけに雨のせいなのかレオの扱いかたが雑なのか少し本自体が曲がっていた。
「これは、なんて、いうかな、」
レオは頭をかきながらどこかをながめた。いつもすぐに答えが返ってくるレオにしては珍しいなとクロは思った。
「思い出の本だよ」
「というと?」
クロは座り直して机に肘をついた。
「戦場に行く前に読んだ小説だよ。友人がくれたんだけどね」
クロはレオが差し出した本を受け取ってパラパラとめくった。
「あ、最後の数ページが破られてる」
「そうなんだよ」
レオはクロから返された小説を見ながら言った。
「その友人にはさ、なんか言わなかったの?」
「もちろん言ったよ。最後のページどうしたんだって、そしたらさ、友人がさ、ひどいんだよ。『終わりが気になりすぎて死にきれないからちょうどいいだろ』っていうんだ」
クロはひとしきり笑ったあと、
「でもこうしてレオは生きて帰れてるわけだし良いやつじゃん」
とおどけて言った。
「…そうだね」
と言い、微笑みながらレオは破られたページのところを指でそっと撫でた。