寂れた喫茶店(お題募集)

カランカランとドアについている鈴がなった。
ほんの数秒だけ外の喧騒が店の中にはいってきた。そしてまた静かになった。
「コーヒーをひとつ」
カウンターに兵士が座っていた。まだ新兵のようで衣服は外でよく見るような兵士と違ってまだ着古されていなかった。
カウンターを挟んで置いてある人の丈ほどある大きなコーヒーメーカーに豆を入れて横についているレバーを倒して気圧を調整する。
「おじさんは何年ここの店を?」
突然、後ろから声をかけられた。
「この戦争が始まる前からだよ」
私がもうおじさんと呼べるほど若くはないことは言わないでおいた。
私はカップを差し出した。
「いただきます」
若い兵士はコーヒーを少し飲んだあと、砂糖を入れていた。
「そろそろここらも危ないのか」
「すまないね、僕達の力不足で」
周辺の地域には危険区域になると3日前に勧告が出されたばかりだった。人類は20年近く戦争をしている。それも国相手ではなくすでに滅びた国で創り出された生物と戦っているのだ。
「君のせいではないのだ。謝らなくてもいい」
コーヒーマシーンの部品を布で拭いて、簡単なメンテナンスを済ませた。
私は兵士の方へ振り返った。その後ろには昔の店の様子を撮った写真が飾ってある。
「美味かったかね?」
「ああ、とても」
兵士は空になったコーヒーカップを差し出した。
「アンタが最後の客かもしれない。だからお願いがある」
私はそっとコーヒーカップを受け取った。
「死なないでくれ。店の主人として、せっかくコーヒーを入れてやった客が死ぬのは目覚めがわるい」
「分かったよ」
そう言うと最後の客は店を出ていった。
また外の喧騒が中にはいってきた。